第3話 最弱ソロ冒険者、ダンジョンを無傷で攻略する

「ここが、《腐蝕の小迷宮》か……」


村の北、少し開けた丘にぽっかりと口を開けたダンジョン。

今、周辺の村々を脅かしている魔獣たちは、この迷宮から流れ出しているらしい。


「ランクはD級か……正直、今の俺なら楽勝だな」


「油断するなよ、主よ。腐蝕属性の魔物は毒や腐敗攻撃を持っている。

脳筋ほどではないが、対策を怠ればあっさり死ぬぞ?」


「わかってる」


俺は肩に乗ったネブラに一言返し、ダンジョンへ足を踏み入れた。



薄暗く湿った通路、苔むした床、重く濁った空気。

だが——


「視える」


《オムニスコープ》が、目の前に敵の位置、罠の設置箇所、隠された通路、全てを可視化してくれる。


敵の背後に回るルート、スキルの使うべきタイミング、ドロップアイテムの効果。

すべてが数値と映像で予測済みだ。


「な……なんて快適なんだ、これ」


俺はあらかじめ未来視で確認していた通り、落とし穴を飛び越え、

腐蝕液を吐くスライムを逆側から一撃で叩き潰した。


《ダンジョン・ミニボス:腐蝕牙のリザード》も然り。


「急所は首元、攻撃後の硬直時間2秒……今だ」


一閃。


弱点をつき、ほぼノーダメージで撃破。


《スキル経験値が一定に達しました》

《スキル:オムニスコープ がランクBに進化しました》


ネブラが俺の肩でくつろぎながら言った。


「見事な立ち回りだ。これなら上位冒険者にも引けを取らんぞ」


「なあネブラ、これ……強すぎじゃないか? 未来がわかるって、チートじゃん」


「当然だ。我が力を借りた時点で、おまえは『選ばれし者』なのだからな!」


「はいはい、ありがとよ」



ダンジョンを出たあと、俺は村の依頼をこなしつつ、ギルドへ報告に向かった。

《無名》という名前で。


「ご依頼の魔獣討伐、完了です」


受付嬢が目を丸くした。


「そ、そんな……あの迷宮、ひとりで……ですか?」


「はい。証拠の魔核と素材もどうぞ」


「っ……す、すごい……!」


周囲の冒険者たちがざわつき始める。

だが、俺は名前を伏せていた。

かつての仲間や、王都にいた関係者に知られぬように。


ネブラがぽつりと呟いた。


「隠しきれるか? いずれ、おまえの力は否応なく世界に届くぞ」


「そのときまでは……もう少し、自由でいたいんだよな」


「ふむ。ならば良い。だが、おまえを追い出したあの者たち——名前はなんと言ったか?」


「リオンたち、だな」


「彼らは近いうちに地獄を見るだろう」


「……お、おい、なんでそんな断言できるんだよ」


「未来が見えてしまった。主が手を下す前に、彼らが勝手に崩壊していく未来にな」


「……怖ぇよお前」


「ふふふ。ワタシは神獣だからな」


ネブラはしっぽで俺の鼻をくすぐりながら、いたずらっぽく笑った。


——そうして俺は、《村を救った無名の冒険者》として、新たな名声を得ていく。


一方、王都にいるリオンたちは、少しずつ狂い始めた歯車に気づくことなく、

【鑑定士ルーク】を追い出したことを、ただの"最適な判断"だと信じていた——。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る