第15話 雨降って地
「あー、この間私が助けた奴か、頭の片隅ぐらいで覚えてたわ、あはは」
あははじゃない。仲介屋さんの説明で、やっと僕のことを思い出してくれた宮本さん。このまま思い出されなかったらどうしようかと思いました。
「はい、それで迂闊さん。彼の監察者になっても良いようなことを先日言ってましたよね。それで宮本家を訪ねさせてもらったんです」
仲介屋さんがそう言うと、宮本さんは目を丸くした。あれ?また話が通じて無いんじゃないでしょうか?
「えっ、私そんなこと言ったっけ?酒飲んでたから勢いで言ったかもしれんな」
酒の勢いで僕の処遇を決めないで欲しいです。こりゃダメだ、絶対に断られる。僕は更生施設に送られて、そこでイジメにあって、イジメに耐えきれずに死んでしまうのかもしれません。人生に良いことが無さ過ぎて悲観的な考えばかりが浮かびます。
「まぁ、いいよ。この宮本 迂闊様が……えーっと、そこの奴の監察者になってやるよ。良い女に二言はねぇからな」
……えっ?あまりの予想外の言葉に僕は困惑しました。今この人、僕の監察者になっても良いって言ったんですかね?僕の名前もロクに覚えて無いくせに。
「良いんですか迂闊さん、まだお母様にも話をしていませんが」
「大丈夫、大丈夫、あのババァは私が説得するから、親父が死んでこの家に二人しか居ねぇからよ、一人ぐらい増えたって問題無いだろ」
「そうですか、そうして頂けると私共も助かります。颯太さん良かったですね、迂闊さんはアナタを引き取ることにノリノリです」
優しく微笑みかけてくれる仲介屋さんですが、僕にはこの宮本さんという人を信じることが出来ず、こんな失礼なことを言ってしまいました。
「ど、同情ですか?もしそうだとしたらやめて下さい。気まぐれでそんなことされても嬉しくありません」
僕は自分を受け入れてくれようとしている宮本さんを遠ざけようとしました。自分から進んで僕の居場所を作ってくれようとする人が居るなんて、そんな都合の良いことを信じることが出来ない程、僕は人間不信に陥っているのかもしれません。
「同情?そんなもんするかよ、テメーが勝手に本の中に引きこもってただけだろ?そんなのに同情なんてする心は持ち合わせてねぇよ、タコ」
僕を睨め付けながら、宮本さんは辛辣なことを言ってきました。タコって現実に悪口で言う人居るんだ。
「私はな、自分のワガママ気の向くままに生きてんだ。他人の気持ちなんざ知ったこっちゃねぇ。私がお前のことを預かりたいと思った、それだけ、それだけなんだよ。勝手に深読みしてんじゃねぇよボケ」
次はボケ、こんなに口が悪い人を初めて見ました。ですが僕の中に込み上げてくるこの感情は温かくて懐かしい感じがしました。
「……本当に僕の居場所になってくれるんですか?」
僕はこう問いかけると、宮本さんは居場所という言葉がピンと来なかったのか首をかしげましたが、すぐにこう返答してくれました。
「あぁ、居場所作ってやるよ。アタシの部屋の隣の部屋が、お前の住居スペースな。おっとタダ飯が食えると思うなよ。家事とかやってもらうからな。あとウチのババァは口喧しいから覚悟しておけ」
ぶっきらぼうだけど何故だか宮本さんに優しさを感じてしまい、僕の目からは涙が流れました。久しぶりに人の良い部分を見れた様な気がします。
「バカ、泣くんじゃねぇよ。このちり紙で涙を拭け」
「ず、ずみません」
宮本さんから渡されたちり紙で涙をぬぐう僕でしたが、そのちり紙の正体が先程やっとの思いで仕上げた原稿ということが分かり、宮本さんが発狂したのは言うまでもありません。
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