第21話 迂闊さんの華麗なる仕事 その2
迂闊さんが沈没者を引き上げてくる間、僕と仲介屋さんは仲介屋さんが淹れた紅茶を飲みながら、まったりと迂闊さんが帰ってくるのを待ってました。紅茶は少し苦手だったんですが、仲介屋さんの淹れてくれた紅茶は癖がなく飲みやすく僕でも美味しく飲めます。
「ブック・ダイバーは本に潜っている間は歳を取らないので、よく仕事をする人は長生きになる傾向があるんです」
「へぇ、そうなんですかぁ」
そんな会話等をしながら和やかな空間で、のほほんと迂闊さんの帰りを待ってます。
~30分後~
「仲介屋さん、ブック・ダイバーの仕事って平均的にどのぐらい掛かるんですか?」
「まぁ、その都度まちまちでして、短い方は15分で終わらせたりしますが、長い方は日付が変わっても帰って来ないこともありますね」
「そうなんですか?大変ですね」
~1時間後~
「仲介屋さんは普段の休み日は何をやられてるんです?」
「ふむ、やはり小説などを読んでますかね。あと日課のランニングだけは仕事の有る無しに関わらず、毎日走ってますが」
「凄い、健康志向なんですね」
~3時間後~
「……帰って来ませんね迂闊さん」
「そうですね、どうかなさったんですかね?」
流石にホテルの一室で3時間も何もせずに缶詰だと気が滅入りそうになってきました。仲介屋さんと話す話題も尽きてきたので、そろそろ迂闊さんに上がって来て欲しい所です。
「ふむ、もしかしたら迂闊さんの身に何かあったかもしれませんね」
仲介屋さんがそんなことを言うので僕は不安になってきました。あの迂闊さんが酷い目に遭ってるのかもしれない。僕は生唾をゴクリと飲み込みました。
「た、助けに行った方が良いんでしょうか?」
「援軍を手配しても良いのですが、もう少しだけ迂闊さんを待ってみましょうか。彼女もプロのブック・ダイバー、勝手に援軍何て呼ばれていたと知ったら、彼女のプライドが傷付くかもしれません」
「そ、そういうもんですか」
その時の仲介屋さんは冷静であり、それは彼もまた異本を扱うプロフェッショナルであることを表している様でした。
「おっ、噂をしていればなんとやら、本をご覧ください」
仲介屋さんに言われ、ベッドの上の異本に目を向けると、異本の表紙がブクブクと泡立っているのが見えました。これはもしや迂闊さんが上がって来ているということでしょうか?
“ザパーン‼”
「うわっ‼」
異本から大きな波しぶきが飛び、驚いた僕は思わず仰け反りました。そして波しぶきと共に迂闊さんが元気よく飛び出して来たのが見えたのです。
「宮本 迂闊‼帰還‼」
元気よくそう言うと地面にスタッと着地してニカッと笑う迂闊さん。良かった、びしょ濡れだけど何処も怪我が無いみたいでホッとした。
「お帰りなさいませ迂闊さん。びしょ濡れの様ですが如何なさいました?」
「あぁこれ?これは汗、相手の返り汗もあるから汚いよ、触らない方が良い」
「なんとそうでしたか、すぐに着替えを用意して、その服も洗濯しますね」
「おっ、仲介屋さん気が利くじゃん♪」
返り汗なんて言葉は初めて聞きましたが、中年の返り汗を浴びるのは嫌だなぁと僕は思います。
「それで迂闊さん、金田は何処に居るんでしょうか?」
あっ、本当だ。迂闊さんは金田って沈没者を引き上げに向かったんでした。けれど沈没者の姿は見えません。一体どういうことでしょうか?
迂闊さんはしばらく沈黙ののちに、バツが悪そうな顔でこんなことを言い始めました
「えっとー、アイツの能力が【増殖】って面倒な能力でー、アイツの分身みたいなのがいっぱい出て来てー、いくら斬ってもキリがなくてー、キモいし疲れたからー」
迂闊さんがハッキリ言わないので仲介屋さんが極論を言ってくれました。
「要するに引き上げ失敗ですね」
「うん♪そうとも言うね♪あっはははははは♪」
……笑って誤魔化すとはこのことですね。あれだけイキって潜って行ったのに引き揚げ作業失敗って、正直格好悪いと思ってしまいました。
こんな人に僕は引き上げられてしまったのかと、ちょっとため息が漏れます。
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