第20話 迂闊さんの華麗なる仕事 その1
「この本に
仲介屋さんはそう言いながらバーコード頭の小太り気味の男の写真を見せてきました。歳は40~50といったところでしょうか。目付きが悪く、とても食品会社の社員だったとは思えません。
「なるほど、この中年男を引っ張ってくれば良いんだな。楽勝♪楽勝♪ガッハハ♪」
えらく上機嫌な迂闊さん。僕というギャラリーが居るので、自分の実力を見せつけられると悦に浸っているのかもしれません。
「てか、借金で強盗してる時に【金の地獄】って本の中に入るとか、そのまんま過ぎるよな、めっちゃウケるんだけど♪」
「本の内容も借金に悩ませられる男の話ですし、タイトルを見ただけで金田は自分と同じだと共感性を持ったのかもしれません。読書好きでもないのに本の中に沈んでしまうケースは、本と自分を重ねてしまうことが多いですから」
僕は沈んで行くのも色々と理由があるんだなと仲介屋さんの話に耳を傾けていましたが、迂闊さんが上機嫌そうに僕にこう話しかけてきました。
「颯太も潜るか?私の華麗な活躍を傍で見たいだろ?ブックダイバーと一緒なら監視対象のお前も本の中に潜れるんだ。どうだ一潜り」
突然の迂闊さんの提案で少し迷いましたが、僕の答えはこれしかありません。
「いや僕は……影壱号も居なくなっちゃったみたいですし、危ないのでここに居ます」
「ふーん、自分の能力が消えるって、そんな話は聞いたことがねぇけどな。まぁ、無理強いはしないよ。私は良い女だからな♪」
無理強いをしないことが良い女の条件とは知りませんでしたが、すんなりと迂闊さんが引いてくれて助かりました。もしかしたら無理やりにでも本の中に引っ張られるかと思っていたからです。
正直、本の中に入るという行為に抵抗感があります。また自分が沈没者になるんじゃないか?そう考えるだけで身震いがします。もう二度と本の中に身も心も捕らわれるのはごめんです。
迂闊さんはその後、屈伸、アキレス腱伸ばし、背伸びをした後に力強くこう言いました。
「よし、行くぜ。まぁ、私にかかれば10分ってとこだな。二人共、茶でもすすって待ってろよ♪」
「迂闊さん、毎度のことながら沈没者の能力は分かっていませんのでお気をつけて」
「ほいほい♪じゃあ迂闊行きまーす♪」
ベッドの上の本に向かって迂闊さんは頭から豪快に飛び込んで行きました。迂闊さんが飛びこんだ瞬間、本からザブーンと音が聞こえるぐらい水しぶきの様なものが上がりましたが、音は全く無く、あれだけ水しぶきが飛んだというのにベッドには濡れた後が一つもありません。自分も経験していることですが不思議な現象ですね。本の表面に暫く波紋が広がっていましたが、それが収まると部屋全体が静寂に包まれました。迂闊さんが居ないとこうも静かな空間だったんですね。
「颯太さん、迂闊さんが仰っていた通り、私達はお茶でも飲んで待っていましょうかね」
「はい」
仲介屋さんが率先してお茶の準備を始め、僕は「ありがとうございます」と言いながら近くにあった椅子に腰掛けました。
さて迂闊さんが如何にして金原を引き上げるのか、僕は期待で胸がワクワクドキドキしてきました。
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