とある日常~ガラクタ屋~

イヴ「そろそろ着くわよ~。着陸する時は揺れるから気をつけてね!」

サラ「はーい。」

飛行船がゆっくりと下降を始める。

サラ「わあ、色々な屋根がたくさん!カラフルだね~。段々近づいてくるよ!」

イヴ「ガラクタ屋前に到~着~。」

その声と同時に機体がガタンと揺れた。

ダレル「意外と揺れないねえ。」

イヴ「まあ、私の操縦にかかれば大した事ないですよ!」

サラ「早く行こう~!」

サラがそわそわと立ち上がる。

イヴ「こら!まだ階段降ろしてないでしょ?慌てないの!」

サラ「早く早く~!」

イヴ「もう!子供っぽいんだから…。」

イヴが階段を降ろす。

サラ「ガラクタ屋へ急げ~!」

ダレル「サラ、転ばないでよ?」

イヴ「じゃあ、私はここで待っているので。サラの事、しっかり見張っててくださいね?」

ダレル「はは、わかったよ。それじゃ、行ってくるよ。」

ダレルが困り眉に微笑みを浮かべて答えた。


2人が外へ出ると1人の紳士が近づいて来た。

紳士「こほん、君たちは乗客かい?」

ダレル「はい、そうですが…」

紳士「操縦士は中に?」

ダレル「いますが…何かご用ですか?」

紳士「なに、君たちには関係ない!」

紳士はステッキを持ってカツンカツンと階段を昇り飛行船の中へ消えていった。

サラ「あの人、何か怒ってたね?」

ダレル「うーん、何もないといいけど…」

そう言いながら2人はガラクタ屋へ。


ガラクタ屋に着くと店主と思わしきスキンヘッドの中年男性が親しげにサラに声をかけてきた。

「おっサラちゃん!見たぜ、飛行船に乗って来ただろ?」

サラ「うん!友達のイヴに運転してもらったんだ!」

ダレル「サラ、この人が?」

サラ「そう!ガラクタ屋のおっちゃんだよ!」

「おいおい、店主だろ店主!まあ、おっちゃんでもいいけどよお。」

ダレル「初めまして、ダレルです。エルダー先生のお使いで来ました。」

店主「おお、あの天才発明家の!って事はサラちゃんとも知り合いか。」

サラ「ダレルはね?私と遊んでくれるんだ♪」

ダレル「いやあ、正確には仕事中にちょっかいをだされるというか…」

店主「はは!嬢ちゃんらしいや!それで、2人は今日は何が目当てだ?」

サラ「今日はねえ、これとこれと~。」

ダレル「えーと、先生から頼まれたのは~。」

2人は思い思いの品物をガラクタの山から選んでいく

サラ「よし!これで大丈夫!」

ダレル「僕も大丈夫です。」

店主「あいよ!サラちゃんは銅貨10枚でダレルさんは23枚な。」

サラ「はーい!」

ダレル「じゃあ、これで。」

店主「まいど!また来てな!」


サラ「ふふーん、帰って造るのが楽しみ!」

サラが材料の入った紙袋を抱えて笑う。

ダレル「僕は帰った後も仕事だから大変だなあ。」

2人が飛行船に戻ってくると怒鳴り声が聞こえてきた。


紳士 「だから土地の契約はしたのかと言っておる!」

イヴ「いいえ、でも…。」

ダレル「お二方、なんの揉め事ですかな?」

サラ「イヴ~大丈夫?」

2人が間に割って入る。

紳士「君たちはさっきの…なに、この土地の所有権はあるのかと訊ねていただけだよ。」

紳士は不機嫌そうに答えた。

ダレル「この空き地の事ですか?暫く整備されていないように見えるけど…。」

イヴ「所有権の事を聞いてきたからオーナーの関係者かと思ったけど、そうでも無いみたいなの。」

紳士「わたしはただ、この市場の一利用者として物申しているだけだ。あんな事故を起こした事のある会社に利用されては何が起こるか分かりゃしない!」

ダレル「事故ってイヴ航空の新型飛行船お披露目の時の…?」

紳士「そう、あれで小型飛行船の信用は地に落ちた。まさか今も続けているなんてな!」

イヴ「うう…。」

サラ「だからってイヴが悪い訳じゃないでしょ?あれから会社を立て直して頑張ってるんだから!」

紳士「ふん!どうだか…。」

店主「おいおい、見送りに来ようと思ったのになんだ喧嘩か?」

大きな身体を左右に振りながらガラクタ屋の店主が現れた。

紳士「おや、あなたはガラクタ屋の…。」

ダレル「この方がこの土地での飛行船の利用に懸念があるそうで…。」

店主「飛行船?ああ、イヴ航空…なるほど…でもまあ、いいじゃねえか。」

紳士「なっ!しかしあのイヴ航空ですぞ?」

店主「だけどよ、あれは結局、原因不明だった訳だし、社長も死んじまった。…嬢ちゃんはなんでイヴ航空を?」

イヴ「…その社長って言うのが私のお父さんで。イヴ航空って言うのは私の名前からつけてくれたの。だから私がその遺志をついで頑張るんだって…。」

店主「いい話じゃねえか。心機一転って事だろ?俺は若いののそういうの応援するぜ?」

紳士「いい話で済むのか!また何かあったら…!」

店主「俺が一番の古株として利用を認める。信頼の証だ。文句ねえだろ?」

紳士「むむ、あなたにそう言われると…。」

店主「それに、この土地なんて何年も使ってねえんだ。空き地になってるより客を呼び込む場所になった方がいいだろ?」

ダレル「ぼくは市場の部外者だけど、それがいいと思うな。」

サラ「わたしも~!」

店主「…嬢ちゃんは?」

イヴ「使わせていただけるならありがたい、です。お客さんを連れて来れるかはわかりません、が。」

サラ「え~?お客さんだったらサラ達がなるよ?ね、ダレル!」

ダレル「そうだね、買い付けはまたあるだろうし。」

店主「なら、多数決賛成多数、決まりだ!」

紳士「むう…仕方ない今回は引き上げるとしよう。しかし、わたしは見張っておるからな?」

紳士がステッキを鳴らしながら去って行く。


イヴ「ふう、良かった~。ありがとうございます!えーと…。」

店主「ああ、名乗って無かったな。ガラクタ屋の店主だ。」

イヴ「ガラクタ屋の!本当にありがとうございました!」

深々とお辞儀をするイヴ。

店主「良いって事よ。会社、頑張れよ?応援してるぜ。」

イヴ「はい!頑張ります!」

サラ「ねえ、イヴ~帰ろう?荷物持ってるの疲れちゃった!」

イヴ「ちょっとあんた、ムードが台無しじゃない!」

店主「はは、サラちゃんらしいな。でもまあ、またうるさいのが来たら困るしそろそろだろ?」

イヴ「そう、ですね。離陸の準備するから2人とも中に乗って~!」

サラ「はーい!」

ダレル「わかった。」

店主「また来てくれよ!じゃあな!」

サラ「うん、おじさんも元気でね~。」

ダレル「また来ますね!」

イヴ「そろそろ準備が出来るわよ、座っててね。」


音を立てて浮き上がり始める飛行船。3人は店主に手を振る。

店主もまた大きく手を振り返す。

ダレル「帰りは一悶着あったけど店主のお陰で助かったね。」

サラ「ね~?おじさん優しいからね!」

ダレル「イヴ、これからはガラクタ屋をルートに組み込むのかい?」

イヴ「はい、せっかくああ言ってもらえたので。ちゃんと利用してくださいね?」

ダレル「はは、もちろん。」

サラ「任せてよ~。」

談笑する3人を乗せた飛行船は市場から遠く離れ霞んで行く…。

-とある日常~ガラクタ屋~ 完-

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ドンロン物語 重位 旧冶 @shigei-motoya

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