ノヴァの才覚

 エタリラにおいてそこは重要な場所、新たな道を求める者、夢を目指す者、欲しい物を探す者、数多の者共が行き交う大都市リックランプ。

 遠くからでも賑わいが伝わるかのようにいくもの街道がそこへ繋がり人の流れもまた多く、それを空より眺めるノヴァは言葉が出ず、身を乗り出しかけるとすぐにエルクリッドが引いて共に乗るファイアードレイクのヒレイの肩にしっかりと座らせる。


「危ないよ」


「ごめんなさい。でも……空からの景色ってこんなにすごいんですね……」


 空飛ぶ鳥の見る景色とはこのようなものなのか。地上を歩く者にとって夢の光景と言えるものはノヴァの心を煌めかせるに十分すぎるほど。


 そんな彼女の心を理解しつつ軽く抱き締めてやるエルクリッド。初めてヒレイに乗って飛んだ時も同じように感動したのは懐かしく思いつつ、街との距離が近くなったのを確認しヒレイに呼びかけゆっくりと降下させる。


 街道に沿って高度を下げ、やがて四肢で地面を捕らえ姿勢を低くしエルクリッド達を降ろす。

 その様子を通行人達が気になって目を向けるとギロリと睨みを効かせて威圧するも、ぺちっとエルクリッドに角を叩かれ彼女の方へと意識を向けた。


「駄目だよ、怖がるでしょ」


「見せ物になるつもりはない、さっさと戻せ」


「はいはい。お疲れ様」


 カードをかざしたエルクリッドがヒレイを戻しカード入れへ。通行人達の注目はヒレイをアセスとしているエルクリッドに向くが、本人は特に気にせずリックランプの方へと身体を向け手でひさしを作ってじっと見つめた。


「相変わらずでっかい街だねー……一応あたしも何度か行ったことがあるけど、全部知ってるわけじゃないから迷子にならないようにね」


 声をかけたはずのノヴァからの返事がすぐになく、エルクリッドは後ろを振り返るもそこには微笑むタラゼドのみ。

 すぐに辺りを見回すとノヴァは街道の方へ一人進み、ヒレイの着地に集まってきていた行商人達の所へ。


 咄嗟にエルクリッドが駆寄ろうとするもタラゼドが肩に手を置いて制止し、大丈夫ですとノヴァの方に視線を送りエルクリッドもしばし様子を見ることに。


 ノヴァがじっと見てるのは一人の行商人が背負う鞄から飛び出て覗く杖のようなもの。その行商人が気がついた時、すっとノヴァが口を開く。


「栗の木の杖……作られた工房はミズシの魔法屋さんのもの、ですね。大きさからして店主さんの作品、であってますか?」


「これは驚いたな……わかるのかい?」


「はい! 父が商いをしてるものでして、色々教わったんです。あ、それはサラマンダーの繭ですね、あとは……」


 どういった品物なのかを次々と言い当てていくノヴァの姿にはエルクリッドも少々驚いた。

 まだ子供だというのに商人相手に確かな審美眼を発揮し、釣られる形で行商人も荷物を見せる運びへ。


 その中で自然と会話も弾んでいき、他の商人も参加しノヴァが中心になっていた。


「これは火の国の琺瑯ほうろうですね! 面白い形をしてますし物もしっかりしてて良い値段がつくと思いますよ」


「そうかい! だが最近はリスナー向けの商品のが流行っているからな……」


「リスナーの力を持っていても、それで生活しない方もいると聞きます。そういう人も意識した品物や、カードをオマケでつけたりも良いかもしれませんね」


 褒めながら助言も添え、裏表のない純粋無垢な笑顔が心開かせ穏やかにする。

 ノヴァの意外な才能にエルクリッドはタラゼドが制止した意味を理解し、察したタラゼドもノヴァの事を静かに語った。


「幼い頃から親の商いに触れてきただけあり、ノヴァの見る目は本物です。もちろんそれは品物だけでなく、人を見る目も同様です」


 選ばれた存在、と言えば格好がつくのだろうがそれでは恥ずかしさの方が強くなる気がした。

 単に気が合うといったものだけではなく、しっかりと判断して自分を選んでくれた事はエルクリッドも感謝するしかない。


 もちろんそれは期待に答えねばならないという重圧にもなる。だがそれ以上に、頑張りたいと思えるのはノヴァ自身の思いに応えたいと思えるからか。


(あたしも負けないように頑張らないとね)


 ノヴァが商人達とのやり取りを心から楽しみつつも、彼女自身ができる事をしようとしてるのは察しがつく。そうしたものもまた奮い立つ要素だとエルクリッドは感じ、微笑んでいた。


 

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