第27話進路と未来
ホームルームの終わりに、担任の先生が白い紙を配った。
「進路希望調査。まだ確定じゃなくていいけど、春休み前に一度出しておいてな」
紙には第一希望から第三希望までの欄があり、
将来の夢や理由を書くスペースもあった。
私は用紙を受け取りながら、ペンを握った手に少し力が入った。
(……まだ、全然決められてない)
なんとなく文系を選んだのも、“将来”に対する漠然とした不安からだった。
夢なんて、明確に描けている子の方がきっと少ない。
だけど、その「なんとなく」の中で、誰かが明確な道を進もうとしていると、
自分だけが取り残されたような気がしてしまう。
「湊って、進路決めてるの?」
帰り際、思い切って聞いてみた。
「うーん、まだはっきりじゃないけど……たぶん、工学部かな」
「工学部……すごいね。理系、得意なんだ」
「得意ってほどじゃないけど、好きっていうか。機械とか、いじるの楽しいし」
湊の表情は、いつもより少しだけ真剣だった。
それが逆に、まぶしかった。
(私は、“好き”って言えるもの、何かあるのかな)
そう思った瞬間、胸の奥が少しだけ痛くなった。
湊の“未来”に、私はいない。
そんな予感がして。
「詩は? 何か考えてる?」
「……まだ、よく分かんない」
「焦らなくてもいいんじゃない? 決まってる方が珍しいって」
そう言って笑う湊の優しさに、また苦しくなる。
(ほんと、ずるいよ。そうやって、いつも軽く笑うくせに)
私はうなずきながら、心の中では言葉にできない思いを抱えていた。
春風のように、優しくて。
でも、つかもうとすると、するりと逃げていく。
その夜、机に向かって進路希望の用紙を見つめたまま、
私はなかなか一文字目を書けずにいた。
未来――そこには、まだ私の形がなかった。
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