圧倒
エルクリッドがカードを引き抜いた瞬間、バエルが召喚したガーゴイルが力強く地を蹴ったかと思うと一瞬で宙空へ飛び出し、太い腕に備わる鋭い爪を閃かせながらシェダのメリオダスへと迫る。
目にも止まらない速さにシェダもメリオダスも対応ができず、何とかメリオダスが翼を交差し防御態勢をとった瞬間にガーゴイルの爪が何かに弾かれ、紙一重で攻撃は当たらなかった。
「スペル発動プロテクション、気をつけて、絶対目を離したりしないで!」
「エルクリッド、すまねぇ。メリオダス!」
一度戦ったからわかった攻撃に即応したエルクリッドだが、一切の気は抜けずすぐにカードを引き抜きつつガーゴイルから目を離さないようにと意識を強めた。
シェダもメリオダスの名を呼んで闘志を高め、より高く飛んで距離を取る事で追撃を防ぐ。
一方で着地するガーゴイルの背後にリオのアセス、クー・シーのランが背負った大剣を抜きながら迫り素早く剣を突き刺しに行く。
が、ガーゴイルはすっと身体をそらしつつ太い腕の表面で剣を受け流し、ガシッとランの頭を掴むと力強く空へと放り投げる。
間髪入れずにガーゴイルが跳躍しその重々しい身体をランにぶつけんとするが、これは大剣を構えて盾代わりとする。その瞬間、響く鈍い金属音が剣から伝わる衝撃と共に全身を貫いた。
(なんという、力だ……!)
似たような攻撃は幾度も受け止めてきた。だがそれらを遥かに上回る衝撃にランの手は痺れ、感覚がないままに大きく弾き飛ばされる。
上空のメリオダスがランを足で受け止めたものの、それでも衝撃は殺し切れずに大きく仰け反る形になってしまう。
「ラン、無事か!」
「問題ない!」
呼びかけに答えた声の強さから戦闘続行可能とリオは判断するが、あまりの力の差に額に汗が流れた。
最強のリスナーのアセスもまた最強、百戦錬磨の風格は本物であり、全力どころか半分にも程遠いとなれば戦慄しかない。
刹那、ランへ追撃せず着地するガーゴイルへエルクリッドのアセス・チャーチグリムのダインが迫る。
着地直後という僅かな隙を突いて飛びかかり噛みつきに行くが、さすがに石像の魔物たるガーゴイルの身体は硬く、だがエルクリッドはカードを二枚引き抜き魔力を込めカードの力を解き放つ。
「スペル発動ビーストハート! そしてアースバインドッ!」
スペルカードより雄々しい獣を象る光がダインに宿り、瞳に光を灯し地を滾らせ闘争心を駆り立てる。
片やガーゴイルの足元が割れて木の根が幾重にも伸びて巻きつき、身動きを封じダインへの反撃を防いだ。
スペルカードの同時使用、攻防一体の支援はリスナーの基本戦術である。
ダインの牙がガーゴイルの硬い表面に突き刺さり始め、何度も噛み付く事で徐々に表面を削っていく。
「シェダ! リオさん!」
呼びかけに応える形でシェダはメリオダスと、リオはランと心を合わせ狙いをガーゴイルに定め攻めに転じる。
身動きを封じられた所への集中攻撃。だがエルクリッド達の警戒も強かった。
「やはりこの程度か」
ぽつりとバエルがそう呟いた瞬間にそれは起きた。
何が起きたか理解するのに時間がかかるとはこの事か、エルクリッド達のアセス達が何度も身体を打ち付けながらそれぞれのリスナーのすぐ前まで吹き飛ばされ、身体をけいれんさせよろめきながら立ち上がらんとする姿。
瞬きほどの刹那に何が起きたのかノヴァはわからなかった、だがエルクリッド達はほんの僅かの恐るべき瞬間を捉え、思考が追いついた時には背筋を凍らせた。
(アセスを同時に一撃だなんて……!)
アースバインドによる木の根を引きちぎったガーゴイルはまずランのみぞおちへ掌底の一撃、次いでダインを片手で投げ飛ばしメリオダスに命中させ対処した。
それを的確に素早く、カードの支援どころか一切の指示もなくガーゴイルはこなした。何より、仁王立ちしたまま何もしないバエルはそれをわかっていたと思え、リスナーとアセスの繋がりも強固なのを示された形でもある。
「ダイン、大丈夫?」
声をかけながらもエルクリッドの心の動揺は消えず、それはシェダとリオも同じ。リスナーにとってアセスとの強固な繋がりを示すのは重圧そのもの、容易ならざる相手と認めざるを得なくなり、それを上回るものを示さねばと駆り立てられてしまう。
強さのみならず心理的にも圧をかけてくるバエルはまさに強敵そのもの。勝利の糸口など見えるわけがない、が、それで折れるエルクリッド達ではない。
(どうやって倒す……? 全く消耗がないわけではなさそうですが……)
静かにリオは分析する。スペルで強化されたダインの噛みつきで削られていたり、ランの剣を受け流して対応した事からバエルのガーゴイルは無敵というわけではないという事を。
血を吐きながらも立ち上がったランは呼吸を整えつつ、剣を構え闘志を燃やす。
「メリオダス、休んでてくれ」
倒される前にとメリオダスをカードに戻すシェダは心を熱く燃やす。伝説のカードを求めるならばいずれ強者と相対する事になり、やがてバエルのような相手とも戦う時がある。
勝てる見込みはほとんどない、だが諦めるという選択肢もない。
「ダインもお疲れ様。あなたの分も、あたし達は頑張るから」
エルクリッドもダインをカードへ戻し、白黒となったカードをしまいながら息を吐いてバエルを捉えた。
かつて相対した時はほとんど何もできなかったが、今は冷静に何をすべきか、どのカードを使うかがわかる。
そして同時に、バエルもまた自分達の気迫に対し応えているようにも思え、対リスナーにおける心構えは頂点に相応しいと認めざるを得ない。
(でも、許せない……!)
全て奪ったのもまた事実、その怒りが勝り闘志となる。だが冷静にと自らに言い聞かせながら、エルクリッドは凛とし次のカードを引き抜いた。
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