第14話 推敲作業

 結論から申し上げますと、宮本 迂闊さんは確かに部屋の中に居ました。この間と同じ様に赤いジャージを着てね。予想外だったのは…… 


「びぇええええええええん‼」


 机を前にして鼻水を垂らしながら大泣きしているということでしょうか。その様子は迷子になった幼児を想像してもらうと分かりやすいかもしれません。

 とにかく成人女性と思われる人がワンワンと泣いているのです。正直見るに堪えませんが、仲介屋さんはこの光景に慣れているようで、宮本さんの近くにそっと近づき、優しくこう話しかけました。


「どうしたんですか迂闊さん?もしかして推敲作業が上手くいってないんですか?」


「うっうっ、もう終わりだよ。推敲作業中に決定的な矛盾を見つけちゃったんだ。これじゃあ小説大賞に送れない。期日明日までだし」


 小説家志望というのは本当らしく、机の上には原稿用紙が置かれていました。10年まですらパソコンでの執筆が多かったと思われ、20代前半と見れる宮本さんが手書きというのは珍しい手法かもしれません。それにしても推敲作業中だったのか、よく知りませんが仕上げの作業であれだけ騒ぐものなのでしょうか?


「落ち着いて下さい。まだ間に合いますよ。我々も手伝いますから」


「えっ?」


 僕は思わず声を出してしまいました。今、我々って言った?


「……そうか、三人でやれば三本の矢で早いもんな。希望が見えてきたかもしれない。これなら何とかなりそうだ‼」


 なりそうだじゃない。あれだけワンワン泣いていた人が急に自信を取り戻しました。結局、僕まで推敲作業を手伝わされる羽目になりました。

 誤字脱字を直すだけなら、それほど時間はかからない作業ですが、問題なのは宮本さんが書いた小説は【天涯孤独物語】というタイトルで、天涯孤独の主人公が自分の境遇にめげずに人助けをするというストーリーなのですが、タイトルにもなっている設定を忘れたのか、途中で三人のヤンデレ、ツンデレ、デレデレの妹キャラが登場するというカオス展開になっており、それを修正するのには骨が折れました。

 朝に宮本家を訪れたのに、休憩無しで推敲作業を続け、日暮れになってようやく推敲作業の全てが終わりました。


「いやぁ、皆お疲れ。やっぱり持つべきものは友達だよな」


 清々しい顔の宮本さん。僕はいつ友達になったんですか。


「良かったですね迂闊さん」


 ハードな推敲作業をやらされたのにニコニコしている仲介屋さん。この人のメンタルは鋼なのかもしれません。


「で、ずっと気になってたこと聞いて良い?」


 宮本さんは僕を指差してこう言うのです。


「コイツ誰?」


 それを聞いて僕はガクッと肩を落としました。この人僕のこと覚えて無いんだ。さっきの友達認定はなんだったのでしょう?しかも、ずっと気になってたってってことは、途中から誰だコイツ?と思っていたのに手伝わせていたんですね、知らない男に自分の大事な推敲作業手伝わせるって頭おかしいでしょ?

 10年後の世界怖いです。

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