反撃

 あの時もそうだった。同じようにセレッタの首筋に爪を突き立てられて、そのまま一瞬で倒された。


 走馬灯のように記憶が過るエルクリッドの身体を刺し貫く衝撃、

自分の中の何かが砕けるような感覚、かつてと同じ感覚が走り抜ける。

 ぴしっと走るように額と首筋に傷がついたかと思うと次の瞬間に鮮血が宙に舞い、悲痛な声で名前を呼ぶノヴァのそれが飛びかけた意識を呼び戻し、エルクリッドは足に力を入れて耐えてみせる。


「おい大丈夫かよ」


「大丈夫、ちょっと派手に血が出ただけ」


 溜り落ちる血を見てもエルクリッドは揺るがなかった。シェダに答える言葉も淡々と、冷静沈着なもの。


 自分でも不思議とは思いつつもカードへ戻ったセレッタをカード入れへ戻し、翼を使って飛行し距離を置いたガーゴイルの姿をエルクリッドはしっかりと捉え続ける。


(セレッタの水牢の中でバスターアックスの一撃を避けきるなんて……オマケに魔法攻撃……どうすれば、勝てるの……?)


 三人がかりの連携攻撃をバエルのガーゴイルは避け切り、そこからの反撃でこちらは全滅へと追いやられる。

 シェダもリオもまだ戦う事はできるとはいえ、またアセスを倒されでもすれば余力はない。


 エルクリッドも次なるアセスを選ばねばならない。戦えるのは幽霊騎士スペクターナイトスパーダかファイアードレイクのヒレイ。

 魔力の事を考えるとここでスパーダを召喚すると余力がほとんどなくなり、ヒレイを出せなくなる。逆にヒレイを出す場合は、急激に消耗してしまうので短期決戦でなければならない。


 しかし、バエルはまだ余力が有り余っている。ガーゴイルを倒したとしてもまだアセスは控えているし、バエルが長期戦に切り替えれば魔力の差で負けてしまう。


(どうすれば……)


 判断に迷う。カードを選ぶ手が止まり思考にも影が差す。


 そんな時、エルクリッドの前へシェダが進んでカードを引き抜き、一人臨戦態勢となって指先へ魔力を込めた。


「エルクリッドとリオさんは少し休んでてくれ。あいつは、俺達で何とかする」


「何とか、ってそんな事……」


 シェダの提案にエルクリッドが反論しかけたとき、隣のリオが咳き込み再び片膝をつく。アセスを倒された衝撃は万全ではない身体にとって大きなもの、エルクリッドが寄り添ってやる形となり、ここはシェダの言う通りにと思わざるを得ない。


「……無理、しないでよね」


「しなきゃ勝てねぇっての。行くぜ、ディオン!」


 フッと笑ってシェダが召喚するは英雄にして魔人ディオン。素早く魔槍を回して構えつつガーゴイルを捉え、シェダも同じように捉える。

 と、何かに気づいて冷静に思考を張り巡らせ、心の中でディオンに語りかけた。


(ディオン、気づいてるか)


(戦いはお前を通して見ていた。メリオダスやタンザ達の努力は無駄にはしない)


 ここまでの戦いでバエルのガーゴイルの持つ能力は大方判明している。名を呼ばぬ召喚であればほぼ全てといっていいだろう。

 とはいえシェダも残るアセスはディオンのみ。魔力も残りもディオンの維持や能力の行使、カードの使用を考えればここで出し切るしかない。


(出し惜しみはしてられねぇ)


 一度も振り返ってはいないものの、雇い主たるノヴァの視線は常に背中に感じている。今どんな顔で見守ってるのかは想像したくはないが、やはり、泣き顔はみたいとは思わない。


(リスナーが持てるアセスは多くて五体、少しでも撃破できれば……!)


(あぁ、勝つ事ができる。シェダ、背中は預けたぞ)


 方針が決まると魔槍を片手にディオンが砂煙を残し一瞬でガーゴイルの背後をとった。神速の動きから繰り出された魔槍の一撃をガーゴイルは素早く反転しながら脇を掠めるに留め、ばっとディオンに向けて右手を広げ石礫の散弾を放つ。


 両腕を交差しつつ後ろへ跳んで攻撃を防ぐと共にディオンは最小限の被害に留めると、ギラリと目を光らせ下から上へと魔槍を回すように振り抜き風の塊を疾走らせる。


「少しはまともな相手らしいな……ツール使用ウインドシールド」


 静かにバエルが使用するはツールカード。ガーゴイルの手に現れた黄色い渦を描く盾がディオンの放った風の塊を防ぎ止め、刹那にガーゴイルは前へ飛び出しそのまま盾でディオンに殴りかかる。

 そこからは一進一退、身軽に攻撃を避けたディオンが目にも止まらぬ連続突きを繰り出せば、ガーゴイルは重厚な見た目に似合わぬ滑らかで最小限の動きで避け切り、再び殴りに行けば砂煙を残しディオンは素早く避けた。


 攻撃と回避のぶつかり合いは止まらず、だが、全力を出してようやく互角という事実にシェダとディオンはあまり良い顔をせず、それでもある瞬間を待ちながら戦い続けた。


(まだだ……あの瞬間を狙わねぇと……!)


 悟られぬように戦うディオンの槍技も気迫が乗り、鋭さを増し、少しずつガーゴイルを捉えていき、そしてウインドシールドを弾き飛ばす。

 が、それと同時にガーゴイルは両手を重ねるように合わせディオンの腹に触れ、刹那に身体を突き抜ける衝撃がディオンを襲う。


(っ……魔法のみならず、体術も扱うか……!)


「ディオン!」


 恐るべきバエルのガーゴイルのさらなる技にディオンが血を吐きながら数歩仰け反る、が、その目の光は消えずに槍を振り抜いてガーゴイルの左肩部分に刃を食い込ませそのまま深く刺した。


「さっき切られた場所は、この辺りだ、な!」


 グッと手に力を入れながらディオンが強く言い放ち、刹那に振り抜く槍がガーゴイルの身体を切り裂く。

 それにはエルクリッド達も目を見開くもの、バエルもほうと感心するように言葉を漏らし腕を組み、二つに分かれ地に伏せたガーゴイルの目から光が消えた。


(自己修復を見抜いていたか)


 淡々とカードへと戻るガーゴイルを戻しながらバエルは鋭くこちらに目を向けているシェダ、そして魔槍を構えるディオンが秘密に気づいていたと理解する。

 その事は休んでいたエルクリッド達も理解ができ、納得しつつシェダとディオンが気付けた事には少しの驚きがあった。


「攻撃は効いてたんだ……でもどうしてシェダはわかったの?」


「恐らくは加減してるのもあって術も不完全であり、修復時に起きたほんの些細な歪みがあったのでしょう。それに気づくとは……」


 自分達にはない才覚。シェダというリスナーと、彼のアセスの力と技を再認識しつつエルクリッドとリオは立ち上がり、カード入れへと手をかけた。


 反撃はできた、だが、バエルからは余力が十分にありこの戦いはまだ続くと静かに予感しながら。



Next……

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