第18話:まずは身近の従魔具作り

「本当にごめんなさいね、カエデさん」

「クゥゥン(ごめんね)」


 場所をセリシャの部屋に移した楓たちは、そこでセリシャとラッシュから謝罪を受けていた。


「私は気にしていませんから、頭を上げてください」


 楓はラッシュを撫でながら、そう口にした。


「ありがとう、カエデさん。ラッシュも、慌ててはダメよ? あなたの体は人間と比べると、とても大きいのだからね?」

「アウ(うん)」

「うふふ。分かってくれたなら、本当に大丈夫だからね?」


 僅かに尻尾が揺れたのを見た楓は、ラッシュが少しだが落ち着いてくれたのかなとホッとする。

 そして、彼の願いを叶えられないかと思い、セリシャへ声を掛ける。


「あの、セリシャさん。ラッシュ君のお願い、叶えるにはどうしたらいいでしょうか?」

「ラッシュの願いというと、従魔房にいる子たちに従魔具を作るということ?」

「はい」


 正直、楓一人ではどうすることもできないことだ。

 彼女は作ることはできても、作るために必要な材料を持っていない。

 さらに言えば、従魔たちには主がいる。

 主の許可なく勝手に従魔具を作り、従魔に与えたとなれば、それは押し付けになってしまう。

 いいや、もしかすると従魔具を作るのはセリシャを通してになるため、押し売りになるかもしれないのだ。


「全員分、というのは難しいかもしれないわね」

「ギャウアッ!?(そうなの!?)」


 セリシャの言葉に驚きの声を上げたのは、ラッシュだった。

 彼は従魔房の従魔たち全員から、従魔具を作ってほしいを頼まれていたのだ。


「材料があれば、カエデさんなら作れるかもしれないわ。だけれど、カエデさんが作る従魔具はとても高価なものになるはずなの。だから、従魔の主たちがそれを支払えるかどうかが分からないわ」

「従魔房にいる従魔たちの主は、全員商業ギルドの職員の方なんですか?」

「えぇ、そうよ。ここは給与も安いわけではないけれど、いきなり高価な従魔具を購入するかとなると、分からないわね」


 セリシャの説明を聞き、楓も渋面になってしまう。

 主が従魔のことを愛しているのであれば、多少はお金を掛けてもいいと思うだろう。

 だが、掛けられるお金には限界がある。

 給与も人それぞれだろうし、勝手に作って、勝手に売る、というのは絶対にダメだと改めて心に誓う。


「……あの、セリシャさん。もしも主の方が購入してもいいとなって、予算を伺えるのであれば、予算に合わせてオーダーメイドすることはできたりするんでしょうか?」


 楓がそう口にすると、セリシャは思案顔を浮かべる。


「……どうかしら。レベルEXにも限界はあると思うのだけれど、もしかするとできるかもしれない、というところかしら」


 レベルEXについての文献はほとんど残っていない。

 何ができて、何ができないのか、その全てを楓は手探りで探っていかなければならなかった。


「それなら、どなたかの従魔で試してみることはできるでしょうか?」

「心当たりはあるから、できるとは思うのだけれど……」

「な、何か問題が?」


 言葉を途中で切ったセリシャを見て、楓は不安そうに問い掛けた。


「……問題は、私が持っている材料なのよね」

「材料、ですか?」

「えぇ。私が持っている従魔具の材料は、どれも高価なものなの。だから、私が材料を提供してしまうと、どうしても高くついてしまうのよね」

「ふへ?」


 セリシャが持っている材料が高価だと聞いた楓は、思わず変な声を漏らしてしまう。

 それは、ラッシュの従魔具にもセリシャが用意してくれた材料を使っていたからだ。


「……も、もももも、もしかして私、ものすごく高価な素材で、ラッシュ君の従魔具を作ってしまったのでは?」


 恐ろしくなりそう口にした楓だったが、セリシャは苦笑しながら答えてくれる。


「ラッシュの従魔具については気にしないでほしいわ。だって、私の従魔なのだからね」

「で、でででで、でもですよ? 失敗する可能性もあったわけで、そうなったら私はああああっ!?」

「それも気にしないで。失敗も覚悟の上だったし、結果として最高の従魔具になったのだから。ねぇ、ラッシュ?」

「ガウアッ!(大満足!)」


 最後にラッシュが元気よく鳴いてくれたこともあり、楓はなんとか自分の中で納得させることができた。


「……ありがとうございます。そ、それじゃあ、材料は私がなんとか調達します!」

「調達って、どうするの? 冒険者に当てでもあるのかしら?」

「……冒険者ですか?」


 楓は当初、レイスから貰ったお金を使って材料を購入しようかと考えていた。

 だがセリシャは違い、冒険者と口にした。


「あら? 冒険者ギルドへ従魔具の材料調達を依頼するのではないのかしら?」

「はっ! そ、そうか! その手がありましたね!」


 異世界なら定番と言えるだろう、冒険者ギルドへの依頼という手を思い出し、楓は大興奮してしまう。


「……大丈夫? 当てがないなら気をつけた方がいいわよ? 女性一人だと、どうしても変な輩が依頼を受けてしまうこともあるのだからね?」

「当ては! ……あると言えばあるんですが、ないと言えばないですね」

「えっと……どっちなの?」


 楓が思いついた冒険者というのは、当然だがティアナだ。

 しかしティアナがまだバルフェムにいるかどうかは分からないし、受けてくれるかも分からない。


「……と、とりあえず行ってみます! 当てを捜しに!」


 そう口にした楓はソファから立ち上がり、そのままセリシャの部屋を出て行ってしまった。


「カエデさん! ……本当に大丈夫かしら?」

「ギャウゥゥ」


 心配そうにセリシャがそう呟くと、ラッシュも不安そうに鳴いたのだった。

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