カード

 行商人達とのやり取りを終えたノヴァが戻ってからエルクリッド達は改めて大都市リックランプへと向かう。

 活気と賑わいが近づくにつれて大きくなり、ノヴァの表情が明るく目も輝きを増す。それ程にそこは初めて見るものが多いのはエルクリッドも承知済みだ。


「そういえば、報酬の話してなかったね」


 ふとエルクリッドが思い出すのは今回の護衛依頼の報酬について。元々要相談とあったのもあるがすっ飛ばしてしまったのを思い出し、それにはゆっくりと歩くタラゼドが答えた。


「道中のカード代金の支払い、スペルの使用回数の補充をわたくしがするのに加えて、望みのカードを可能な限り……でどうでしょうか?」


「太っ腹すぎじゃないですか? もしあたしが金枠カード百枚とか神獣のカードって言ったらどうするんです?」


「ふふっ、意地悪な人ですね。ですが此度の依頼はエルクリッドさんを縛る事になりますから、それくらいでないと納得しないかと」


「うーん……じゃあ代金のそれと使用回数の補充はおおいに利用させてもらいます、報酬の方は仕事しながら考えをまとめますね」


「わかりました。ではそのように」


 交渉成立、と思ったエルクリッドだったがじーっとノヴァが見上げながら何かを訴えるような眼差しを向け、あぁごめんと返しながらノヴァが繋いできた手を優しく握り返す。


「僕が知らない事で話さないでください」


「ごめんごめん。って、ノヴァもリスナー……見習いだけどカードの事はわかるよね?」


「もちろんです!」


 軽く頬を膨らませ何処か不機嫌気味なノヴァ。理由を察しつつエルクリッドはふふっと笑い、前を向き歩きながら彼女が知りたいであろう事を語りだす。


「リスナーの使うカードはいくつかあるけど、ノヴァならわかるよね?」


「はい、リスナーが心を通わせた魔物や精霊と契約する為に使いアセスにする契約カード。リスナーが秘められた魔法などを解き放ち利用する人工カードですよね?」


「で、人工カードはスペル、ツール、ホームの三種類あって、さらに希少度合いや強さを示す五色の枠色があるんだ。高い方から金、銀、銅、黒、白の枠、この内銅枠以上は一定の実力がないと使えないから、リスナーは実力と相談しながらカードの入手をしたり、あとはカードをお金の代わりにする為に貴重なのを手に入れておくとかね」

 

 ふむふむとノヴァが納得しながらエルクリッドの話を記憶していき、さらに続けられる話に引き続き耳を傾け続ける。


「スペルは一番使われるカード。魔法の力を封じたカードで一度使うと決められた使用回数を消費して、一度使ったり回数を使い切るとしばらく同じのを再使用できないんだ。金枠カードでなければ回数なくなってもまた使えるようになるけど、寿命があるから使い過ぎも注意って感じかな」


「さっきタラゼドさんに使用回数がどうこうって言ってましたけど、それについては?」


「魔法使いはリスナーと魔力の扱い方が違うみたいで、カードに魔法を封じ込められるんだよ。それを応用して使用回数を戻せるって事なんだ、でも寿命は減ってるからあくまでも応急処置って感じ」


 話を聞きながらノヴァはエルクリッドのカードの扱い方を振り返る。確かに彼女は一度使ったスペルカードを再び使わず、最後に使ったヒーリングのカードは使用後に消滅していた。


 その理由がわかるとリスナーがより考えてカードを扱ってるのがわかり、他のカードの事もより知りたいと心が加速する。


「ではツールとホームカードってなんですか?」


「ツールは道具のカード。アセスであったりリスナーが使うのもある、中にはテントみたいに普段の旅で使うのもあるよ。こっちは使用回数はないけど出されたものは摩耗したりするから、壊れたりすると消えちゃうんだ」


「なるほど……」


「ホームカードはちょっと特殊なカードで、周りに影響を与える場を作り出すカード。展開中は魔力を使うけど、スペルの効果を強くするのとか色々あるんだ。あたしは使わないけどね」


 まだ使ってるところは見たことがないが他にもカードがある事、それらとは一線を画すのが自分が求める伝説のカードだと思うとノヴァの心はより熱く胸も高鳴った。


 ふと、エルクリッドはここで矛盾に似たものに気づく。まだ未熟とはいえリスナーの力があるなら、ノヴァの性格的にリスナーのカードについて知っていてもおかしくはない。

 だが知らなかったのは何故か。考えようとすると、後ろから話しかけるタラゼドが種を明かしてくれた。


「ご存知と思いますが、まだ未熟なリスナーがカードに触れると暴発的にカードが発動するということがありますからね。ノヴァのご両親はそれを鑑みて遠ざけていたんです」


「確かに白枠カードでも危ないのはありますからね……そっか、じゃああたしが先輩として色々教えないと、ですね」


 かつての自分にも覚えがある事を振り返りながらエルクリッドはノヴァに笑顔を見せ、手を握り返しながら昔を思い返す。

 リスナーというものがわからなかった頃、知ってからも幾多の失敗を重ねながら研鑽してきた事、教え見守ってくれた人たちの事を。


 自分がされた事をする側になる。その事だけでも少しは成長したのだと感じられる、もちろんこれからの活躍次第でもあるが。

 そう思ったところでちょうどリックランプの街の入口に到着し、人や馬車が行き交い賑やかさがひしひしと伝わり、道の端に避けてからノヴァがある事を話し始める。


「あ、さっき商人さん達との話で聞いたんですけど、この街で古美術品の展覧会があるそうです」


「展覧会?」


「はい、なのでエルクさんが言ってたサーチャーやシーカーも来るのかなって思います」


 しっかりと情報収集もこなしていた事には少し驚きながらも、得意げな笑顔のノヴァにエルクリッドは頭を撫でてやって応えニッと笑った。

 確かに展覧会に赴くようなリスナーがサーチャーやシーカー、あるいはそれらを志すリスナーの可能性は大いにある。


「それじゃあその展覧会を見に行かないとね。タラゼドさん、それでいいですか?」


「ノヴァがいいなら、わたくしも同意見です」


「なら決まり。さーて場所を聞かないとなー」


 リックランプの街は広い。そして数々の催しも行われているのでまずはそれを調べる事にした。



next……

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