第29話 カレーライス
「ノエルもてつだうな?」「がうがう」
僕とガルガルも手伝おうとしたのだが、
「大丈夫だよ。もうできているからね、ノエルは座ってていいよ」
ミアがそう言って椅子に案内してくれた。
「ありがとな?」「わうわう」
「今日だけはお客さんだからね。遠慮しなくていいよ」
そういって、ミアは準備に戻っていった。
折角なので甘えさせてもらおう。
「アオ、クロ、シロ、お腹すいたな?」
「なあ!」「みゃ」「にゃ~」
「わふわふわふ」
テーブルに案内されたけど、遊ぶにはテーブルじゃない方が良い。
僕たちはテーブルから離れて、元気に遊ぶ。
子猫たちを、僕は撫でまくり、ガルガルは舐めまくる。
「ねえねえ、アオのこと撫でていい?」
「なぁ!」
「いいよ。クロとシロのこともなでてあげてな?」
「うん!」
ミーシャたち、僕と年の近い子供たちがやってきたので、一緒に子猫たちを撫でる。
「かわいいねー」
「ねー、かわいいねー」
僕たちが遊んでいるのを、父様と母様、ママが優しく見守ってくれていた。
「がうがう」「わふわふ」
「ガルガルもペロももふもふだな? どっちがもふもふだ?」
そういうと、ガルガルとペロが僕に体を押しつけてくる。
ガルガルとペロの間に挟まれてモフモフを堪能する。
「ガルガルも、ペロも、こうおつつけがたい、いいもふもふだな?」
「いいもふもふ!」
ミーシャもガルガルとペロの間に飛び込んでモフモフを楽しんでいる。
そんなことをしていると、拠点に一人入ってきた。
太い尻尾と大きめの角が生えた女の人だ。
髪は長くて真っ赤、耳はエルフっぽく先がとがっている。
「ジルカ、お帰り」
そんな女の人にティルが、ジルカと呼びかける。
ジルカといえば、天星という二つ名を持つ聖獣の守護者の竜だったはずだ。
なのに、ジルカは竜には見えない。人型になることができるのだろう。
竜はやっぱり凄い。
「ただいまである! というか、ティルたちもおかえりだ! えっと、ノエルは~」
ジルカは僕を探してキョロキョロする。
ガルガルとペロのもふもふに挟まれているから見つけにくいのだろう。
「ここ! ノエル! ここいる!」
僕はガルガルとペロの間から、這い出した。
「おー。ノエル初めましてだ。我は天星のジルカである。シルヴァのお友達であるからなー」
「そっかー、ノエルもよろしくな? あ、この子がガルガルでー、アオとクロとシロ!」
僕は自己紹介のついでに弟妹たちを紹介しておく。
「ジルカって、竜? とべるのな?」
これはすごく気になっていたことだ。
「もちろんである。飛んだらなかなかの速さであるぞ」
「でも、人族っぽいのな?」
「……真の姿は実は凄いのである。めちゃくちゃでかくて、強そうで格好いいのである」
「ほえー。みたい……」「がうがう」
ガルガルも見たいと言っている。
「今度見せるのである!」
大きなガルガルがじゃれつくが、ジルカは軽くいなして撫でまくっている。
さすがは竜だ。人型でも力が強い。
「てんせいのジルカの、てんせいってかっこいいな? ふたつな?」
「そう、二つ名であるぞ。我のも格好いいが、シルヴァの影歩きも格好いいであろう?」
「うん。かっこいい。ノエルもほしいな」
「大きくなったら……いや、ノエルならそう遠くないうちに二つ名をもらえるやもしれぬな」
「ほんと?」
もらえるならすごくほしい。なぜならかっこいいから。
「うむ! ノエルは聖樹を育てているのであろう?」
「うん。そだててる」
「礼を言うのである。ノエルの聖樹のおかげで聖獣たちは皆助かっているのである」
「そっかー、よかった」
聖獣が助かっているなら、とても嬉しい。
「これは大きな功績ゆえな? いつか……近いうちに誰かから二つ名を送られるやも……」
「ほえー」
それは期待せざるを得ない。
かっこいい二つ名をつけてもらえるといいと思う。
「ノエルはどんな二つ名が良いのである?」
「む~? かっこいい二つ名だから……ひかりあるきとか」
「……ださ」
「え?」
「なんでもないのである!」
「そっかー、なんでもないかー」
そんなことを話していると、
「ノエル、フィロとカトリーヌも。一緒に夜ご飯を食べよう。みんなこっちに来てくれ」
ミアに呼ばれた。
「やった、ごはんだ! おなかすいたな?」
「がうがう」「なぁ」「みゃ」「にゃ~」
僕はアオ、クロ、シロを抱っこしてテーブルに走った。
「ノエルたちはここに座って。シルヴァたちの分はこれだよ! モラクスたちはこっち!」
「ありがと!」「かたじけない」『ありがと』
『リラからでかい猫と子猫がくるって聞いたから用意したわんね!』
『モラクスたちの席もつくったわんね!』
「おお、コボルトたち。そして聖女。我らへの気遣い感謝する」
『ありがと、たべやすい』
コボルトたちは僕や子猫たち、ガルガルやモラクス、ペロの席も用意してくれていた。
僕や子猫たち、モラクスの椅子は高くて、食べやすくなっている。
ガルガル、ペロ、モニファス、ペリオス、ペリーナの席には椅子はない。
そのうえ、テーブルは高めになっていて、お皿を固定しやすいくぼみがあった。
『体が大きくなったら、椅子をけずって調整するわんねー』
「ありがとな」「なぁ」「みゃ」「にゃ」
席につくと、すぐに料理が運ばれてきた。
それをみて、驚きのあまり固まった。
いや、匂いで何となくわかっていた。だけど、本当にそれだとは思わなかった。
僕の両隣に父様と母様が座る。
父様が言う。
「いい匂いだが、変わった見た目の料理だね。独創的だな」
「エルフの郷土料理の咖喱だよ。ほら、腐界の瘴気の中でも美味しく食べられるよう――」
ミアが料理の説明をしているが、僕は話半分に聞いていた。
「スパイスを使っているのなら辛いのかしら? ノエルは食べられるかしらね?」
母様が心配してくれる。大丈夫。食べられる。むしろ大好物だ。
「子供向けと大人向けでわけているから、大丈夫だよ。大人向けは少しだけ辛いけどね」
ミアが少し不安そうに言って。
「ノエル。スパイスを使っていると言っても辛くないから安心するといい――」
ティルがそんなことを言っている中、
「…………カレーライスだ」
僕は思わず呟いてしまった。
どこからどう見てもカレーライスだ。匂いと色は甘口のそれだ。
僕は五歳なので、甘口の方が良い。
大好物だ。まさか食べられると思っていなかった。
「ノエル? カレーライスって?」
「え? あ、なんでもないな? すごくおいしそう」
まさか、前世に食べた記憶があるとは言えないので、誤魔化しておく。
「ああ、美味しいよ。食べてみるといい」
「うん」
美味しいのはわかっている。
いや、この咖喱がカレーライスと同一の物だと判断するのはまだ早い。
いただきますをすると、
「おいしいおいしい!」「おいしいねー」
『うまいわんね!』『からあげもさいこうわん!』
「がふがふがふ」「もきゅもきゅ」
みんなおいしそうに食べ始めた。
僕は少し緊張しつつ、スプーンを握って咖喱を見つめる、
「ノエル、これはスプーンといってね。こうやって使うの」
「うん。ありがと、かあさま」
僕はゆっくりとスプーンで咖喱をすくい、口に入れる。
「どうだ?」「どう?」
ティルとミアから同時に聞かれた。
紛れもなくカレーライスだ。しかもものすごく美味しいカレーライスだ。
専門店の味というより、家で食べる大好きなカレーライスの味の上位互換だ。
肉が美味しくて、野菜が美味しくて、ルーがうまい。
「うん。……うん。カレーだ。カレーだな? 美味しいな?」
本当に嬉しい。こんなに美味しいカレーライスを食べられるとは。
添えられた唐揚げも、とても美味しい。唐揚げカレーは大好きだ。
「そうか、口に合ったのなら良かったよ」
「うん。良かった。ノエル、これが基本の私たちの料理なんだ」
「すごいな? こんなに美味しいカレーを作れるなんてな?」
エルフは凄い。僕以前にも転生者がいて、カレーライスの作り方を教えたに違いない。
僕は知らない過去の転生者に感謝した。
そして、その作り方を伝えてきたエルフの先祖たちにも感謝した。
「ありがとう。ミア。すごくおいしい。かんどうした」
「気に入ってもらえて。よかったよ」
ふと左右を見ると、母様と父様はまだ咖喱を食べていなかった。
「かあさまととおさまもたべるといい。すごく美味しいからな?」
「ええ、いただくわ……あら美味しい。少し辛いのも良いわね」
「ああ、唐揚げと咖喱は本当に合うな。この前いただいたハンバーグも美味しかったが……」
父様は咖喱も素晴らしく美味しいと言っているが、僕はその前の言葉が気になった。
「ハンバーグ? ハンバーグもあるの?」
ハンバーグと言えば、あのハンバーグだろう。ハンバーグも大好きだ。
五歳になって舌が子供になっているから、特に大好きに違いない。
「ハンバーグも生姜焼きもあるわ。今度作ってあげるね」
そういって、リラが微笑む。
「おおー、たのしみだな?」
なんと生姜焼きまであるとは。これは絶対に転生者がいたに違いない。
改めて、僕は過去の転生者に感謝した。
「ノエル。ハンバーグというのはね、挽肉を使って……」
母様がハンバーグについて教えてくれる。
どうやら、ハンバーグは僕の知っているハンバーグらしい。期待が膨らむ。
「ほむほむ」
僕は母様の話を聞きながら、咖喱をバクバクと食べた。
本当に美味しい。いくらでも食べられる。毎日でも食べたいぐらいだ。
僕を少し心配そうに見つめていたティルが咖喱を一口食べて言う。
「おお、うまい。……うん。甘い咖喱も美味しいけど、こっちの方が好みだな」
「そっか。気に入ってもらえて良かったよ。もう少し辛い方がいい?」
ミアがそうティルに尋ねる。好みに合わせて辛さの調節もできるようだ。
五歳児だから甘口が良いけど、大きくなったら辛めの咖喱も食べてみたい。
「もう少し辛い咖喱も気になるが、この咖喱が最高にうまい気がする」
「そっか。辛さに慣れて物足りなくなったら言ってよ」
「ありがとう」
僕がミアとティルの話しを聞きながら、咖喱をバクバク食べていると、あっさりなくなる。
美味しすぎて止まらなかった。
「ノエル、おかわりもあるからね。遠慮しなくていいからね」
「ありがとう、ミア。おかわり!」
「はいはい」
「ありがと!」
おかわりした咖喱も美味しかった。
あまりに美味しくて、二回もおかわりしてしまった。
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