第29話恋愛成就の代償

俺達は現場である東京のとある高校に向かった。


現場に着いて車を高校の敷地内に止めた。


車は桐生さんが持っていた物を俺の駐車場に止めていつでも使えることになった。


車を降りると既に姫野さんが近くにいた。


「姫野さん」


「来ましたか」


「まあ要請あったので」


「おお、みっちゃん」


そう得意げに声をかけて来たのは友重さんだった。


友重さんは現場の周りやゲートを数値で見たりする監査官だ。


この前の赤から虹に変化した事件でその後にハンター協会から呼び出されて、仲良くなった。


「ともちゃん、現場どう?」


「やばいね、とりあえずゲートと言うより結界使われてる感じ」


結界、これはゲートブレイクした後にモンスターが住処にするために使う手の一つだと聞いたことがある。


「友重さん、測定の結果は後で報告してください」


「おお、悪かったね」


「とりあえず、現状分かってることを説明します」


「はい」


姫野さんが統括していると言うことはこの現場も、中々追い詰められていると言うことになる。


「モンスターがゲートブレイクして恐らくこの学校の中にいます。肝試しに入って行方不明なのは高校三年生が三人です」


「学校はやってないですよね?」


「生徒含めて教員もいません、ですが生徒の中にハンターが二人いますがまだC級なので今回は参加はしない予定だったのですが」


「ですが?」


「最初に調査を行った際にモンスターもC級のモンスターだと分かったので、校舎が分かると言うことで二人を行かせたのですが一日連絡がつかない状態でして」


「結界の中では時間はずれてるやつですか?」


「はい、恐らく結界の中では大して時間は過ぎてないはずです」


「で、俺はそのモンスターを探して倒すと?」


「はい、ですが中はモンスターで溢れている状態だと思います。」


「分かりましたとりあえず行って来ます」


「はい、お願いします」




俺は校舎の中に入った。


中に入るまでは夕方だったが結界の中に入って外を見ると、夜になっていた。


結界に入る条件は様々あるが今回は俺は無事に入れたと言うことは、何か他に条件があるのか?


姫野さんが何も言ってないと言うことは何も分かってないと言うことだろう。


そもそも人を食うために結界に出れないようにすることが殆どなのでそもそも、条件などはないのかもしれない。


だが、この結界異常にエーテル濃度が高い。


と言うことは普通の人間では気を失うことはないにしろ、動けることはないとりあえず一般人の三人を探す必要がある。


「出てこい」


そう言うとマイクロ・ポータルが段々広がって行き、そこからモンスターが数体出てくる。


「マスター、ご用ですか?」


「ああ、捉えず一般人を探せ。エーテルが少ない人間だ」


グリムコード、こいつらは元モンスターだったが、俺がイーターズコードと言うモンスタを吸収するGiftで作り出したモンスターだ。


「かしこまりました」


「それからハンターを探してほしい」


「はい」


グリムコードは散らばって行った。

窓の外を見下ろすと、ここは四階らしい。

校庭には霧が立ちこめ、夜の街灯のように赤い光がゆらめいている。

――まるで異界だ。


下へ行こうとした瞬間、悲鳴が響いた。

階段横の教室からだ。


俺は迷わず扉を開けた。

「グリムコード、確認」

「了解――人間反応、一名。生命反応安定」


中にいたのは、制服姿の女子高生だった。

床にしゃがみ込み、肩を震わせている。


「おい、報告しろって言ったろ」

「マスター、対象は怯えています」

「それが分かったら、もう少し優しくしろ」

「“優しく”とは、攻撃を控えることですか?」

「いや、そうじゃねえ……見た目だよ、見た目!」


俺が苦笑すると、女子高生は小さく声を絞り出した。

「……もしかして、助けに……来てくれたんですか?」


「ああ、俺はハンターだ。安心しろ」

「み、美枝と小春が……! モンスターに襲われて……」

「その二人はどこに?」

「下の階に逃げたはずです!」


グリムコードが一歩前に出た。

「偵察に行ってきます、マスター」

「頼む」


黒い光が教室を抜け、音もなく消える。

俺は女子高生に手を差し伸べた。

「もう大丈夫だ。後は俺が守る」

その言葉に、震えが止まった。


【マスター、二名の生存者を確認】

グリムコードの声が頭に響く。

「了解、位置を送れ」


マイクロポータルが開き、空間がゆがんだ。

女子高生が目を丸くする。

「こ、これ……ゲートですか?」

「ああ、見た目だけな。転移魔法みたいなもんだ」

「大丈夫なんですよね?」

「俺を信じろ」


光が弾け、次の瞬間、教室が変わる。

二人の女子高生が怯えながら隅に寄っていた。

「もう怖い奴はいない。安心しろ」

三人は顔を見合わせ、涙を流した。


だが、一人が足を押さえている。

「くじいたのか?」

「走ってる時に……」

俺は結界の印を切った。

黄緑色の光が床に広がり、温かい空気が包み込む。

「ヒーリング結界だ。中に居れば自然治癒する」

「……あ、痛くない……!」


安心したように微笑む彼女を見て、俺は息をついた。


「それで――どうして肝試しなんて?」

「この学校の七不思議で、一晩明かすと“恋が叶う”って……」

「……馬鹿だな」

「ほんと、今は後悔してます」

三人は苦笑した。

「なら反省だな。ここを出たら、ちゃんと怒られろ」

「はい……」


【マスター、C級ハンター二名とボスを確認】

「了解。行くぞ」


転移先は体育館近く。

壁に背を預け、血を流す男と、膝をつく女ハンター。


「大丈夫か?」

「あなたは……誰ですか?」

「御影。救援に来たハンターだ」

「ヒーラー……ですか?」

「まあ、そんなところだ」


俺は再びヒーリング結界を展開した。

傷口がみるみる塞がっていく。

「これは……!」

「安心しろ。中にいれば助かる」


「ボスの情報を」

桐原と名乗る女ハンターが答えた。

「対象は人型。相手のエーテルを吸収して、バリアと下僕を生成します」

「なるほど。単純な吸収型か」

「か、簡単に言わないでください!」

「C級なら、生きてるだけで上等だ」


神阪という男が顔をしかめた。

「舐めるなよ! 俺も戦える!」

「なら三人を守ってろ。俺が行く」

「一人で? 無茶だ!」

「大丈夫だ。俺のGift、舐めんな」


体育館の扉を開けると、空気が異様に重かった。

中央には、異様に膨れ上がった“人型”。

紫色の皮膚が脈動し、低級モンスターがその周囲をうごめいている。


「人間、何の用だ」

「お前を倒しに来た」

「愚かだな。数を見ろ」


モンスターの群れが一斉に襲いかかる。

俺は無言で剣を抜いた。

一閃――風の刃が空気を裂き、十体が瞬時に消える。


「くだらん……だが、お前のエーテルは頂く!」


ボスの手が光り、体から何かが引き抜かれる感覚。

(なるほど、これが吸収能力か)


「ほう、余裕そうだな。もうすぐ立てなくなるぞ?」

「そうかな」


俺の周囲で結界が形成される。

その中の空間が圧縮を始め――モンスターが一体、また一体と潰れて消えた。

「な……なぜだ!? 吸っているのは私のはず!」

「俺のエーテルは、無限生成型だ」

「そんな……存在するわけが……!」


次の瞬間、ボスの体内で光が暴発。

轟音と共に、体育館が白く染まった。


静寂のあと、夕陽の光が差し込んでいた。

崩れた壁の向こうに、救出した少女たちが立っている。

「出られたの?」

「ああ、結界は消えた。終わりだ」

「やったぁ……!」


その時、ハンター協会の職員たちが駆け寄る。

桐原が息を呑み、俺に問いかけた。

「……あなた、本当に人間なんですか?」

俺は笑って肩をすくめた。

「さあな。人間でも、モンスターでもないのかもしれない」


そのまま夕陽の中へと歩き出した。


車の中で桐生が振り返る。

「お疲れ様です」

「なんとか終わりました」

「どうでした?」

「ボスは吸収型。普通に斬ると暴走する危険があったので、結界で圧縮しました」

「賢明な判断ですね」

「まあ、女子高生たちもこれで懲りたでしょう」


御影は窓の外を見つめながら小さく呟いた。

「……有紀、ね。あの子、普通の人間じゃない気がするな」

夕陽に照らされる横顔は、どこか寂しげだった。


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