熱き波濤
今目の前で行われてる戦いは未来への標を見つける為の戦い、同時にそれが同じカードを操る者に対する敬意と熱意のぶつけ合い創り上げるものと、見守るノヴァは感じ手に汗握る。
(これがリスナー……いつか僕も……)
同じリスナーのシェダもカード入れに手をかけつつも、今にも飛び入りしたくなる心をぐっと抑えて見守り続ける。それもまた同じ力持つ者として礼儀というもの。
隣にいるノヴァの目を輝かせる姿には共感できる。尚更、ここで飛び出すのは少々大人気ない。
(……あの時も、楽しかったな)
リックランプの街での一戦を思い返す。いがみ合いぶつかり、自然と相手の事を理解しながら水を差さずアセス達の戦いを見守り、戦い抜いた。
賢者リムゾンが言ったような存在かまではわからずとも、エルクリッドというリスナーの資質が確かなものというのは認めねばならない。
ーー
心が沸騰し昇華するかのように、
自身の前に雫を集め球状に固め、それを凝縮し迫るケット・シーのリンドウを引き付ける。
何かある、とわかっていてもリンドウは突っ込み自身が受けていたスペルの効果が切れると同時に剣を振り抜き、刹那にセレッタは凝縮した雫を解放し凄まじい激流をリンドウへと放つ。
「スペル発動プロテクション!」
咄嗟にリオがプロテクションのスペルを発動し、リンドウの眼前に半透明の壁が現れ激流を防ぐが、その威力に壁ごとリンドウは後ろへと押され始めクー・シーのランがすぐに壁を押し止めんとリンドウと共に歯を食いしばる。
「ラン! リンドウ! 耐えろ!」
「承知!」
「言われずともだ!」
凄まじい威力の魔法が示すのはそれが最後の一手ということ。耐え凌げばその後の好機があるとリオも二人のアセスも理解し、気迫が行動となり雄叫びとなり戦いの場に木霊する。
セレッタもここが正念場と魔法を使い続け手を緩めず、エルクリッドも激しく消耗される魔力の事など気にせずカードに手をかけた。
「勝つよセレッタ! スペル発……」
心は最高潮、高鳴る鼓動は燃えるよう、その中でエルクリッドは満面の笑みと燃え盛る闘志宿す眼でカードを切る。
が、プツンと糸が切れたようにエルクリッドが膝から崩れ落ち、直後にセレッタの姿も魔法も薄れ消え去ってしまう。
魔力切れによる失神、相対していたリオはそう理解しながらも息を切らすランとリンドウも満身創痍であり、やがて倒れたのを見て小さく息を吐く。
「二人共、ゆっくり休んでてくれ」
元々勝ち負けを決めるものではないとはいえ、形式上は相討ちといったところ。
決して弱音を吐かず諦めず、真っ直ぐな眼でアセスを信じ戦い抜いたエルクリッド。アセス二人をカードに戻したリオは自分の手がぶるぶると未だ震え、力強く握って尚治まらない。
(今は私の方が少しだけ……だが、いずれは……)
何となくではあるが賢者リムゾンの言葉がリオには理解できた。道を選ぶ為にカードを交えたエルクリッドを通して自分が選ぶべき道、可能性を。
整理がついてないものもある、それでも今は、と、はっと起き上がり戦いが終わったのを察したエルクリッドを捉え、がくんとうなだれる彼女の方へと足を進める。
「うー……負けちゃったぁ……」
「ほとんど相討ちだった、落ち込まなくてもいい……です」
両膝を立てて蹲るエルクリッドの前に来て手を差し伸べながらリオは声をかけ、顔を上げたエルクリッドが目元を赤くし潤ませているのに少し怯む。
戦いが終われば少女の側面、戦いとなれば熱き波濤の如きリスナーの側面。だがそれは表裏ではなく、全てエルクリッドという一人を表す。
差し出された手を掴みエルクリッドは立ち上がるも少しふらつき、だが何とか足を伸ばしリオに微笑みを見せ、あ、と何か気がついて目を大きくしながら周囲を見回し始めた。
「の、ノヴァ達のこと気にせず戦っちゃった!」
「心配しなくても大丈夫、はじめからここには結界が張られてましたよ」
「あ、そうなんですね。よかったぁ……」
慌て、落ち着き、肩を撫でおろす。そんなエルクリッドの見てて飽きないと感じる姿に思わずリオはクスッと笑ってしまう。
それも踏まえた上でエルクリッドの所へ駆け寄って来たノヴァに目を配ってから、口を開きかけるもここでエルクリッドが再び白目を剥いてがくんと倒れてしまった。
すぐにリオが支えたものの、よほど疲れたのかエルクリッドはすーすーと寝息を立てて眠っており、流石に苦笑いせざるを得ない。
(こんなふうに、素直になれれば、な……いや、だからこそかもしれないか)
微かに思うものがある。だが今はと思い麗しきリスナーは気持ちを切り替える。
賢者の導きにより、確かに道は見えたから。
next……
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