第6話 俺達のリベンジ!



  海王第一学園中等部  対  佐倉西中学校


    二回表   1   -    0



 悠然とホームベースを踏み、自軍のベンチへと引き上げて行く海を見送ると、俺はタイムを取りピッチャーマウンドに居る空の元まで駆け寄った。俺以外にも内野を守る仲間達も駆け付ける。


「―――空、気にするな。直ぐに俺が取り返してやる」


 海のホームランで一点を失った空を気遣っての声掛けだったが、直ぐに背番号「3」を背負う男から訂正された。


「ねえ――長月、俺達の間違いじゃない?」


 ニッと白い歯を覗かせ、人懐っこい笑顔を向けてきたのは弥生やよい。俺と同じ学年で、小学生の時から同じ少年野球チームで切磋琢磨してきた親友だ。


「二人が付き合っているのは知ってるけど、イチャイチャ二人ばっかり楽しんでないかな?俺達だって、二人に負けない位に野球を楽しんでる。この試合を全力で楽しもうって意気込んでいるんだよ。だから二人だけで楽しんでいないで、俺達も混ぜてくれないかな?」


 弥生の話しを聞いて、俺と空の顔は真っ赤に染まる。何でって……俺達が付き合っているのは、誰にも知られていないと思っていたからだ。あ~!どいつもこいつもっ!周りの仲間達の顔を見れば、全員がニヤニヤと笑いを堪えてやがる!


「ふふっ、やっぱりバレてました?それはそうですよね。蒼太先輩と私――お互いの事ばっかり見ちゃってますもん……!」


 おい、空。簡単に認め過ぎじゃないか?空が恥ずかしいって言うから、こいつらに黙ってたんじゃんかよっ!


「―――だってさ。それでどうするの長月?今まで通り、二人だけで楽しむつもり?それとも、ここからは俺達全員で思いっきり楽しんじゃう?」


 ドヤ顔の弥生にムカつきつつ……いやいや、笑いを堪えている仲間達全員にムカつきながら、俺は一呼吸置いた。それから、元気な声でこう言ってやったんだ。



「そんなの決まってる!野球は、全員で楽しむもんだろぉぉぉ―――!」




 ――――幸い、俺の病気は慢性だった。だからこうして、仲間達と野球が出来ている。空のご機嫌な球を受けることが出来ている。俺達の今を、生きることが出来ているんだ。


 とは言え、いつ病状が悪化するか分からない。だから、この大会が終わったら治療に専念するつもりだ。治療を先延ばしにすることに両親はゴネたが、俺を担当してくれている医師と相談した上で、病状が落ち着いている今ならば……と、大会への参加を認めてくれた。


 キャッチャーズボックスへと戻った俺は、チームメイト一人一人へと視線を向ける。なははっ!お前等どいつもこいつもキラキラと楽しそうな顔しやがって!特に空!お前、どんだけだよっ!その顔を見る限りじゃ……な~んにも心配いらなかったみたいだな。


 俺は、全員に見える様に蒼空に向い腕を突き上げ、人差し指を一本立てた。


 この一球を楽しもう!

 この一瞬を楽しもう!


 俺達一人一人の今を―――思いっきり、楽しんでやろうぜっ!!!



 それから俺達は、誰に遠慮することもなく其々の今を楽しみ尽くした。本当に一人一人が主役だったと思う。まあ……楽しすぎて、あんまり覚えてはいないんだけどな。


 まるで手が出なかった海王中のエース睦月むずきを、打ち崩したのは七回だ。ツーアウトながら俺が左中間に抜けるシングルヒットを放ち、続く二年の霜月しもづきが粘りに粘ってフォアボールで出塁、それから弥生がやりやがった。ランナーを溜めて調子を崩した睦月の甘く入った一球を見逃さなかった親友の一発は、走者一掃のホームランっ!


 空と俺のバッテリーだって、親友の活躍に負けてはいないと思うぞ。何故って……打たせて取るピッチングに切り替えた俺達は、毎回出塁を許しながらも海王中の強力打線を抑え込んできたからだ。それもこれも、仲間達の気迫の籠った守備に支えてもらったお蔭様だぜ―――マジでお前等に感謝!


 だけど俺達に今、最大のピンチが訪れている。九回表――海王中の攻撃。ツーアウトながら二塁と三塁に走者を置き、迎えたバッターは「怪物」水無月海だ。

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