第3話 銀狼の忠誠①

 


 シンシアを治療してから五分後。

 何とも言えない空気を払拭するため、俺達は買い物に出かけることにした。

 向かう先は、古着屋。

 俺は医者なので怪我は治せるが、服まで治せるほどチートではないからな。

 流石に助手がボロ着のままだと見てくれが悪いので買いに行くにしたのだ。

 まぁ、女の子の服なんて選ぶセンスはないので、あらかじめ古着が数枚買える程度の額を渡しているんだけどな。

 俺は後ろでガキ共がぼったくられたり、服をぱくられないよう見張っておくつもり──だった。


「主様。そこ、危ない匂いがする」

「あの刺青が入っている人は危ないギャングの証なのです。気をつけるです」

「そうか。じゃあ、こっちから回って行くか」

「っと。すいません」

「ったく、どこ見てんだ!?気をつけろよ」

「さーせん」

「主様。すられてる」

「はっ!?ホンマや」

「取ってくる──取り返した」

「はやっ!?」

「むふっ、私は、ちゃんと役に立つ」

「おおう、さんきゅ──ふぎゃぁ!?」

「チッ」

「……スラム近くで気を抜かないでくださいませ」

「うっす」


 しかし、歩いて数分で完全に立場が逆転している。

 あれぇ?おかしいぞぉ〜。

 これでもガキ達よりも長く人間の国で生きているはずなのに、明らかにこいつらの方が町を歩くのが上手い。

 おそらく、理由としては警戒心の差だろう。

 実はお金の多くは銀行に預けていて、手持ちをそんなに持っていないので、盗られてもそんなに痛手ではない。

 そして、仮に財布や持ち物が取られても、俺は魔法を使えば盗んだ奴を簡単に見つけ出して取り返すことが出来てしまう。

 だから、俺の身を脅かすほどの敵意が無ければ、反応が遅れてしまうのだ。

 けど、こいつらは違う。

 一瞬の遅れが、命の危機に関わる状況で今まで生きてきたのだ。

 どんな些細な敵意でもいち早く察知出来てしまう。


「主様は私が、守る」

「後ろは私が預かったです」

「では、仕方なく左右は私が受け持ちましょう」

「お、おう」


 そんなわけで、ガキ共に護衛されているこの状況は当然と言えば当然なのだが、大人としての尊厳が無くなっていく感覚がヤバい。

 俺は出来るだけ早く脱却しようと足早に町を移動し、二分程度で古着屋に辿り着くことができた。

 中に入ると、少し奇抜な服を見に纏った老婆が

「いらっしゃい」と出迎えた。


「コイツら用の服が欲しいんだがどこにある?」

「子供服ならあっちだよ」

「サンキュー」

「それにしても、アンタ潔癖のエルフ様なのに悪趣味だね。そんな汚いガキの奴隷にするなんて」

「別に奴隷じゃねぇよ。助手だ、助手。治療の手伝いをするために拾ったんだけだ」

「治療の手伝いかい。なるほど。確かに、魔法の練習をすると考えたら、それくらい怪我をしていた方がええか」

「だから、そういう目的じゃねぇっての。……服選ぶからしばらく話しかけんなよ」

 

 キヒヒっと盛大な勘違いをしている胸糞ババァを無視して、俺は三人を連れて子供服コーナーへ移った。


「宿で言った通り寝巻きと私服、下着を三着ずつな。ただ、これから大きくなるからあんま高いのは買わないように」


 俺はそう言って指示を出すと、二人は「分かっていますわ」と「うん」と頷き、最後の一人は「は、はいなのです」と躊躇いがちに頷く。

 そして、服選びのため三人が散ってすぐ、メルが俺の元へ真っ先に駆け寄ってきた。


「ほ、本当にこんなに買ってもいいのです?私は二着、一着でも充分なのですが」


 おずおずと困り顔だこちらを窺ってくるメル。

 この様子を見るに彼女は人生でこんなに大量のお金を使うことが無かったのだろう。

 使うのを躊躇う気持ちは分かるが、あちこち飛び回る都合上、服が汚れたり、破れることがままあるため買ってもらわないと困る。


「駄目だ。俺は綺麗好きなんだよ。最低限着回し出来るように五着は買っとけ」

「うぐっ。わ、分かったのです」


 最後に軽くおでこを押してやると、メルは渋々といった感じで服選びに戻って行った。

 それと入れ替わるように、大量の服を持ったシンシアがこちらにやって来る。


「買い終わった。お釣り」

「やけに早いな。ちゃんと選んだのか?」

「うん。丈夫なのを選んだ」


 シンシアは自信満々といった様子で頷くと、お釣りを俺のポッケに押し込み、キョロキョロと辺りを警戒し出した。

 その姿はまさに飼い主を守ろうとする忠犬そのもので、さっきの誓いは本当だったのかと再認識させられる。

 ただ、どうにもあの半端な治療でここまで感謝される意味が分からなくて。


「何で俺を主にしようと思ったんだ?」


 気になった俺は彼女の真意を尋ねると、シンシアは中途半端な長さの耳に触れた。


「この耳は、銀狼族の誇り、だから」

「誇り?」

「うん。私達は、神狼フェンリル様の末裔。神狼様から授かった、耳と、尻尾は、命より大事。でも、村を襲われた時、私は守れなかった。高値で売れるからと、悪い人に斬られて、誇りを、奪われた。そんな、弱い半端者を、村の皆んなは許さなかった。面汚し、生きる価値が無いと言って、捨てられた。辛かった。悲しかった。恥ずかしかった。神狼様の血を汚してしまって。生きているのが。でも、そんな私を、主様は、救ってくれた。もう一度、銀狼族として、生き返らせてくてくれると言ってくれた。だから、この命を捧げると決めた」

「……そうか」


 軽い気持ちで尋ねたら、とんでもない答えが返きて反応に困る。

 いや、まさかただのケモ耳だと思ったらそんな大切なものだと思わんやん。

 他の獣人を治した時もめっちゃ感謝されたけど、あくまで身体の一部を治してくれたからって感じだったし。

 とんでもないヘビーな物を拾ってしまったと内心で後悔する。

 けど、口元を緩めて耳を触っているシンシアを見て悪い気はしなくて。


(まぁ、いっか。仕事に乗り気になったのはこっちとしては助かるし。それに誓いって言っても、どうせ子供の言っていることだし、騎士達がやってるようなマジのもんじゃねぇだろ。今だけ、今だけだ、うん)


 俺は服を選んでいる二人は慎重に対応しようと心に決めた。

 




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