無邪気な来訪者(705)

ユラは混乱しながらも、近くのカフェに女性を導いて入った。


「あ、涼しくなった」


女性はそう呟いて、店内を見回す。


「こっちが空いてます」


ユラは女性を促して、4人掛けの席に腰掛けた。女性はユラの隣に座る。


(近っ)


ユラは慄いて、女性の顔を見つめた。長いまっすぐな金髪、綺麗な弓形の眉毛、緑色の瞳。長いまつ毛。すっと通った鼻筋と上品な唇。美女だった。ユラはもっと慄いた。


「私はこっちに座りますね」


ユラは席を立ち、女性の向かい側に移動した。女性はテーブルの隅に置いてあった紙ナプキンを一枚手に取り、くるくると弄り回している。


「アイスコーヒーでいいですか?」


「うん。いいよ」


注文をとりに来た店員に「アイスコーヒー2つ」と短く言って、ユラは改めて女性に向き直った。


「ここがどこだかわからないって言ってましたよね。どこから来たのかは分かりますか?名前とかは?」


「名前はミリア」


「ミリア、さん……」


「%$€☆○から来た」


「はい?」


「%$€☆○」


耳慣れない単語、というより聞いたことのない言語だった。ユラは聞き取ることを諦めた。名前しかわからない。

アイスコーヒーが運ばれてきた。ミリアはストローをさして行儀良く口をつけた。


「他に覚えてることは無いんですか」


「んー、」


ミリアは口元に手を当てて考え込み、数秒動きを止めた。


「覚えていない…。どこをどうやって歩いてここまできたのか、思い出そうとはしてるけど」


「警察に行った方がいいかな」


ユラは頭を抱えた。


「それとも病院…、捜索願いが出てるかもしれないからやっぱり警察…?」


「お待たせ致しました」


店員の声に顔を上げると、テーブルの上には、ハンバーグ定食、ポテトフライ、ナポリタンスパゲッティやチキンソテー、チョコレートパフェなどなど、沢山のお皿が並んでいた。それらをミリアが美味しそうに頬張っている。


「な!?いつの間にこんなに!」


「君も食べないか」


屈託なく笑うミリア。


「腹が減っていてはいい考えは浮かばないよ。えと、そうだ、君の名前は?」


「ユラ…」


その笑顔になんとなく無敵感を見たユラは、気圧されて名前を名乗ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る