獣剣乱舞

 挨拶代わりといった攻防はほぼ互角、ニ対一の状況の中でエルクリッドと水馬ケルピーセレッタはリオの実力を改めて感じつつ、クー・シーのランとケット・シーのリンドウの強さもまた素晴らしいと思えた。


(アセスの二体同時召喚デュオサモンは魔力の消費も多くなるけど、それをするって事はリオさんは十分な魔力を持ってる……これで万全じゃないって、ホントすごい……)


 アセスの召喚、維持、能力の行使、リスナーの魔力の中でその管理をし魔力が多い程できる事も増えていくし、少なければあえて節約する方法もある。

 高等術は強力そのもの、しかし魔力の面で不利益を被る事が多い。使う場合は経験が浅いか、理解し使いこなしているか。リオが後者なのは言うまでもなく、それでいて万全でない事は戦慄するしかない。


 だがそれはエルクリッドにとって、喜ぶべき出会い。目指すものに向かう為に強い相手を望み、今、目の前の麗しきリスナーはその相手と言える。

 勝てればまた一つ強くなったと自信に繋がり、確かな証として心に刻まれ闘志はより燃えて赤の瞳は輝きを増す。


 道を求めて戦う事になったリオもまた、胸が高鳴る感覚に心が躍る。いつ以来の感覚か、初めて覚える心地良さもある、自分が求めるものを忘れこの戦いを楽しみたいと思う自分がいた。


(楽しい、な。だから全力を出したいと思える)


 正直デュオサモンを使う余裕があるとはまだ言えない。それでも全力をと思えたのは目の前のリスナーの闘志に応えたいと思えたからか。

 救ってくれた恩人に対する敬意、リスナー同士の敬意、そして何より、カードをもって対話をするのが最大の礼儀と。


「ラン、リンドウ、攻め方を変える。ツール使用フレイムジャベリン」


 静かにリオが引き抜き使用するカードから何かが宙へ飛び出し、そして突き刺さるは炎を刃に纏う槍だ。

 それを掴むのは剣を鞘に収めたリンドウ。ランは引き続き自らの剣を武器とし姿勢を低く構え攻撃態勢へ移る。


 使われたツールカードの武器にエルクリッドの心が少し乱れかける。がすぐに冷静になりカード入れのカードを指でなぞり、セレッタも合わせるように全身に力を入れ構えた。


(セレッタは水属性……火属性の武器はちょっと相性よくないけど……)


 四大属性は相反するもの同士では互いを消滅させ合い、力の勝る方に負けてしまう。火と水、地と風、その組み合わせはリスナーの戦いにおいても重要なもの。

 そしてツールカードは破壊してしまえば消滅する。二対一の戦いに新たな要素が加わった事でリスナーの現在進行形戦略構築思考能力は加熱する。


 刹那、先に仕掛けたのはセレッタ。宙空に渦巻く水をいくつも作り出すとそれをそのまま螺旋の濁流とし、生き物のようにランとリンドウ目掛けて放つ。


「凄まじい水魔法だな、だが負けはせぬ!」


 セレッタの魔法を称賛しつつ前に出たランが手にする幅広の剣を両手で持ち、力強く踏み込みながら渦の一つを真一文字に断ち切る。

 同じように近いものから順に剣で切り裂いてみせ、水滴が作り出す道を疾駆するは炎の槍を持つ猫剣士リンドウ。


「スペル発……」


 カードを切ろうとしたエルクリッドだったが、リオの手の動きを見て使用をやめセレッタもそれに呼応する。

 目の前に水の壁を作り出すと構わず突っ込むリンドウが壁を槍で貫き、しかし手応えのなさからすぐに後ろへ飛び退いてから右、左と目を向けてからその場から飛び上がり足下を突き破る水の槍を回避する。


「へっ、スケベなだけと思ってたが……水の馬ってのもやるじゃねぇか!」


 ニヤリと笑みを浮かべながらリンドウは真上を向き、高く跳んでいたセレッタの姿を捉えつつフレイムジャベリンを投げつける。

 そしてそのまま炎の槍がセレッタの身体を刺し貫く、が、パァンと弾けるようにセレッタの身体は水滴へと変わり、水による囮とリンドウが感じた瞬間にランの声が飛ぶ。


「リンドウ前だ!」


 咄嗟に剣を抜いたリンドウだったが正面より迫った水流の渦は避けられず、そのまま飲み込まれながら天高く巻き上げられ放り捨てられる。

 落ちてくるリンドウを受け止めたランは自身に迫る水の矢の雨を避け、剣で防ぎ、掠めながらも何とかしのぎリオの前でリンドウを下ろす。


「犬公に助けられったぁやきが回ったぜ。だがこれでわかったろリオちゃんよ」


「あぁ、大方な。まだやれるか?」


「リオ、こいつはやれないと言う性格ではない。次で決めるぞ」


 首を横に振りながら帽子の位置を直すリンドウは消耗こそしてるが闘志はさらに燃え上がり、静かにランもまた同じように剣を構えつつセレッタを捉えていた。

 それを見てエルクリッドは一連の攻撃がこちらのカード捌きを、そしてセレッタの動きを見極める布石と気づき静かに汗を流す。


「エルクリッド、大丈夫ですか?」


「魔力の方はまだ大丈夫。でも、ここから大変かな」


 焦りの色や恐れはない。しかし余裕がないのはセレッタも感じ取れた。

 間合いに入らぬように先手先手で魔法で攻めているが、ランの剣技の前にことごとく水魔法は打ち破られてしまっている。


 その上でランとリンドウのリスナーであるリオはカードをほとんど使っていない。こちらの見極めをする為にあえてそうしなかったとなれば、次の攻めからはカードを使ってくるだろう。

 と、セレッタが思案を終える前にランが走り距離を詰め始め、エルクリッドも咄嗟にカードを引き抜くもリオが先手を取った。


「スペル発動フレアバインド!」


 円で囲うように炎が発生、その中に閉じ込められる形となったセレッタがすぐに魔法で消火しようとするも既にランが距離を詰め、二者択一を迫られる。

 が、させまいとエルクリッドがすぐに動いた。


「スペル発動アクアフォースッ!」


 水属性の強化スペルを使い、セレッタが嘶きながら身体を持ち上げ力強く前足を叩きつけると、そこを始点にいくつもの水柱が庭を突き破り巻き起こる。

 消火しつつランの行く手を遮り反撃、だが、スルスルと機敏に柱の合間をすり抜けリンドウがセレッタに近づく。


「スペル発動アサルトミラージュ!」


 追撃するリオのスペルカードにより疾駆するリンドウの姿が半透明となり、その姿が三人に増え同時に迫る。

 幻惑攻撃スペルと呼ばれるカード効果にセレッタは面で攻める事を考えるも、ここまでにエルクリッドの魔力を使ってしまってるのもあり判断に迷う。


(ここで止めるか、だがしかし……)


 止める事はできてもさらなる追撃を畳み掛けられれば後はない。決めるにしても、ランとリンドウを同時に倒さねば連携は断ち切れない。

 

 刹那の思考は刹那の隙、そして、刹那の言葉は何よりも背中を押すものとなる。


「迷わずやっちゃえセレッタ!」


 聞き慣れたよく通る声、自分が仕える麗しきリスナー。その後押しがセレッタの迷いを振り払い行動へと繋ぐ。

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