第19話:冒険者ギルドと再会

 商業ギルドを飛び出した楓は、目と鼻の先にある冒険者ギルドの入り口前に立っていた。

 しかし、なかなか中に入る勇気が出ず、どうしたものかと立ち尽くしていた。


(……ど、どどどど、どうしよう! 勢いで飛び出しちゃったけど、怖い人とかいないかな? 女性一人だと変な輩がとかセリシャ様が言っていたけど、大丈夫かな?)


 ドキドキが止まらない楓だったが、そこへ背後から声を掛けられる。


「どうしたの?」

「ひゃああああっ!?」

「えぇっ!?」


 突然声を掛けられたからか、楓は思わず悲鳴を上げてしまい、声を掛けてくれた相手を驚かせてしまった。


「はっ! す、すみません! 本当にごめんなさい!」

「い、いいんだけど……って、カエデじゃないの!」

「へ? …………ティ、ティアナさ~ん! 会いたかったです~!」


 声を掛けてくれた相手がティアナだと分かり、楓は泣き出しそうな顔で抱き着いた。


「え? あの、どうしたの? もしかして、商業ギルドで酷い目に遭っちゃったとか?」

「そんなことはないです~! ものすごくよくしてもらいました~?」

「……それじゃあなんで泣いてるの?」


 ティアナからすると当然の疑問に、楓は体を離しながら答える。


「うぅぅ。実は、従魔具を作るための材料を集めたくて、冒険者ギルドへ依頼を出そうと思っていたんですが、入るのが怖くて~」

「あー、なるほどねー。確かに、女の子一人だと、入り辛いかー」


 納得顔で頷きながら、ティアナは笑いながら楓の背中に手を回す。


「それじゃあ、一緒に入ろうか!」

「い、いいんですか!」

「もちろん! それに、カエデの依頼なら私が受けちゃおうかしら!」

「そ、それもお願いしたくて、ティアナさんを捜そうと思っていたんです~! ティアナさんは神ですか~!」


 そう口にしながら楓はティアナを拝み始めた。


「何してんのよ。ほら、入るわよ」

「ありがとうございます~!」


 苦笑しながらティアナがそう口にすると、楓は彼女を拝みながら冒険者ギルドの中へ入っていく。

 しかし、中に入ると同時に聞こえてきた大きな声に、ハッとして顔を上げる。


「――前衛張れる奴はいないか!」

「――この依頼は俺らが受けるんだよ!」

「――はあ? 私たちが受けるのよ! ふざけないで!」

「――てめえ! ぶつかっておいて無視かよ!」

「――ぶつかってきたのはてめえだろうが!」


 パーティを募集する声や、依頼を奪い合う声、ケンカの声まで聞こえてきており、楓は思わず表情を引きつらせてしまう。

 そして、一人で中に入らなくて本当によかったと、心の底から思っていた。


「依頼を提出する窓口はあっちよ」

「あっ! ま、待ってくださ~い!」


 一人になりたくなかった楓は、早足でティアナの横に並ぶと、彼女の洋服のすそを軽くつまむ。

 その姿が可愛らしく、ティアナは楓に気づかれないよう微笑んでいた。


「いらっしゃいませ! ……って、ティアナさんじゃないですか! どうしたんですか?」


 冒険者ギルドの受付嬢は相手がティアナだと気づき、気安げに声を掛けた。


「この子が依頼を出したいらしくてね。そんで、そのまま私が受けようと思っているんだ」

「そうだったんですね! 案内していただき、ありがとうございます!」


 受付嬢は丁寧にティアナへお礼を告げると、視線を楓へ向ける。


「初めまして! 私は依頼受付窓口を担当しております、ミーナと申します!」

「か、楓です。よろしくお願いします」

「はい! よろしくお願いいたします! それで、今回はどのような依頼を出されるのですか?」


 テキパキと話を進めてくれるミーナに対して、楓はドキドキしながら依頼内容を口にしていく。


「えっと、従魔具を作るための材料を集めたくて、その依頼を出したいんです」

「具体的な材料については決まっておりますか?」

「ぐ、具体的にですか? それが決まっていなくて、とりあえず安価な材料を集めたいんです」

「そうなの? 私はてっきり、すごい従魔具を作って商業ギルドに持ち込むのかと思っていたけど?」


 楓とミーナの話を聞きながら、ティアナが口を挟んできた。


「セリシャ様の従魔、ラッシュ君に従魔具を作ってみたら、大満足してもらえたんです。だけど、そしたら他の従魔たちからも従魔具を作ってほしいと言われて、ひとまず安価で作れればと思っていたんです」


 安価な材料を求めている理由を説明した楓だったが、そこでティアナもミーナも黙ってしまったことに気づき、どうしたのかと首を傾げる。


「……あの、どうしたんですか?」

「……えっと、カエデ? なんで他の従魔たちが、従魔具を欲しているって思ったの?」

「……そ、そうですね。普通は従魔のことは、契約している主に確認を取るのでは?」


 ティアナとミーナに言われ、楓はようやく自分の失言に気がついた。


「あっ! ……えっと、セリシャ様にも驚かれたんですけど、実は私、サブスキルで〈翻訳〉を持っているんですけど、その翻訳が従魔の言葉だったんです」

「「…………ええええぇぇええぇぇっ!?」」


 楓がサブスキル〈翻訳〉のことを説明すると、二人から驚きの声が上がった。

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