第13話 始まりを記す者
ルークたちが向かったのは、
“世界の原初”が眠ると言われる遺構──
《アトリウム・ゼロ》
地図に記されていない場所。
位置情報を持たず、座標に縛られない空間に存在するという“概念遺跡”。
到達条件は一つ。
“記録を持つ者3名以上が、意思を共有すること”。
フェリア、ネブラ、そしてルークが手を合わせた瞬間、
空間が反転し、世界そのものの座標が“書き換えられた”。
*
降り立った先は、時も音も存在しない“最初の図書館”。
天井のない空間。
無限に連なる白い書架。
だが、そのどれにも文字が記されていない。
「これは……書かれていない記録?」
リシアが呟く。
フェリアが、静かに答える。
「いいえ。“まだ誰にも読まれていない記録”です。
言葉が与えられていないものは、まだ存在していないのと同じなのです」
ルークの《オムニ・レコード》が光を帯びる。
──識別:観測領域・原初区画
──封印キーワード:“始まりを定義せよ”
(始まり……定義……)
そのとき、書架の奥に一つだけ“詩”のようなものが浮かび上がった。
《無言の詩・断章》
誰が最初に、名前をつけたのか。
誰が最初に、痛みを“痛い”と言ったのか。
言葉は、嘘をつくために生まれたのか。
それとも、誰かを愛すために……?
「これは……」
ルークは無意識に手を伸ばしていた。
すると、文字が浮かび上がる。
──観測者適合率:99.97%
──認証対象:ルーク・アークレイン
──記録反応:一致
フェリアが動きを止める。
「まさか……そんな……ルーク様、あなたは……」
リシアが振り返る。
「フェリア? どうしたの?」
「彼の記録構造……“私たちと同じ形式”です。
……いえ、それ以上。“上位記述形式”。まるで、“記録するために生まれた存在”のような……!」
ルークが目を見開く。
「……俺が?」
ネブラが低く呟く。
「つまり……そなた自身が、“観測される以前の存在”だった……?」
《オムニ・レコード》が新たなメッセージを示す。
■継承記録の照合により、ルーク・アークレインの正体に一部接続
■記録断片:観測者の雛型・第一世代コード“ArkLine”
【記録評価】:かつて“言葉”を創った存在の欠片
(……ArkLine……それが、俺の記録の本名?)
フェリアが静かに言う。
「もしかして……あなた自身が、“言葉の始祖”の断片を宿しているのかもしれません」
ルークは言葉を失っていた。
自分の過去。
自分のスキル。
自分の異常な観測能力。
誰にも共有されない記憶の断層——
それらすべてに、“一つの筋”が通り始めていた。
——自分は、観測される側ではなかった。
最初に“観測した側”だった可能性がある。
*
そのとき、空間が震える。
遠くから、黒い影がゆっくりと、図書館へと忍び込んできた。
それは、ネゼ=ウルとは違う存在。
もっと静かで、もっと冷たい。
──存在不明
──目的:“記録の最初を燃やすこと”
ネブラが身構える。
「来たか……“記録焼却者”の親玉だな。やつの名は……《エンディ・ルート》」
フェリアが表情を曇らせる。
「“終わり”を記すことで、全ての意味を奪う者……。
彼に“最初”を渡してしまえば、世界の言葉はすべて死にます」
ルークが前に出る。
「なら、渡さなきゃいい。俺が、“最初の記録”を読めばいいんだろ?」
《観測許可:継承者コード一致》
《最初の記録:開示可能》
——そして、ルークはページを開く。
そこにあったのは、“誰かの声”。
「ねぇ、名前って必要かな?
なくても伝わるなら、それでいい気がするんだ」
その声を聞いた瞬間、ルークの胸に、言いようのない既視感が走る。
(……この声、知ってる)
(……いや、“忘れさせられていた”……?)
空間の奥で、
「さあ、語るがいい。“お前が忘れてきた名前”を」
ルークは、全てを取り戻す戦いの入り口に、いま立った。
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