熱風のような心
火、水、地、風。四大属性の流れが世界を形作り生まれたとされるエタリラ、そこに自分達は生きている。
四大属性の下に生まれし魔法と呼ばれる力、それを操る者は魔法使い。そして、それとは別にリスナーと呼ばれる者達もまた古来からいたという。
具体的な時期などは未だ解明されず研究が続けられ、その断片たる遺物が各地より見つかる。エルクリッドがノヴァと共に見ている木箱もその一つ、かなり傷みがあるがそれは間違いなくリスナーの使うカード入れだ。
「木の種類は……アカシアっぽいですね。でもこの痛み方はなんでしょう?」
「魔力の摩擦だと思うよ。リスナーってカード入れのカードを指先に込めた魔力で識別したり、抜く前からカードに魔力込めたりしてカード入れが摩擦で傷むことあるからさ」
なるほど、と小さく頷きながらノヴァが納得するのをエルクリッドは見ながら周囲へ送る視線も怠らない。
そこそこ人がいて程々に声が溢れている。展示物への感想やこの発掘現場の構造についてなど、十人十色の言葉が満ちる中にリスナーの気配も確かにある。
(でも、腕前の方はどうなんだろうな……)
ノヴァの目的は神獣こと伝説のカードを探す事、その道は険しくなるのは予想され、腕前の方も確めたい。
もちろんそれは自分の為であるとエルクリッドは自覚している。自分の目的の為には強くなる事、より強い相手との戦いを経て磨き上げてくものだから。
今の所、これといったリスナーはいない。話しかけるにしても何気ない所作等からわかる情報で実力であったり、話してる事柄から知識の程を把握できる。
もしここで見つからなければ掲示板なりで募集をかける方法もあるが、運良くすぐ見つかるかはわからない。
(まぁ、こればかりはすぐに……)
出会いはいつも突然、運が悪ければいつまでも会えない。小さくため息をつきながらエルクリッドが上の方に向きながらそう思った時、遠くから近づく足音と共に静寂は破られた。
「待ち、やが、れっ!!」
ドスの効いた声と共にエルクリッドの目に映ったのは勢い良く大男を蹴り飛ばし空中に飛び出す青年の姿、刹那の衝撃、何事かと理解する間もなく落ちてきた小さなものを咄嗟にエルクリッドは掴み、それが財布とわかった時には青年が少し離れた所に着地しすぐに倒れてる大男の胸ぐらを掴む。
「てめぇ人の財布盗みやがって! さっさと返せ!」
鬼の形相と周囲を顧みない怒声、エルクリッドはそのやり取りを見てから再度掴んだ財布に目をやり、状況を察しつつざわつく周囲の様子に気づく。
「エルクさん、それ……」
「あー……そうだね、うん。ちょっと待っててね」
小声で話しかけたノヴァに答えたエルクリッドは一度深呼吸をし、スタスタと青年の方へと歩き出す。
既にぐったりして気絶している事に気づかず青年は怒りをぶつけ続け騒ぎ立てているので、それを止めるのかな、とノヴァは思っていた。
「ねぇねぇ」
「邪魔すんな!」
「……ねぇ」
「んだよ今は……」
展示場に響くは殴打の快音、声をかけられ振り返った青年の顔面目掛けてぶつけられるのは彼の物と思わしき財布、エルクリッドの繰り出す拳と共に繰り出されたその一撃に、ノヴァらの言葉を失わせた。
「さっきからうっさいのよ! ここは美術館! 喧嘩する場所じゃないっての! 大体あたしを無視するのもムカつく!」
凛々しく、鋭く、だが自分も騒いでると気づいてない、否、青年と同じくエルクリッドもまた怒りに着火していた。
大の字に倒れた青年は財布を確認、おもむろに胸元にしまってから足で反動をつけて起き上がるとキッと鋭くエルクリッドを睨みつけ、ずいっと前にやってくる。
「てめぇいきなり何すんだ!」
「うるさいのをぶん殴ってやったのよ! 大体あんたあたしより小さいじゃん! ガキのくせに生意気なのよ!」
「なっ……てめ、人が気にしてる事を……! もう許さねぇ!」
売り言葉に買い言葉、流石に見てられないと判断してかタラゼドがすっと前に出て額と額とをぶつけ合う二人をやや強引に離し、そこまでです、と制止をかけた。
「これ以上は他の方の迷惑となります、気が済むまでケンカするのであれば外でやりましょう」
「ご、ごめんなさいタラゼドさん。ちょっとムカついちゃって……」
やや威圧的に二人に目を配りながらも言葉は静かに、眼鏡の下の目は鋭くタラゼドがその場を治めてみせる。
エルクリッドも落ち着きを取り戻してすぐに頭を下げ謝罪し、しかしすぐにむっと目を細めながら青年を見つめ、これには青年も睨み返すもタラゼドの向ける目に気圧されたのか前には出なかった。
「お見受けしたところ、貴方もリスナーのご様子。ならばリスナー同士、手合わせをしてはいかがでしょうか?」
「この女もリスナー……? わかった、だったらさっさとやろうぜ」
「上等よ! あんたみたいなうるさいバカはこてんぱんにしてやるんだから!」
闘争心高まる二人に挟まれる形のタラゼドは首を横に振りながらため息をつき、しかし、青年もリスナーでその腕を確かめる機会になった事は良しと思いつつ、戦いに相応しき場へと誘う。
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