第28話 ティルの拠点
たまに襲ってくる魔物を倒しながら走って、日没近くになって、ティルの拠点に着いた。
「おー、ティル! あれがコボルトの魔法ってやつな?」
ティルの拠点はコボルトたちの魔法で幻の魔樹と魔草で覆われているように見えていた。
「そうだよ。ノエル。シルヴァ。ガルガル。付いてきてくれ」
ティルが先頭に立って、幻の魔樹と魔草に向かって歩いて行く。
アオ、クロ、シロが緊張した様子でガルガルの背中にしがみついていたので撫でておく。
僕が撫でると、少し安心したようだった。
「おお、確かに瘴気が完全にないではないか。これがティルの結界の力か」
結界の中に入ったママが驚いている。確かに瘴気がない。
「このき、すごいな? 精霊がきになるな?」
「わふわふっ……ぁぅ?」
「すごい! ふおおお」
「ぁぅぁぅ」
「なあなあ!」「みゃぁぁぁ!」「にゃあ」
結界に入って少し歩くと、生い茂っていた幻の魔樹と魔草が消えた。
びっくりした。ガルガルと子猫たちも驚いている。
生い茂っていた魔樹と魔草の代わりに、瘴気を出さない背の低い草木が生えている。
「見事である。これがティルの作った村か」
ママが感心して唸るように言う。
拠点には、木造のしっかりした建物が二軒あった。
一つは、不思議な力を感じる五メートル四方ぐらいの立方体の家。
もう一つは二十メートル四方の大きい家だ。
他にも、何に使うかわからない高さ三メートルぐらいの柱が八本たっている。
柱からは、五メートル四方の立方体の建物と同じ不思議な力を感じた。
もしかしたら、結界に関わる物なのかもしれない。
他にも全員が席に着けるぐらい大きなテーブルがあったり、炉っぽいものもある。
「まだ村と呼べるほどのものじゃないさ。拠点だよ。凄く気になることがあるが……。おーい、みんなただいま!」
ティルが拠点の中心に向かって呼びかけると、
「おかえり!」「その子だれ?」「わーでっかい猫と犬だ!」「子猫もいる!」」
『おかえりだわん!』『まちくたびれたわん!』
耳のとがった人族の子たちと二足歩行の犬みたいな子たちが駆け寄ってくる。
きっと耳がとがっている人族の子がエルフで、二足歩行の犬がコボルトだろう。
エルフの子たちは僕よりも年上の子供たちがほとんどだ。
コボルトたちは身長が五、六十センチで、中型犬ぐらいだ。とてもかわいらしい。
モラクスの母牛と、ペロの両親ぽい狼も走ってきて、自分の子供をベロベロ舐める。
「とりあえず、新しい仲間を紹介しよう」
「おかえり!」『待ってたわん!』
コボルトたちは語尾に「わん」がつくらしい。
「この子がノエル。そしてでかい犬がガルガルで、大きい猫がシルヴァ、子猫がアオ、クロ、シロだ」
「わー、かわいい!」「ぺろぐらいでかい!」
「子猫だ!ふぉぉぉ」
『仲間がふえてうれしいわん』『なでてわん!』『やったわんね!』
ティルが紹介してくれると、みんな大喜びで僕を囲んでくれる。
歓迎してくれているようで、とても嬉しい。
「ノエルだ。よろしくな?」
「わぅわぅ」「なぁ」「みゃ」「にゃ」
「我はシルヴァだ。よろしく頼む」
僕が自己紹介するとガルガルと子猫たち、ママも自己紹介する。
「ミアだ。エルフたちのリーダーをしている。よろしくな。ノエル」
「ミーシャ! ミアのいもうと! よろしくね、ノエル」
ミアは綺麗な女の人で、一人だけの子供ではないエルフだ。
そして、ミーシャは、一人だけの僕より年下っぽいエルフだった。
「ミア、ミーシャ、よろしくな?」
「ねえねえ! そのふくかっこいいね!」
ミーシャの次に小さな子供が褒めてくれる。
ママの作ってくれた猫の着ぐるみの良さがわかるとは、センスがあると思う。
「これはな? ママがつくってくれたのな?」
「ママ?」
「シルヴァだよ」
「ほえー。すごい、猫なのに」
「ななー、猫なのにどうやって作ったの?」
「ああ、それはだな――」
ママも子供たちに大人気だ。
アオたち子猫も子供たちに可愛い可愛いと撫でられてまんざらでもなさそうだ。
『でかいわんねー』『りっぱなおおかみだわんね?』
「わぅ~」
ガルガルは、コボルトたちに大人気だった。
「ノエル、その枝なに?」
「おおー、これはな? いるみんのむすめの枝でな? 魔法をつかうときにべんりな?」
「ま、魔法つかえるの?」「子供なのに?」
「つかえる。得意」
「おおー」
僕が子供たちと楽しく話している間、ティルはミアたちとお話ししていた。
どうやら立方体の建物と柱は、ティルがいないうちにコボルトたちが建てた神殿らしい。
不思議な力を感じたのは神殿だったからかもしれない。
神殿の中では、リラという神官が何やら儀式をしているそうだ。
不思議な力を感じるということは、神官の力は本物に違いない。
テーブルや炉もコボルトたちが作ったらしい。
小さくて可愛いのに、コボルトたちは手先が器用なようだ。
コボルトたちは『なでてわん』とティルになでなでを要求している。
まるでガルガルみたいだ。精霊だときいていたけど見た目通り犬っぽい。可愛い。
「あ、そうだった。リラは木を植えろって言ってたな。何のことかわかる?」
ティルと会話していたミアが思い出したように言う。
「聖樹のことか? シルヴァ、ノエル。聖樹の若木は植えなくていいのか?」
「そうだった! どこにうえたらいい?」
もちろん、聖樹の若木のことを忘れていたわけではないけど、勝手に植えるわけにもいかない。
だから、ティルが落ち着いたころに、どこに植えれば良いか聞こうと思っていた。
「どこでもノエルの好きなところに植えていいよ」
「いいの? ありがと! じゃあ……」
僕は拠点の中をぐるりと見回して、聖樹の若木が快適に過ごせるところを探す。
快適なだけじゃなく、僕やガルガルが守りやすいところがいい。
「ここ!」
色々と悩んだが、最後は直感で決めた。
建物の近くで、軟らかそうで栄養がありそうに見えた土の場所を選んだ。
『手伝うわん!』『あなをほるわんね!』
するとコボルトたちが走ってきてくれた。
「こぼるとたち、ありがとな?」
『ほめられたわん!』『なでてほしいわん!』
「えらいえらい。ありがとありがと」
『わふぅわふぅ』
僕はコボルトたちをほめて撫でまくった。
やっぱりコボルトたちはガルガルっぽい。
撫でまくると、コボルトたちは素早く穴を掘ってくれる。
「ありがとありがと、よーしよしよし」
『きもちいわん』『うれしいわんうれしいわん』
お礼を言ってコボルトたちを撫でまくってから、三本の聖樹の若木を植えていく。
「種もうえよう」
聖樹の種を植え終わると、聖樹の枝で、植え替えたばかりの若木に触れて魔力を注ぐ。
「今日のごはんだ。たくさんたべるといい」
植え替えで疲れているだろうし、いつもより多めに魔力をあげた。
「ノエル。そんなに魔力をあげて疲れないのか?」
ティルが心配そうに尋ねてくる。
「だいじょうぶ。いつもやってるからな?」
「それはすごい」
やはり、若木は疲れていたみたいだ。魔力をあげると目に見えて元気になっていく。
「いっぱいたべるんだよ~」
若木がいつもより元気になるまで魔力をあげておく。
若木の周りの空気が、ますます綺麗になった気がする。
もちろん、瘴気除けの結界があるので、拠点の中には瘴気は全くない。
だけど、聖樹の若木の周りは、瘴気がない以上に、気持ちよさを感じる気がした。
「ありがとな、いるみんのむすめたち。くうきがうまい」
魔力をあげ終わると、僕は若木たちを順番に手で撫でて。お礼を言った。
「種もそだつといい」
次に種を埋めた場所にも杖で触れて、魔力を注ぐ。
すると、いつものように数秒で、芽が出て、すくすくと育ち始めて安心した。
今まで種を植えた場所と違うから、ちゃんと育ってくれるか少しだけ不安だったのだ。
「すごいすごい! もうはえてきた!」
「がうがう!」
ミーシャが大喜びすると、ガルガルがどや顔で尻尾を揺らしながら、僕の顔を舐めてくる。
「えへへ。育てるの得意だからな?」
種から出た芽が一メートルぐらいまで伸びたとき、神殿の扉が開いて中から人が出てきた。
その人は真っ白なローブと神官の帽子のようなものを身に付けている綺麗な女の人だ。
きっと、リラという名の神官だろう。
手には身長ぐらいある大きくて格好いい杖を持っている。
「ティル、おかえり」
リラがティルにかける口調は優しかった。
きっと、リラはティルが好きに違いない。僕は子供だけどそのぐらいはわかる。
「ただいま。リラ。儀式は終わったのか?」
「ええ。それより、どう?」
そういって、リラはくるりとその場でまわる。ローブの裾がふわりと広がった。
「よく似合ってるよ。まるで聖女様みたいだ」
「ふふふ」
ティルが褒めるとリラはすごく嬉しそうだ。恋する少女の目をしている。
僕は五歳だけど、そのぐらいはさすがにわかる。
嬉しそうなリラに、ママはゆっくりと近づいていく。
するとリラは、綺麗な動作で杖を両手で捧げるようにして、ママに向かってひざをつく。
「古の神獣。影歩きのシルヴァ。会えてうれしい。私はリラ・ミシャール。以後よろしく頼む」
敬語ではないけれど、不思議と丁寧に感じた。
「星見の神の聖女よ。会えて光栄である。影歩きのシルヴァである」
リラの言葉に対して、ママも丁寧に挨拶している。
「ちょっとまて、神獣なのか? そして聖女だったのか?」
ティルが驚くと、リラは楽しそうに微笑む。
僕もびっくりしていた。ママが神獣だったとは知らなかった。
そもそも、聖獣と神獣の違いって何だろう? あとでママに聞いてみよう。
「びっくりした? 私は聖女だったのです」
「びっくりした」
「全然気づかないからおもしろかったわ」
リラは本当に楽しそうだ。
「……本当にびっくりしたよ。そして、神獣って聖獣の上位存在というあの?」
「その神獣よ。シルヴァを見たら、ただ者じゃないってわかるでしょう?」
「なぁなぁ。神獣と聖獣ってどうちがうん?」
僕が尋ねると、リラは優しく教えてくれる。
「聖獣の上位存在が神獣なの。聖獣から神に選ばれたものが神獣ね」
そして、人族の中から神に選ばれたものが聖女や聖者らしい。
「なに、神獣か聖獣かなど、強さ以外に大きな違いはない。気にするでない」
ママはそういって、僕のことを舐めてくれた。
道理でママは強いはずである。
「そうよ、人族が気にするようなことじゃないわ。……あなたがノエルね」
「うん。挨拶がおくれてすまぬな? ぼくがノエル。よろしくな? この子がガルガルで、アオとクロとシロ」
自己紹介する前に神獣について尋ねてしまったので謝っておいた。
「これはご丁寧にありがとう。よろしくね。ノエル。私はリラ・ミシャール。ガルガルもよろしく。アオとクロとシロも」
「なぁ」「にゃ」「みゃ」
僕たちとリラが互いに自己紹介を済ませると、ママが言う。
「星見の神の聖女よ。ノエルを見つけるために尽力したと聞いた。礼を言う」
「うちの神の希望だから、気にしないで」
リラの神様が僕を助けることを希望したとは。神様にお礼をいいわないといけない。
それにしても、星見の神って、どんな神様なんだろう。
「星見の神は、ノエルに何をさせたいのだ?」
ママが尋ねると、
「わかんない。聖女としての神託じゃなく、リラとしての予想として聞いてほしいのだけど」
そう念押しして、リラは言う。
「多分、聖樹を育てて欲しいのではないかしら」
「ふむ? 確かに、あり得る話しだな」
頼まれなくても、聖樹を育てることは、僕のおしごとである。
イルミンスールからも頼まれているし、育てたら食べられる実もとても美味しいのだから。
「ノエル、せいじゅ育てるの得意だからな? まかせるといい」
「お願いね」
そういって、リラは僕の頭を撫でてくれた。
そんなリラにミーシャが言う。
「リラ! ミーシャ、おなかすいちゃった!」
『ぺこぺこだわん!』
コボルトたちもリアに甘えている。
「お待たせ。ご飯にしよっか」
「わーい」
『やったわんね!』
リラとミア、年長の子供たちとコボルトたちがご飯の準備を始めた。
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