第3話 最弱ソロ冒険者、ダンジョンを無傷で攻略する
「ここが、《腐蝕の小迷宮》か……」
村の北、少し開けた丘にぽっかりと口を開けたダンジョン。
今、周辺の村々を脅かしている魔獣たちは、この迷宮から流れ出しているらしい。
「ランクはD級か……正直、今の俺なら楽勝だな」
「油断するなよ、主よ。腐蝕属性の魔物は毒や腐敗攻撃を持っている。
脳筋ほどではないが、対策を怠ればあっさり死ぬぞ?」
「わかってる」
俺は肩に乗ったネブラに一言返し、ダンジョンへ足を踏み入れた。
*
薄暗く湿った通路、苔むした床、重く濁った空気。
だが——
「視える」
《オムニスコープ》が、目の前に敵の位置、罠の設置箇所、隠された通路、全てを可視化してくれる。
敵の背後に回るルート、スキルの使うべきタイミング、ドロップアイテムの効果。
すべてが数値と映像で予測済みだ。
「な……なんて快適なんだ、これ」
俺はあらかじめ未来視で確認していた通り、落とし穴を飛び越え、
腐蝕液を吐くスライムを逆側から一撃で叩き潰した。
《ダンジョン・ミニボス:腐蝕牙のリザード》も然り。
「急所は首元、攻撃後の硬直時間2秒……今だ」
一閃。
弱点をつき、ほぼノーダメージで撃破。
《スキル経験値が一定に達しました》
《スキル:オムニスコープ がランクBに進化しました》
ネブラが俺の肩でくつろぎながら言った。
「見事な立ち回りだ。これなら上位冒険者にも引けを取らんぞ」
「なあネブラ、これ……強すぎじゃないか? 未来がわかるって、チートじゃん」
「当然だ。我が力を借りた時点で、おまえは『選ばれし者』なのだからな!」
「はいはい、ありがとよ」
*
ダンジョンを出たあと、俺は村の依頼をこなしつつ、ギルドへ報告に向かった。
《無名》という名前で。
「ご依頼の魔獣討伐、完了です」
受付嬢が目を丸くした。
「そ、そんな……あの迷宮、ひとりで……ですか?」
「はい。証拠の魔核と素材もどうぞ」
「っ……す、すごい……!」
周囲の冒険者たちがざわつき始める。
だが、俺は名前を伏せていた。
かつての仲間や、王都にいた関係者に知られぬように。
ネブラがぽつりと呟いた。
「隠しきれるか? いずれ、おまえの力は否応なく世界に届くぞ」
「そのときまでは……もう少し、自由でいたいんだよな」
「ふむ。ならば良い。だが、おまえを追い出したあの者たち——名前はなんと言ったか?」
「リオンたち、だな」
「彼らは近いうちに地獄を見るだろう」
「……お、おい、なんでそんな断言できるんだよ」
「未来が見えてしまった。主が手を下す前に、彼らが勝手に崩壊していく未来にな」
「……怖ぇよお前」
「ふふふ。ワタシは神獣だからな」
ネブラはしっぽで俺の鼻をくすぐりながら、いたずらっぽく笑った。
——そうして俺は、《村を救った無名の冒険者》として、新たな名声を得ていく。
一方、王都にいるリオンたちは、少しずつ狂い始めた歯車に気づくことなく、
【鑑定士ルーク】を追い出したことを、ただの"最適な判断"だと信じていた——。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます