第16話 母帰還
迂闊さんは快く僕のことを認めてくれましたが、この家の家主である宮本 美智代(みやもと みちよ)さんが帰って来て、玄関で迂闊さんからそのことを聞くなり、問答無用で迂闊さんの頭を殴りつけました。
「何そんな大事なことをアンタが決めてるんだい‼」
“ゴチーン‼”
痛そうな轟音が鳴り、頭を抱えながらうずくまる迂闊さん。けど家主抜きで居候を決めるのは流石に無茶ですよね。
「い、いってーな母ちゃん。何でそんなに怒るんだよ。どうせ母ちゃんのことだから居候とかOKだろ?だから私がその手間を省いてやったんだよ」
「バカが、私はアンタみたいな実家に居座る寄生虫が勝手に大事なことを決めたのを怒ってるんだよ。言っておくけどアンタに何の権限も無いからね」
「き、寄生虫って、この間払ってなかった家賃まとめて返したじゃんかよ」
「溜めるな‼すぐに出せ‼それが社会人だ‼」
どうやら美智代さんは迂闊さんとは違って一本筋の通った人らしく、体型も恰幅が良くて白い割烹着を着ており、髪型はモジャモジャのパーマなので迫力もあります。仲介屋さんは迂闊さんと美智代のやり取りを見ながらニコニコしているので、この家ではこういう言い争いが頻繁に行われていると考えるべきでしょう。
「で、居候するって言うのは、そこに居る学生服の坊ちゃんかい?」
ジロリと僕のことを見てくる美智代さん。僕はびくっと体を震わせましたが、美智代さんは靴を脱ぐとツカツカと僕の方に歩み寄って来ました。近くで見ると更に迫力があります。
「アンタ名前は?」
名前を聞かれたので答えることにしました。出来るだけちゃんと答えないと、腹から声出せ‼とか言われそうな気がします。
「お、小野 颯太です」
「へぇ、良い名前だねぇ。よし、今日から宜しく頼むよ」
「えっ?」
まさかの即決OKに逆に困惑してしまう僕。僕が言うのも何ですが、見ず知らずの僕を簡単に居候させることを承諾して良いのでしょうか?
「ぼ、僕居候しても良いんですか?」
「良いよ、女に二言は無い。理由も言わなくて良いよ、どうせ仲介屋さん絡みの私には分からない話だろ?それにウチは旦那が死んでから私と迂闊の二人暮らしだからね、一人増えたぐらいでどうってことない。五年でも十年でも居れば良いさ」
ガッハハと豪快に笑う美智代さん。この辺が迂闊さんと親子って感じがします。
ここで迂闊さんは美智代さんの自分と僕との対応の違いにイラっときたのか、口を尖らせながらこんなことを言いました。
「ケッ、五年、十年もこんなボロ屋に居たくはないだろうよ」
「あっ、テメーぶち殺すぞ‼」
「上等だボケ‼」
こうして親子喧嘩が始まり、美智代さんが迂闊さんの首にヘッドロックを決めました。間近でプロレスを見ている様な凄い迫力です。
「颯太さん、二人は仲が良いでしょ」
仲介屋さんはのん気にそんなことを言ってますが、僕には喧嘩するほど仲が良いなんて感覚は分からないので、どうコメントして良いか分かりません。
結局、このあと迂闊さんが美智代さんのヘッドロックから抜け出すことが出来ずに、ギブアップ‼と宣言して、この場は何とか収まりました。母強しって本当なんですね。
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