第42話名簿に書かれた役割
「文化祭の出し物、クラスでカフェやるってさー」
真央が手に持った資料をひらひらさせながら席に戻ってきた。
B組では多数決で「喫茶B組」に決定し、それぞれの係を決める名簿が黒板横に貼り出されていた。
私はその紙を遠くから眺めるだけで、まだ近づく気になれなかった。
「詩、なに係にする?」
「うーん……。裏方でいいかな。接客とか苦手だから……」
「じゃあ厨房? それとも装飾とか?」
「装飾がいいかも。静かな作業のほうが落ち着くし」
「了解っ。じゃあ私が代わりに名前書いとくね〜」
そう言って真央は立ち上がる。
彼女のこういう軽やかな優しさに、何度も救われてきた。
でも、甘えてばかりじゃいけないと思って、私も後を追った。
⸻
係名簿の前には、すでに何人かの生徒が集まっていた。
その中に、湊の姿があった。
「あ、湊〜。パネル係って名前だけじゃなくて、責任者ってことだってさ」
「え、マジか……。まあ、やるって言ったしな。逃げられねぇか」
湊は苦笑しながらも、マジックペンで自分の名前を書き足した。
隣に立つ女子が小さく笑う。
「じゃあ詩も……ここにしよっか?」
真央の声に促されて、私は装飾係の欄に名前を書いた。
隣を見ると、湊は気づいたのか、ちらっと私を見て、ほんの少しだけ口元を緩めた。
……だけど、それだけだった。
⸻
その日の帰り道、真央と二人で並んで歩いた。
「湊くんさ、少しだけ避けてるよね」
突然そう言われて、私は足を止めた。
「……避けてる、って?」
「うん。たぶん無意識だと思うけど。なんか、言葉の間に距離があるっていうか」
私は答えられなかった。
真央が間違ってるとは思わなかったけど、それを口に出してしまうのが、なぜか怖かった。
「……夏祭りのとき、すごく優しかったのにね」
そう呟いた私に、真央は少しだけ微笑んだ。
「じゃあ、きっとまた戻るよ。そういうのって、ちゃんと繋がってるから」
⸻
文化祭の準備が本格的に動き出した。
役割も、距離も、心も。
少しずつ、動き始めていた。
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