ユラとミリア
705
邂逅(手動)
その日は蒸し返すような暑さであった。
道路の果てに蜃気楼がやわく光り、ゆらめくアスファルトからの照り返しは容赦なく体を炙る。
ユラは休日だったが、家の中に閉じこもっていても気分が晴れないため、暑さを承知の上で外に飛び出したのだった。
仕事を始めて数年、随分と仕事内容にも人付き合いにも慣れて来たつもりだが、彼女は随分と真面目であった。
彼女は不条理を同調勢力で包み込む現代社会と完璧を求める己の気質の間で折り合いをつけられずにいた。
日常の些細な事で、自分のことでなくても、彼女はよく内心傷つき、憤っていた。
そんな内心のわだかまりを吹っ切るように、彼女は茹だる暑さのなか、てくてくと散歩を続けていた。
「ふぅ、流石に暑いな。」
額の汗を拭いつつ、ちいさくひとりごちて目線を先に向けた時に、彼女は驚いた。
先の道路、足元をゆらめく蜃気楼に揉まれて道路のその真ん中に人影があったのだ。しかもここはしばらく信号がない地点だ。
人影は道路を渡ろうともせず、ただ茫然と立ち尽くしている。
なんだ、何事だろう。
彼女はその異常事態を看過できるほど、不真面目ではなかった。
駆け寄って声をかける。
「大丈夫ですか?ここは危ないですよ」
「え?ああ…」
人影の正体は女性であった。長身で、白のワイシャツに黒のパンツを履き、道路の真ん中で茫然と立ち尽くしていた。不思議と汗をかいていない。
「今しがた…いや、なんでも、どこだろうここは」
不思議そうにユラを振り返ったその女性は道路の真ん中であることを忘れるような困惑ぶりだった。
「え?と、とりあえず脇に行きましょう。ここは危ないですよ!」
女性の腕を引っ張り脇の歩道に向かうよう促すと、抵抗なく着いてきた。2人で歩道に戻り、まずは一安心だ。
「あんなところで何してたんですか?」
やや切迫感のある問い方は相手の身を案じてだ、駆け寄ったためやや乱れた息を整えながら相手の答えを待つ。
「えっと…、ここがどこだかわからない。いつの間にか周囲が急に暑くなり君に声をかけられた」
随分と混乱しているようだった。
先ほどは見られなかった汗が、相手の首筋からじわりと滲んでいるのを確認する。このままでは倒れてしまうかもしれない。
「とりあえず、どこかに入りましょう。熱中症になってしまう」
どこか惚けたままの彼女は、責任感の強い女性の提案に、混乱の中、言葉を紡がないままも頷いた。
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