第51話(上):『翡翠(ひすい) 第51号』


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死ねばいいってもんじゃない

作:蔵本敏明


 ああ、人はいつか死ぬさ。


 それが自然の摂理だ。世界の真理だ。

 ただ早いか遅いかってだけだ。それはわかってるって。


 だから僕には時間がもうないんだ。なんでって?

 ヒントは──医者、指定難病、ゼロデイは既に過ぎている。


 ほら、もうわかっただろ。

 僕の人生、もうロスタイムなんだ。


 どうするのかって?


 よくあるだろ、歌とか物語とか。

 明日世界が終わるからどうするかって。


 残念ながら、大作を書くことは諦めた。

 途中まで書いたものはこの部誌に載せておく。

 この先は書けない。この文章もそうだ。


 死ぬことも考えた。

 でもやめた。柄じゃない。

 死ねばいいってもんじゃない。


 一つだけ思い残している事がある。


 確かに僕はいわゆる喪男だ。ちょっと古いがモテナイ君だ。

 でも、もうそんなこと言ってられない。

 明日にも僕はいなくなってしまうかもしれない。


 だから、今からあの子に突撃する。

 伝えないと、死んでも死にきれない。


 結果は編集後記で報告する。


 もし成功したら、(ここで中途半端に作品が終わっている)


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死ぬなら一人で死ね

作:雄町桜



「面白くない作り話ね」


「あのね、いくら気を引きたいからって、そんなことでアタシが付き合うと思う?」


「土下座してもだめなものはだめ」


「なんでフェンスに登るの?」


「飛び降りる? すればいいんじゃない? どうせ死ぬんでしょ」


「本当に本当? ふーん、そうなの。しらんけど」


「診断書? 見るわけないじゃない。作り物なんでしょう」


「もういい加減フェンスから降りたらどう? 人が集まってきてうっとおしいんだけど!」


「あ、保健の先生いい所に……」


「へー、本当だったんだ」


「あ、あのね」


「死ねばいいってもんじゃないんだからね?」


「死んだら付き合えないから」


「……死んでも付き合わないから!」


「第一これでアタシと付き合えたとしても、蔵本は本当にそれでいいの?」


「自分自身を人質にして他人に言うことを聞かせるって最低って思わない?」


「え、思わないって?」


「時間が切れているから、手段を選んでる暇はないって?」


「……」


「──ハァ」


「もう、わかったわよ……」


「言っておくけど、あなたのことは嫌い」


「死ぬなら一人でどうぞ」


「アタシは見といてやるから」


「最期まで」


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編集後記


 生命の究極の目標は、命を繋ぐことです。

 僕は今回、その最初の一歩を踏み出しました。


 彼女にはOKをもらえました。

 そのあと滅茶苦茶ボコられましたが。


 色々な方々へご迷惑かけてしまったことを、紙面を借りてお詫びします。


 そして、可能性は低いけどここに書き残しておきたい。


 もしこれを読んだ君が僕の子どもなら、いや親戚でも誰でもいい。

 未完になっていた作品を完成させてほしい。


 とりあえず今回、可能性の最初だけはなんとかした。

 どこまで行けるかわからないけど、僕は絶対止まらない。


 そのときは誰だって一人だ。

 でも、まだ僕は生きているから。


 部長/編集長 蔵本敏明


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