審査ーContactー

展覧会

 大きな街は人が集まる。人が集まれば商いなども交わされ、時に競い合い時に酒を酌み交わす。

 見知らぬ者との出会いは過去から続く伝統のようなもの、何処で出会えるかは運次第。


 エルクリッド達の場合は古美術展覧会へ出会いを求めた。その為に、リックランプの街北側区画に建つ美術館へと足を運ぶ。

 遥か昔からこの土地は人が集まり、年月を経て姿を変えながら今も拠点都市として成り立っている。土に眠るかつての姿を発掘調査するにあたり、そのまま展示物とし屋根を作り美術館にしたという。


 受付を済ませ静かな雰囲気の美術館内。磨かれた大理石で覆われた空間にノヴァが目を輝かせながら絵画を見て回り、さらに別の美術品を見に行っては再び最初へ戻るを繰り返す。

 それをすぐ後ろでエルクリッドは見守りつつ、ニコニコとしているタラゼドの方へちらりと目を向ける。


「いつもあんな感じなんです?」


「えぇ、ですから誰かが見てやらないといけません」


 単純に子供の一人旅が危ない、というわけではないのを改めて理解したエルクリッドがノヴァの方に目を向け直し、いつの間にか更に進んでいたので少し慌てて後を追う。

 現在いるのは通常の展示を行っている区画、人は多くなく身なりを確認しリスナーかどうかを確かめるのは容易い。


 だが今の所リスナーはいない。エルクリッドにとっても静かな雰囲気というのは少し落ち着かないものの、これも仕事と言い聞かせながらノヴァにしばし付き合う事に。



ーー


「はぁ〜……どれもすごかったですね、エルクさんもそう思いませんか?」


 キラキラとした眼差しで明るく訊ねてくるノヴァに、エルクリッドはやや引きつった笑いをしつつ何とか応えた。


(本命見る前に数時間潰すとは思わなかった……)


 底なしの好奇心の恐ろしさを感じながらもようやく、と思いつつも、また数時間待たされるのかとも感じ背筋が凍るエルクリッド。

 とはいえ、長い時間をかけたおかげか人は来た時より増え、来た時のようにノヴァも自由に動く事はないだろう。当然、人が多くなれば目当てのリスナーとも巡り会える可能性が高い。


「ほ、ほらノヴァ、早く次のもの見に行こ! 仕事に協力してもらえそうなリスナーいるかもしれないしさ!」


「はい! 良い物も見て、リスナーも見つけましょう!」


 素直で無邪気な笑顔と手を握りぐいぐいと進むノヴァにエルクリッドは終始流れを奪われ、その様子にはタラゼドも苦笑するしかなかった。


 通路を進む先に広がるのはこれまでとは異なる空間、骨組みが剥き出しの高い天井と屋根、その下に段々となっている窪地、否発掘現場がそのまま利用されているという場所だ。

 落下防止の年季が入った縄柵も味わいをより深め、橙色に近い魔法光の灯りもまた演出に一役買っているよう。


「これはすごい……」


 遺跡に興味がなかったエルクリッドも思わずそう漏らす程に、確かなものが心で理解できる。無論ノヴァの興奮も最高潮らしくよりいっそう目を輝かせて見に行こうとするも、ひょいと首根っこを掴まれるようにしてタラゼドに抱えられ阻止される。


「落ち着いてくださいノヴァ。本来の目的もお忘れなく、ですよ」


「わ、わかってますよ!」


 穏やかな口調のタラゼドにややむきになって答える様は年相応、その振る舞いもまたノヴァの側面と思いつつ、エルクリッドは周囲を見渡し展示物を確認しながら来ている人々を注視する。


 リスナーかどうかを見分ける最も基本的な方法はカード入れの存在だ。素早くカードを出す為に、またリスナーである事を示すのに一番わかりやすいものであり、隠れていてもカードを引き抜きやすい位置というのは変わらない。

 大体の場合はエルクリッドのように左右どちらかの腰に身に着けている為、ひと目で判断する材料である。

 加えて、今回の古美術品展示というのも古のリスナーに由来するものも含まれ、少なからずリスナーが見に来る可能性は高い。


(……流石に、あいつは来ないと思う、けど)


 ふとエルクリッドの脳裏をよぎったリスナーの姿があった。しかし宿敵がここには来ないとも直感で理解もする。


 今ここで邂逅したとしてまだ勝てない。もっと強くならねばと静かに手を握り締めた。

 その手をぎゅっと握り上目遣いで顔を覗き込んでくるのは共に旅する事になったノヴァ、すぐに笑顔で応えて気持ちを切り替え、首を傾げる彼女の手を握り返す。


「さ、見て回りながらリスナー探そ」


「はい、エルクさん」


 今すべきことを優先しろ、とは師の教え。自分の宿願はいずれと思いつつ、エルクリッドはノヴァと共に会場を歩き始めた。

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