第27話 ティルの拠点に向かおう
次の日、朝ご飯を食べおわると、出発の準備をする。
「ノエル。準備を手伝おうか? 持って行きたいものはないのか?」
ティルにそう言われて考えてみた。
「うーん。あ、いるみんのむすめ、つれていく! まだノエルがそだてないとだしな?」
成長した聖樹の若木は、僕が魔力をあげなくても大丈夫。
だけど、まだ小さな子は僕が毎日魔力をあげないとだめなのだ。
ママは毎日は魔力をあげなくてもいいと言っていたけど、毎日の方が良いに決まっている。
僕も毎日ご飯を食べるのだから。
「ノエルが面倒みないといけないのは、この子たちだな?」
まだ僕が毎日魔力をあげないといけない幼い若木は三本だ。
根っこを傷つけないようにして、三本を丁寧に掘り起こす。
「のえると、一緒にお引っこしな? すこしさむいかもだけど……。魔力あげような?」
根っこを掘り起こされている状態が若木にとってどういう感覚なのかわからない。
寒いかもしれないが、我慢してもらうしかない。
僕は念のためにいつもよりたくさん魔力をあげた。
魔力をあげ終わったら、モラクスとペロがやってきて若木をそっと口に咥える。
「え、モラクスとペロも手伝ってくれるのか?」
「もっも」「わぅ」
「ありがとな?」
「残りは我が運ぼう」
「ママもありがとな?」
幼い若木はこれで大丈夫だ。
「他の聖樹は持って行かなくてもいいの?」
ティルが残された若木をみて尋ねてくる。
「いるみんのむすめたちはだいぶ強いからな?」
「強いってどういう?」
「えっとだな。魔物がちかづいてきたら、つかまえてチューチューすうのな?」
「食虫植物みたいな?」
「そうそう!」
「それはすごいな」
「ああ、よほど強力な魔物でない限りは大丈夫であろう。魔王種も倒れたばかりであるし」
感心するティルにママが説明している。
どうやら最近魔王種とかいう魔物が倒されたらしい。
そのおかげで、魔物の強さが落ちているし、聖樹の若木もしばらくは安全だとママが言う。
「魔王種が倒されて良かったな」
「ああ、ありがとう。礼が遅くなった。ジルカから聞いた。ティルが倒したのだろう?」
「俺は手伝っただけだよ」
「ジルカは、ティルがいなければやられていたと言っていたがな」
そういって、ママは深く頭を下げる。
「改めて、全ての聖獣を代表し、影歩きのシルヴァが礼を言う」
「お役に立てたならよかったよ」
どうやらティルは、とても強い魔物を倒した凄い魔導師らしかった。
あとで詳しくお話しを聞いてみたい。
だけど、今は聖樹の若木との挨拶が大切だ。
僕は残していく若木のことを優しく撫でる。
「いるみんのむすめたち。元気でな? もうノエルがいなくてもだいじょうぶだな?」
すると、聖樹の若木はゆったりと動いて頭を撫でてくれた。
「ママをおねがいな? うん。心配しなくてもノエルはだいじょうぶだ」
「……ほんとに聖樹は動くんだな」
「……だから言ったであろう?」
ティルとママが小声で話している。
だけど今は聖樹の若木との挨拶の方が大切だ。
「…………」
何となくだけど、若木の言っていることがわかった。
若木たちはありがとうとお礼を言ってくれている。
「ノエルのほうこそありがとうな? うん。いるみんの娘たちは、ノエルの娘でもあるからな?」
「…………」
「ノエルはわすれない。いるみんの娘たちもノエルをわすれないでな?」
話をしながら僕は聖樹の若木に最後の魔力を注いでいく。
きっと聖樹の若木たちは大丈夫だ。
別れを済ませるとママが優しく声をかけてくれた。
「ノエル。準備はよいのか?」
「うん、ママ。だいじょうぶ。ガルガルは?」
「がうがう!」
「え? それもってくのか?」
「わふ~」
ガルガルはどうやら、お気に入りの木の棒を持って行くつもりらしかった。
どや顔で尻尾を振っている。
全員の準備が終わると、出発だ。
母様はママの背に、アオたちはガルガルの背に乗った。
「ノエルもシルヴァの背に乗せてもらった方が……」
僕の足の速さを知らない父様が心配してくれる。
「だいじょうぶ! ノエル、はやいからね!」
「だが……」
「大丈夫だよ。ノエルは速いよ。体力も充分だろう。シルヴァもそう思うだろう?」
どうやら、ティルは僕の足が速いと考えてくれているらしい。
「ああ、むしろフィロがバテないか、心配なくらいである」
「そうか。シルヴァがそういうならば……」
ママにそう言われて、父様も納得したみたいだ。
やっぱりママの信用度は高いのだ。
「それじゃあ、付いてきてくれ」
そういうと、父様が先頭にたって走り出す。
その後ろを僕とガルガルとノエル、更に後ろにシルヴァとティルが続く。
ペロとモラクスは周囲を元気に走り回っていた。
父様と母様、それにティルは瘴気除けの仮面をかぶっていた。
よくあんな暑い仮面をかぶれるものだと感心する。
ティルから「瘴気臭さがましになるぞ」って勧められたが断った。
走り始めて、三十分ぐらいたって、魔物の気配を感じた。
父様と母様に良いところを見せるチャンスだ。
「まものだよ! まかせてな?」
次の瞬間、大きめの魔猪が突進してきた。
大きい魔猪は、お肉がたくさん採れるので、ガルガルと子猫たちが喜ぶのだ。
「にゃっ!」
猫魔法で氷の槍を放って、仕留めておく。
「にゃ?」
我ながら良い感じに倒せたと思う。
急所をついて、一撃で倒せたので、お肉も傷んでない。
「ノエルすごい!」
「立派になったわね!」
「えへへ、がんばったー」
父様と母様が褒めてくれたので、とても嬉しくなった。
「ティルもノエルの魔法みた?」
「見たよ。ノエルの魔法は本当にすごいな」
「えへへー」
凄い魔導師っぽいティルも褒めてくれた。
「ニャって言うのもいいね。 おっと、お肉を運ぶのは、俺に任せてくれ」
僕が魔猪の肉を運ぼうとしたら、ティルが鞄に肉をしまった。
普通の鞄に見えたのに、何か魔力を感じる図形が光って、肉がシュッと消えたのだ。
「おお? おおお? なにそれ? それなんだ?」
「これか? これは魔法の鞄と言って――」
どうやら凄い魔法のかかった鞄らしい。
小さく見えるのに、容量がものすごく大きくて、重くもならないらしい。
そのうえ、中にいれると、お肉が腐らないという。
拠点に向かって走り始めても、まだティルは説明してくれる。
五歳児だからと、適当にはぐらかさずに、わかりやすく教えてくれた。
「ほえー、ティルはすごいな?」
ティルはやはり本当にすごい魔導師のようだ。
「期待させて悪いが、俺が作ったんじゃないよ?」
「え? じゃあ、だれがつくった?」
「俺の師匠だな。カトリーヌの師匠でもある」
「ほえー、ティルとかあさまのししょうは、すごい魔導師なのだな?」
すると、ママ乗った母様がこちらを振り返った。
「師匠は本当に凄い魔導師よ。人族史上最強と言っても過言ではないわ」
「ほえー。ティルとかあさま、そんなすごいひとの弟子なのかー」
さすが母様とティルである。
そんな凄い人は弟子になるだけでも大変に違いないのだ。
「私は魔導具づくりを教わっただけなのだけど、兄弟子はもっと色々教わっているの」
兄弟子とはティルのことだ。
すごい母様からみても、ティルはすごい魔導師らしい。
「すごいな? ティルは魔法の鞄、作れる?」
「…………相当頑張れば」
「おおーすごいな。それにティルは、まおうしゅ? とかいうすごい魔物もたおしたのな?」
良い機会なので聞いてみた。
「俺一人の力じゃないよ。モラクスの母とペロの両親とジルカっていう――」
どうやら、魔王種という厄介な魔物がいるらしい。
魔王種がいるだけで、周囲に生まれる魔物まで強くなると言う。
その魔王種と戦っていたジルカを、ティルは助けたらしい。
「ほえー。すごいんだなー」
「ああ、ジルカたちは三週間も飲まず食わずで戦い続けていたからな」
「さんしゅうかんも? おなかへっちゃう」
「本当にな。人族なら死んでるよ。俺は最後にとどめをさしだただけだ」
「すごいなー。あ、ノエルは聖獣だから三週間ぐらいいけるな? ためし――」
「やめなさい」「馬鹿なことを言うでない」
母様とママに怒られてしまった。
「ノエル、た、たべるよ? ごはんすきだしな?」
それにお腹空いたら、とてもつらいし大変だ。
「そうよ。まだ子供なんだから。お腹いっぱい食べなさい」
「カトリーヌのいうとおりである」
母様とママのいうとおり、いっぱいご飯を食べようと思う。
「でも、聖獣ってすごいんだなぁ。三週間もたたかいつづけるなんて」
「俺からしたら『にゃ』で魔法を発動させたノエルの方が凄いけどね」
ティルがそんなことを言う。
「そうかな?」
「ああ、普通は詠唱が必要だからな」
「ほえー。ふつうがよくわからんな? あ、魔物! こんどはティルおねがいな?」
そんなことを話していると、魔物の気配がした。
ずっとずっと空高くを飛んでいる魔鳥だ。とても大きくて食べるところが多い。
凄い魔導師であるティルの戦うところが見たかったのでお願いしてみた。
「俺の魔法がみたいの? いいよ」
「やったー」
魔鳥が急降下を始めた次の瞬間、
「
ティルが落ち着いた口調で何かをとなえると、魔力で作った槍が魔鳥を貫いた。
そして、急降下の勢いのまま落下してくる魔鳥を、魔力の壁で受け止める。
「おー! ティル! すごい!」
「ありがと」
ティルは僕の頭を撫でると、素早く魔鳥の死体を魔法の鞄にしまった。
魔法の鞄とは、本当に便利な道具だ。
魔鳥をしまうと、すぐに拠点に向けて走り出す。
「はすた! むーるす! これがえいしょうかー。ほむ~」
「そうだよ。だいぶ短縮はしているけどね」
「すごくなんか、魔力の流れがあれだな?」
「あれとは?」
「うーん。言葉はちがうけど、僕の『にゃっ』と同じ?」
人族の魔法も猫魔法も、あんまり違いはないのかもしれない。
もちろん、同じではないけど、似ている部分が多い気がした。
「正解。そもそも、詠唱というのは――」
ティルが詠唱について説明してくれる。
どうやら、魔法を使う際、世界に許可をもらうために詠唱が必要らしい。
それは人族の魔法も猫魔法も同じだという。
「ノエルの『にゃ』は聖獣の言葉だろう?」
「うん。そだな?」
「聖獣は音ではなく魔力に意味を持たせるから、音自体は重要ではないんだよな?」
「……そだな?」
そう言われて、意識してみると、そうかもしれない。
あまりにも普通に使っているので意識したことがあまりなかった。
「でも、ティルのハスタって、どのへんが、おうかがいなの?」
「実は、俺も魔力に意味を乗せているんだよ」
ならハスタも聖獣の言葉と同じなのかもしれない。
「ノエル。普通の詠唱はもっと長いの。兄弟子はものすごい魔導師だから異常に短いのよ?」
「そうなの? かあさまのえいしょうは?」
「魔法は発動せずに詠唱だけやってみるわね?」
母様は「失礼」といって、ママの背中の毛をがしっと掴んでこちらを向いた。
「いくわね。世界に偏在する雷の精霊よ。古に結ばれし盟約に従い我の願いを叶えたまえ。我の魔力を糧とし、この世界に奇跡の力を顕現せん。天神の轟雷」
「おお~」
とても長い。お伺いぽさも感じる。
「これは雷を落とす魔法の詠唱。ね、ノエル長いでしょ?」
「ながいな? まものにやられちゃうな?」
「そうね。だから前衛がいるのよ」
母様はそういうが、いつも前衛がいるとも限らない。
それに、一人で戦えないと困ることもあるはずだ。
「……やっぱり、みじかいほうがいいな?」
「当然そのとおりだよ。その点は聖獣語の方が、便利だな」
「そっかー」
やっぱり、ママの猫魔法は凄いのだと僕は思った。
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