道を求めて
賢者リムゾンに導かれた庭に相対するは二人のリスナー。自分の頬をパンッと叩いて気を引き締めるエルクリッドはふーっと息を吐きながらリオの姿を捉え、腰のカード入れに手をかけた。
しなやかな肢体に巻かれた包帯を服の下から覗かせ万全とは言えないリオ。しかし、肩幅に足を開きまっすぐこちらを捉える姿は凛々しく、気品すら漂う佇まいは美しい。
それでいて静かに瞳の奥で滾る闘志を秘めてるのは、彼女が紛れもなくリスナーという証だ。
(もし万全なら、きっと……)
静かにエルクリッドの額に汗が流れた。見守るノヴァとシェダも張り詰める空気に固唾を飲み、少し離れてタラゼドとリムゾンがそれを見つめていた。
回廊を流れる風が止むと共に麗しき二人のリスナーがそっとカードを引き抜く。指先に魔力を込めた時、リオのカードは二枚という事にエルクリッドは気がつく。
(二枚……まさか!)
「デュオサモン、ラン! リンドウ!」
二枚のカードより放たれるは青き光と赤き光。それぞれがリオの手前に落ちて弾くように現れるは青のマント持つ犬の剣士と、赤き帽子を被る猫の剣士。
二体のアセスを同時召喚するリオのその術はエルクリッドのみならず、ノヴァ達も驚かせるものだ。
「デュオサモン! 二体同時召喚する高等術を使えんのか……!」
「高等術! 聞いたことがあります、相当実力がなければできないって……」
「いくつかある高等術の中でもデュオサモンは一番難しいって言われてる……リオさん、相当強いな」
同じリスナーだからこそわかるもの。高等術を扱う事がどれほどかと。
万全とは言えないにも関わらずそれをこなすとなれば尚の事、だがエルクリッドはニッと口元に笑みを浮かべ自分のカードに魔力を込め高く掲げアセスを呼ぶ。
「仕事の時間だよセレッタ!」
高らかに名を呼ばれ流水と共にしなやかなる
「ほんっと美人ってなると見境ないよねセレッタ。怒るよ?」
「美しいものに目がないもので……いえ、失礼しました。貴女が一番麗しいですよエルクリッド」
目を細め頬を膨らませていたエルクリッドだったが、ひとまずセレッタから謝罪が聞けたので臨戦態勢へ戻りカード入れに手をかけつつ、リオが呼び出すアセスの種類を分析に入った。
(クー・シーにケット・シー、亜人の戦士……いい顔してる)
エタリラには人間以外に文化を作り暮らす種族もいる。その中には魔を宿しアセスとなる者も少なくはない。
クー・シーは犬獣人、ケット・シーは猫獣人。義に厚い前者と気紛れなる後者は相反するが、どちらもリオとの信頼関係が築けてるからかこちらを捉える眼差しは落ち着き、静かに闘志を秘める。
ニ対一、数の上では不利であれど卑怯とはエルクリッドは思わず、そういう戦いもあるのは学んでいる。大切なのは使える術をどう活かすか、どう攻略し勝利へ繋ぐかだから。
対するリオはというと、じっとエルクリッドの手袋の甲に画かれる紋章を見つめていた。三日月を囲む四つの線、メティオ機関の証を。
(彼女はやはり……)
思うものはある、だが今はと切り替え深呼吸をしカード入れに指を添えて自らのアセスへ声を飛ばす。
「ラン、リンドウ、手加減は無用だ」
「心得た。しかし……」
「私の心配はしなくていい。あんな目で見られたら……私も手を抜けない」
クー・シーのランがリオの言葉を確かめるようにエルクリッドに目を向け、その佇まいと真っ直ぐな眼にすぐに理解する。
堂々と相手を捉える眼差しは炎のよう、全力で相対そうとする姿勢が伝わり見てるだけで闘志を駆り立てられる姿にリオが応えようとするのは無理はないと。
かたやランの隣、ケット・シーのリンドウは細身の剣を抜きながら口笛を吹き、ヒゲを軽く触ってからリオの方へチラリと目を向ける。
「麗しき戦士たるリオちゃんが熱くなるなんて珍しいな。ま、適当にやるさ」
「軽口を叩くのはいいが油断はするな」
「わーってるよ」
生真面目さが伝わるランに対し軽い口調のリンドウ。性格は全く正反対だなとは遠目でエルクリッドも見てわかるが、同時に、こちらを捉える二人の眼光は戦士のそれであり気を抜かせない。
それはリオの方も同じ事。静かに足下に水を貯める
エルクリッドの姿勢と併せて確かな信頼、それに対し心が騒ぎ血が滾らされる心地良さ。武者震いとなり表れる感覚は、戦いへ心を躍らせる香辛料だ。
静寂が続く中でリンドウが剣先で敷き詰められる小石を高く飛ばし、やがて落下したと同時に二人の獣戦士が疾走り出す。
セレッタもぐっと身体に力を入れながら逆巻く流水を現出させ、疾駆するランとリンドウを捉え高波を巻き起こし一気に制圧にかかる。
「おい犬公! 任せるぞ!」
「その後はお前の仕事だ、ぬかるなよ!」
声をかけ合って足を止めたリンドウが数歩下がり、対しランは背負う剣を抜きながら高波へと向かっていく。
真正面から突っ込むのには高波越しにエルクリッドとセレッタも目を見開くが、刹那、ランが下から上へ剣を一閃。走る閃光と共に高波が切り裂かれながら二つに崩壊、霧散し数多の水滴が光に当たり輝く瞬間、一気に間合いを詰めたリンドウの剣先がセレッタの眼前に迫った。
「スペル発動プロテクション!」
すんでの所でエルクリッドがカードを切り半透明の壁がリンドウの剣を防ぎ、舌打ちしつつ宙返りでリンドウは後退しセレッタが追撃する前に距離を取る。
刹那にリンドウの真後ろからランが飛び上がりなが剣を掲げ、セレッタも貯まる水に意思を込め剣山のように展開し接近を阻止し、咄嗟に空中で身体を捻りランは剣山に落ちるのを防いで着地すると一旦攻防が終わるも緊張状態は続く。
(やっぱり強い……!)
手を握り締めながら確信するエルクリッドは笑みを浮かべながらリオを捉え直す。嬉々する心の高鳴りは血を沸騰させるように、体温の高まりは闘志を駆り立て燃やすように。
リオも同じ。初めての感覚、懐かしき感覚、純粋に勝負という場に自然と笑みをこぼす。
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