魔人と騎士
エルクリッドとシェダ、二人の若きリスナーの戦いは続く。
相手の虚をつく形で仕掛けたエルクリッドだったがシェダはそれを上手く回避、次なるアセスが宿るカードに魔力を込めた。
「誇り高き魔槍の使い手よ、その疾き技で勝利を貫け! 頼むぜディオン!」
シェダの詠唱と共に逆巻く風が吹き、その名と共に真一文字に断ち切られ現れるは青白い肌を持つ灰色の軽鎧騎士。
手には美しくも何処か禍々しい槍を持ち、整った顔つきは凛々しく勇ましい。
人間と変わらぬ存在、しかしその身に秘めた力は魔物と変わらず上回る魔人と呼ばれし存在。沈着冷静な佇まいから実力が伝わり、エルクリッドも一歩引いてしまう。
(強い……なら、あたしも……)
召喚するつもりだったセレッタのカードをカード入れへゆっくり戻し、指先で触れるのはヒレイのカード。一番実力のあるアセスで勝負をつけねばならないと思わせる魔人ディオン、エルクリッドがカードを抜きかけた時に心へと語りかけてくるアセスがいた。
(エルク、ここは私が)
(スパーダさん!? でも……)
(ダインを好きにさせすぎてヒレイを呼ぶ余裕はもちろん、セレッタの馬鹿に魔法を使わせる余裕もないでしょう。ですから私が引き受けます)
語りかけてきた
息を軽く吸って吐きながら退いた足を一歩前へ進め、指先の魔力をカードへ注ぎつつ凛とし前へと突き出しその名を告げる。
「お願いします、スパーダさん!」
静かに流れるは金色の風。幻想的なる息吹の中に佇むは勇ましき黄金の鎧騎士スパーダ。
身の丈程の大剣を突き立て堂々と構え全身を鎧で固め素顔もわからぬ姿は威圧的、されどそれは恐怖を煽るものでなく、誇り高さ故のもの。
剣を肩に担ぐように持ってゆっくりとスパーダは前へと歩き、相対する魔人ディオンもまた同じように進み
「亡国の英雄ディオン殿とお見受けした。あなた様の活躍の程は生前よく聞いておりましたが、このような形で会う事になるとは思いもしなかったです」
「そちらもその姿……誇り高き騎士団長と名高いスパーダ様、で間違いなさそうだ。人であった時代の英傑と会えるとは」
スパーダの丁寧な口調にディオンも応える形でフッと笑いながら答え、同じ時代を生きた者との再会に驚きつつもゆっくり武器を前へ向ける。やがて剣と槍、武器と武器の刃を合わせつつ再度互いを見つめた。
「我らは共にかつての時代から現代に残ってしまった者、だが今は……」
「えぇ、今は互いに義を尽くす者として、アセスとして戦いましょう」
穏やかな言葉を交わし軽く刃同士をぶつけた刹那、騎士と魔人は目にも止まらぬ速さで武器を振るい素早く後ろへ跳ぶ。
互いに鎧の腹部分に切り傷をつけ、だが動じずに一歩踏み出すと再び神速の技がぶつかり合い火花を散らしながら快音を響かせ、繰り返し、全てを圧倒し魅了する力と技の共演。
いつになく自分のアセスの技が冴えてるのはリスナーがよく理解する事、昂りながらも冷静かつ激しく武器を振るいぶつかる姿は何処か活き活きとし、他の付け入る余地を与えない。
(スパーダさん……いつもより、楽しそう)
凄まじい速さの槍の突きを剣を、あるいは鎧を上手く使いスパーダは受け流しながら距離を詰め軽々と振るう大剣の一撃を放つ。
これに対しディオンの方は素早い身のこなしで避け、素早く槍による反撃を繰り出し距離を開かせ、そのまま攻勢へ転じ少しずつだがスパーダの鎧を削っていく。
実力は互角と言いたいが、エルクリッドはこちらが不利と読む。それはスパーダの特性もあっての事、喜々し戦いに望む彼女の思いを尊重しながらもどのカードをいつ使うか思考を張りめぐらせ、虎視眈々と機会を待つ。
似た事はシェダも考える。相手の特性を見抜いて楽しみながらも勝利を目指すディオンだが、彼の冴える技が閃く度に魔力は消費されている。アセスが最大限力を発揮するにはリスナーの魔力が必要、アセスが強ければ強い程、研鑽し練磨した実力を示せば示す程に。
(エルクリッドって奴も、そのアセスも強えな……師匠以来か、そう感じる相手は……!)
自然と口元に笑みが浮かぶ。生意気な女と思えた相手を一人の実力あるリスナーと捉えてると自覚し、持てる全てをと促される。
一気に勝負を決めたい気持ちもあれば、もう少しこの戦いを楽しみたいとも思える。その心の明るさはディオンにも伝わり、だが手は抜かずに激しく荒々しく鍔迫り合い、掠め合い、闘志は極限に研ぎ澄まされていく。
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