第2話 銀狼の忠誠


「うーん。やっぱ、魔力を八割を使っても全部は無理か」

 

 俺は銀髪娘ことシンシアの頭を撫でていると、不意にパチンッと下から腕を弾かれた。


「嘘つき!?シアに何をしたのですか!?私達を実験の材料にはしないと言ったのに」


 目尻に涙を浮かべ、フシャーとこちらを強く威嚇する紫娘。


「あ〜〜」

 

 俺はこいつらを驚かせてやろうとして、説明が不足していたことに気が付いた。

 ぼりぼりと頭を掻き、どう説明したら納得してもらえるかと考えていると、金髪娘に「大丈夫ですか?」と聞かれても固まっているシンシアの姿が目に入る。

 それから目が合い、揺れる瞳でこちらを見据えたままフラフラとこちらに歩み寄ってくる。


「シア!?この男は危険です。離れなさい!」

「…………」


 その歩みは、仲間からの制止があっても止まる事はなく、紫娘にしがみつかれたままの俺の前までやってきた。


「……」

「……」

「……少しは聞こえるようになったか?」


 俺が戯けた口調でそう尋ねると、無表情だつたシンシアの顔と髪がくしゃっと歪んだ。


「……これは、貴方が、したの?」



 そして、彼女が一部の髪を押さえ込みながら俺の方に頭のてっぺんを向けた。


「シンシアちゃん……それ」

「っ!?」


 瞬間、金髪娘は息を飲み、紫娘は顔を真っ赤に染める。

 この反応を見るに、彼女達は知らなかったらしい。

 

 まぁ、それも仕方ない。

 耳の殆どは焼き切られており、残っているのは小さなたんこぶ程度だからな。

 かくいう俺も朝にこいつの頭に触った時にようやく気が付いた。

 そこまで損失していれば完全に機能を失っていてもおかしくないのだが、奇跡的に聴覚が残っていたらしく人間の子供として振る舞えていたのである。

 ただ、それでも聴覚の方は悪いらしく、シンシアが飯を食う時に隣に座ってきたり、俺の横に転がってきてしたのは俺の声をちゃんと聞き取ろうとしていたから。

 彼女の発音がやや途切れ途切れなのも、聴覚が原因だろう。


「まだ俺が魔法陣を完璧に転写出来なかったせいで不完全になっちまったけどな。まぁ、それでも一週間くらいやり続ければ、完璧に生えるはずだ」


 俺はそのまま優しく、生えかけのに触るとシンシアは「あっ……あ゛ぁ゛っ゛っ」とその場に座り込む。

 数秒後、ポタポタと床を濡らし始めた。

 俺はそれを見て笑みを溢すと、次いで頰にとてつもない衝撃が走って世界が反転した。


「いっで!?」


 背中を強打した痛みに顔を歪めていると、その隙に紫娘がマウントポジションに立ち、拳を振り上げる。


「元に戻しなさい!?シアをシアを元に戻しなさい!?今すぐ」


 そのまま、何度も何度も拳を振り下ろしてくる紫娘。

 だが、所詮は子供の攻撃。

 大したダメージはない。

 えっ?倒れてるのにそれは説得力がない?

 うるせぇ、さっきは顎に良いのが入って脳震盪が起きたんだよ。

 だから、ダメージ自体は殆どない。

 ただ、困惑もしている。

 まさか一番話が分かると思っていた奴が話も一切聞かず、殴りかかってくると思わなかったからだ。


「ちょっ、ちょっ!?お前、話聞いてたか!?」

「ギルネリーゼやめるのです!?リーゼは酷い勘違いをしているです」

「いいえ、してませんわ!メル私は努めて冷静です!」

「全然冷静な顔をしてないですよぉぉ〜〜!!」


 金髪娘ことメルに羽交締めにされながらも、血走った目でこちらを睨みつけてくるギルネリーゼ嬢。

 少し冷静になった頭で考えると、おそらく何かしらの地雷を踏んでしまったようだ。

 

(前世からお前は浅慮だって言われてたのにな。またやっちまった)


 バツが悪くなった俺はもう一度頭を掻く。

 それからどうしたものか?と頭を悩ませていると泣いていたはずのシンシアが、フラフラとこちらに近づいてきて。

 暴れるギルネリーゼの肩を掴んだ。


「……リーゼ、ありがとう。後、ごめん。ずっと、隠してて。でも、を殴るのは、駄目」


 そう言って、ふわりと穏やかな笑みを浮かべるシンシア。

 未だ興奮して頭が回っていないギルネリーゼは「えっ?……いえ、その、主様?」と困惑の声を上げる。

 いや、まぁ、状況を俯瞰して見ている俺も同じなんだけど。

 どういうこと?

 シンシア以外の全員がピシリと固まっている中、彼女は俺の方を向き膝をつく。


「主様。これより、私は、貴方の牙となり、足となる。銀狼族の耳と尻尾ほこりを奪われた、未熟者だけど、一杯頑張るから。好きに使ってくれると、とても、とてもとても、嬉しい」


 シンシアはそう言って、俺の手の甲に唇を落とした。

 なんかよく分からないが耳をちょっと治したのが、相当嬉しかったらしい。


「……おっ、おおう」


 こういうのって完全に治した時にされるものだと考えていた俺は、内心で「流石に早過ぎねーかー!?」と戸惑いの叫び声を上げた。


「まぁ、助手として程々にこき使ってやるよ」


 そんな中、何とかこの返事を絞り出した俺は相当偉いと思う。


 


 


 


 

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