叫びを並べ連ねた文章には結着力がない。喉が破れんばかりに主張する言葉は、互いにそっぽを向きながら、細く鋭く、いつまでも抜けない棘となって、四方八方から降り注ぐ。主人公に、そして読み手に。その鋭い痛みゆえにあなたは絶望し、私は血を流しつつ過去をありありと甦らせる。
物語の世界を純粋に喜べていた自分を羨むあなたは、純粋に傷ついている。とうの昔に大人になった私には、まばゆくて正視できぬほどに。
苦しみ、もがいている最中に、他人の声なんて聞こえない。優しい声も、叱咤する声も、疎ましいばかりだ。似た悩みで悩む友達の声ですら。でも、出口の見えない暗闇には、ときおり、ぽかりと明かりが浮かぶ。繰り返しかけられた言葉、見聞きした言葉が、そのとき、ふいに自分の中に浸透していることに気づく。だから、私も、血まみれになっているあなたに、届かない言葉を贈りたくなる。
あなたが大好きな物語に差し伸べる右手を引きとどめているのは、あなたの左手だ。でも、そんなこと、あなたはすでにわかっているね。だって、線路に飛び込もうとしたあなたを引き止めたのは、あなたの手だったのだから。
物語から身を遠ざけ、本気で数字を愛するようになったのなら、あなたは幸せだ。物語を好きなままのあなたは、二つも愛せるものを手にしているのだから。
この物語は、背を自ら引きちぎり、体液にまみれながら羽化したばかりの蝶だ。あなたはどんな羽を広げるのだろうか。