第6話 穀潰し穀造
――半刻前
「なんで俺の人生は、こんなにしんどいねん……」
穀造は商人の町・
それからの年月は、あまり思い出したくない。
十五歳で村を出て、酒伊の行商人の小間使いとして各地を転々とした。この行商旅は過酷を極め、金のかかる鉄道など使えるはずもなく、駒犬ですら足を踏み入れないような険しい土地ばかりを任された。
ストレスと疲労からか、二十代で髪の半分以上が白髪に変わった。
心身ともに限界を感じていたある日、村から使いがやってきた。稲守・茂蔵の息子が、半ば家出同然に東都へ出たという。
「今さらふざけるな!」と突っぱねたい気持ちはあったが、茂蔵が病に倒れ長くないこと、小作人たちが泣いて頼むこと、そして行商にも疲れ切っていたこと――さまざまな思いが交錯し、穀造は稲守を継ぐ決意をした。
継承後、まず驚かされたのは銘米神の姿だった。子どもの見た目なのに、死期が近い老人のようにしわくちゃに老いていた。
穀造は風呂敷を見つめ、喉の奥で乾いた笑いを漏らした。
「あん時、他人事のままにしとけば良かったんや……」
ふと、何かに突き動かされるように包みをほどき、米を確認した。――わなわなと手が震える。怒りで力が入った指の隙間から、米がぱらぱらと地面に落ちた。
「俺の選定した米やない……!」
薄々気づいていた。茂蔵と一部の小作人以外は、格による土地縛りをなくして田を売り払い、酒伊の商人に渡したがっているのだ。
「くそったれ!!」
穀造は怒りに任せ、米を参道にぶちまけた。
その刹那、背後から肩をがしりと抱えられ、穀造はハッとして振り返る。
「……おっちゃん大丈夫か? こんなとこで騒いでたら、また辻番に連れてかれてまうで」
にこりと笑った赤毛の男。
その顔に穀造は見覚えがあった。
「……お前、東都中枢の……なんで銘米神議に来とるんや……」
「えっ! 俺のこと知ってはるん? うれし〜わ」
手を口元にあてて感激する赤稲から、穀造は数歩距離を取る。
「実はな、東都でも米が作れるようになってきてん」
赤稲は一歩詰め、穀造の顔を覗き込むように言った。
「ちょっと、相談したいことあんねん。……あんた、米、まだ作りたいか?」
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