第2話 神獣ネブラ様、なぜ猫なのですか?
「契約は成立した。これで、おまえはワタシの主(あるじ)だ」
——契約直後、黒猫はくるんとしっぽを振って俺の肩に飛び乗った。
「……え、もう終わり?」
「当然だ。神獣たるワタシとて、現代では霊力を抑えねば存在できぬ。これが今の"最適解"というやつだ」
そう言うと、猫はもふもふの前足で胸をぽふっと叩いた。
いや、叩けてない。ただのモフだ。
「……思ってた神獣とだいぶ違うな」
「喋る猫で満足しろ。おまえ、人語を操るモフを初めて見たくせに態度がでかい」
「モフって言ったなお前」
「言ったぞ。誇り高き神獣ネブラ様だ。尊敬せよ、崇めよ、撫でよ」
「最後のだけ変じゃないか?」
「撫でよ(真顔)」
「……」
——こいつ、本当に神なのか?
なんというか、いろんな意味で距離感がおかしい。
けど、契約の瞬間に感じた霊力とスキルの変化は、紛れもない事実だ。
俺の《鑑定》は、たしかに進化していた。
目の前にある木の根、落ちている小石でさえ、触れずとも詳細が読み取れる。
そして——
「未来が、読める……?」
目の前の視界に、選択肢のような小さな文字が現れる。
—
【3時間後】
・このまま森を出る → 遭遇率:魔獣ランクC(低)
・この場に留まる → ネブラの力が回復:小イベント発生
—
「これは……すげぇ」
「ふむ。オムニスコープは"可能性の視覚化"を基本としている。スキルと未来の可視化が同時にできるということだ」
「……すごいな、ネブラ」
「当然だ。ワタシは神獣。世界を五回くらい救ったことがあるぞ?」
「そのわりにはテンション軽いな」
「昔はもっと荘厳だったのだ。人類の劣化に合わせて、ワタシもこの形に最適化されただけ」
「最適化とは一体……」
*
夜が明けた。
森を出ようとしたとき、小さな村が視界に入った。
ここは《アスタル村》。
小さくて古びた村だが、俺がパーティに入る前に世話になった場所だ。
「ここ……懐かしいな」
「ふむ。人間の拠点か。食べ物はあるのか?」
「あるにはあるが、神獣が食うものではないかもな」
「バカめ。ワタシは焼き魚とミルクが好きだ」
「猫だなお前やっぱり」
「神猫だ」
そうして、俺たちは村へと足を踏み入れた。
村は静かだったが、活気はなく、人々の顔にも疲れが見える。
「最近、このあたりに魔獣が増えてな……村の男たちは狩りに出て戻らねぇんだ」
「そんなことに……」
昔世話になった村長の言葉に、俺は自然と拳を握っていた。
「よし、俺がやる。魔獣退治もダンジョン踏破も、全部任せてくれ」
「お、おい……お前、戦えるのか?」
「大丈夫。パーティを抜けて、ちょっと覚醒したからな」
「ふふん、我が力あれば当然だ」
「お前も黙ってろネブラ」
「にゃあ(しょんぼり)」
そのとき——
未来視が、また発動した。
—
【分岐予測】
・村の依頼を受ける → 信頼度上昇。神獣スキル:『守護結界』解放
・断る → 村との関係断絶。孤立ルートに移行
—
「ネブラ、いいか。これから、俺たちの新しい旅が始まる。
世界をちょっとだけ、見返しに行こうぜ」
「む? ワタシの肩を借りておいて、生意気なやつだな。……まあ、いい」
黒猫はしなやかに背を伸ばし、太陽の光を浴びながら、ふわりと尾を揺らした。
「行くぞ、主。世界を変えるのは、今この瞬間からだ」
——こうして俺とネブラの旅が始まった。
そして数日後、元仲間たちは知ることになる。
"足手まといの鑑定士"だったはずのルークが、最凶の神獣を従え、ダンジョンを単独制覇していたという噂を——。
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