2.予言者は羊の夢を見る
夢から醒めて、彼は真っ先に鏡を見た。どこにも羊の綿や草はついておらず、ただのローブを纏った青年しか写っていない。彼の目の下に隈はなく、熟睡したため比較的体の調子は良かった。むしろ、どこにも問題がないことが問題だったのだ。彼は次第にあの羊の夢を見ることがスランプの原因なのではと思い始めた。
日が暮れて、彼は羊に関するものを次々と寝室から倉庫へ移した。マットレスのない固いベッドに、麻で出来た掛布団をかけて彼は眠りについた。
夢は例に違わず、羊になる夢だった。手が届きそうなくらい近い空は、どこまでも澄んでいる。草木は黄色くなびいて、間に虫がチラチラと見え隠れしている。いつもと変わらぬ景色だった。彼は現実味が強すぎる景色に、自分が本当は羊で人間になる夢を見ているのではないかと思い始めた。すると、草木の色が黄金から橙色に、橙色から青色に変化していった。空は暗い紺色で、星々が点々と輝いている。中でも強い輝きを放つ一等星が二つ見えた。彼の目には、それらが人間の目のように見えていた。
いつもの天井が、自分を歓迎する。彼は背中の固い感触で、昨日の晩に羊に関係するものが自室にないことを思い出した。
―では、先程の夢は一体何だったのだろうか―
彼は考えこんだ。自分が羊であるのか人であるのかやはり分からなかったのだ。しばらくして、日課である瞑想を行った。暗闇の中に光がさした気がする。あともう少しというところで、何もかもが見えなくなってしまった。
昼になって、彼はふかふかの寝床を作りあげた。睡眠の環境と羊の夢が関係なかったと分かったからだ。どうせ寝るのなら、気持ちよく眠りたいと思ってのことだった。彼は、ベッドを整えてからしばらく考え込んだ。
夕飯を食べていると、彼はふと、自分は羊であろうと人であろうと大差ない生活をおくっているのでは、と思い始めた。
―ならば、自分が何者であるかなどはどうでも良い。容姿などは関係ない―
彼はそう思うと、吹っ切れた。すると、いきなり彼の脳内に未来の景色が写った。
それは、羊と戯れている自分の姿だった。
預言者は羊の夢を見る Zamta_Dall_yegna @Zamta_Dall_yegna
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