カードを通して
白き影が地を走り、青き影が空を舞う。エルクリッドが召喚したチャーチグリムのダイン、シェダが召喚したビショップオウルのメリオダス、どちらも致命打を与えられずとも集中力は研ぎ澄まされ双方のリスナーもまたそれは同じ。
(なかなか、攻め込めないな)
リスナーの役目はアセスの支援。カードを使いそれにより戦いを制する。
だがリスナー同士の戦いの場合は駆け引きが発生し、カードの采配から思考を読まれないようにするか、読んだ上で相手を上回らねばならない。
アセスの実力が互角となればあとはリスナーの采配が勝敗を分けるが、エルクリッドもシェダもカード入れに指先を触れながらもすぐには抜かずにいた。ここぞという機会を虎視眈々と狙っている、それは戦い方が似てる事を暗に示す。
(まさか、ね……)
ふと脳裏に浮かぶ事があったが、エルクリッドは戦いに集中し考えを振り切る。
ダインは勇敢に戦ってくれている、だが相手のメリオダスは空を飛んでいることもあり攻撃を仕掛けるにも跳躍の必要と、その際に大きな隙を晒してしまう。
補う必要はあれども、相手もそれはわかっていること。逆もまた然り、エルクリッドはメリオダスが足の爪と握力を武器としそれ以外の攻撃手段はないと見抜く。
またシェダは直接攻撃のスペルを何枚か使った事から戦術は攻撃寄りというのもわかる。さらに推測を進めれば、アセスの傾向も見えてくる。
(多分メリオダスって子は本当は戦い向きじゃない。でも出したってことはあたしの采配を見る為の偵察役……)
相手を倒せればそれで良し、倒せずともカードを把握できれば次に繋げられる。対リスナーを想定しつつも、アセスに無理をさせない戦い方はエルクリッドはよく知っている。
やはり、と、何かを悟りつつカード入れよりカードを二枚引き抜き、応えるようにダインがエルクリッドの前まで退き身を屈めた。
「スペル発動アースフォース! 決めに行くよダイン!」
引き抜いた二枚うちの一枚のカードより放たれた緑の光がダインを包み、空高く遠吠えをするダインもまたエルクリッドに応えんとその力を纏う。
シェダはエルクリッドが攻めてくる事、そしてもう一枚をすぐに使わない事から何のカードかを考えつつ、自分もカードを引き抜いて構えた。
(ブレイク系か……それとも……だが考えたって仕方ねぇ!)
迷えば手元が狂い判断も遅れる。シェダもまた指先に魔力を込めてカードを掲げ、呼応したメリオダスが天高く飛ぶ。
「スペル発動ウィンドフォース! 真っ向勝負なら受けて立つ!」
黄色の光を纏うメリオダスが急降下、鋭い爪を閃かせて猛進するダイン目掛けて攻めかかる。アセスを強化するフォース系のスペルを受けた力と力のぶつかり合い、勝敗を決する真っ向勝負にノヴァ達も固唾を飲み手を強く握り締めた。
ダインとメリオダスがぶつかるその刹那に、エルクリッドは二枚目のカードに魔力を込める。
「スペル発動プロテクション!」
「なっ、防御スペル!?」
ダインとメリオダスの間に現れる半透明の膜がメリオダスの攻撃を弾き、それにはシェダも目を大きくし周囲から驚嘆の声が上がった。
だがシェダはメリオダスと同様にダインも激突し弾かれているはずと気持ちを落ち着かせたが、その直後に目に映る光景に落ち着いた心はすぐに緊張へと落とされる。
「うちの子なら、問題ないよ!」
体勢を崩すメリオダスに対し、ダインはプロテクションの膜にぶつかる事なく停止し、すかさずメリオダスへ飛びかかっていた。
攻撃に繋ぐ為の防御スペル、流石に避け切れないと感じながらもシェダは素早くカードを引き抜く。
「ちっ、スペル発動エスケープッ! 戻れ!」
ガキンッとダインの牙が中空で打ち鳴らされ、着地した時にはメリオダスの姿はなくきょろきょろ周囲を見回しダインは首を傾げた。
エルクリッドは小さく舌打ちしつつシェダの手元に握られるメリオダスのカードを捉え、瞬時に彼が倒されるのを防いだのを察する。
(ブレイク状態よりもダウンのがマシだけど、あの攻撃の中でよく判断したな……やっぱり、あの人の……)
ブレイク状態はアセスが撃破された状態、ダウンは疲弊状態を指す。今回は
対してダウンならば召喚できなくなるのに変わりはないものの、ブレイクよりはその期間は短く済む。エスケープは強制的にカードに戻しダウンさせる離脱スペル。
エルクリッドもそれを想定し驚く一瞬の遅れを狙ったものの、シェダは紙一重でエスケープの使用が間に合った。
これで一つ確信した事がエルクリッドにはできたものの、まだ戦いは終わりではない。
「わりぃなメリオダス、休んでてくれ」
メリオダスのカードに労るようにそう声をかけてカード入れへ戻すシェダ。深呼吸をして新たなカードを引き抜き、エルクリッドを捉える眼に宿る闘志は未だ燃えていた。
「ダイン、ご苦労様。戻って」
エルクリッドも自分の前に戻ったダインを撫でてからカードに戻しカード入れへ。
静かに流れる汗、先程までとは違う空気がシェダから流れてくるのを感じ、だが気圧されずに新たなカードを抜いた。
「次は負けねぇぞ。お前が強い相手ってのはよくわかったからな……」
「それはどうも。あたしも、あんたの実力は認めるよ」
張り詰める緊張感は炎をかき消し全てを凍てつかせるよう。二人のリスナーは互いに相手を認めながらも集中力をさらに深く、強く、そしてカードに込める思いを最大限にしながら次なる戦いへと心を進めた。
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