第13話 夕暮れの中庭の告白

閉会式が終わり、生徒たちは三々五々解散していく。蓮はクラスメイトたちの祝福の言葉を受けながらも、約束の中庭へと急いだ。

夕暮れの中庭は、オレンジ色の光に包まれていた。キンモクセイの香りが漂っている。


結菜はすでにそこで待っていた。着物姿の彼女は、夕陽に照らされてより一層美しく見える。


「蓮くん、おめでとう」


結菜が振り返って微笑んだ。


「本当に素晴らしかったよ」

「ありがとう。でも、これは結菜さんのおかげだよ」

「ううん、蓮くんの才能と努力の結果だよ」


二人の間に、一瞬の沈黙が流れる。


「あの、話があるって言ってたけど……」


切り出した蓮の言葉を、結菜はすぐには受け止めなかった。彼女は空を見上げ、深呼吸をした。


「蓮くん」


彼女が真剣な眼差しで向き直る。


「私、ずっと言いたかったことがあるの」

「え?」


蓮の心臓が大きく跳ねる。ポケットの中のスマートフォンが小刻みに震えるのを感じる。


「蓮くんのこと……ずっと好きだった」


その言葉が、夕暮れの空気を震わせた。蓮は自分の耳を疑った。クラスで一番人気の結菜が、自分に告白しているなんて。


「え、あの、それって……」


言葉に詰まる蓮。結菜は少し緊張した様子で続けた。


「驚かせてごめん。でも、言わずにはいられなかったの。蓮くんと過ごす時間が増えるにつれて、私の気持ちもどんどん大きくなっていって……」


結菜の頬が夕陽のように赤く染まっている。


「最初は蓮くんの優しさに惹かれて。誰も見ていない時でも、一生懸命なところとか。それから、切り絵に打ち込む姿を見ていて、ますます好きになって……」


聞けば聞くほど、蓮の心臓は早鐘を打つ。これは夢なのだろうか。


「俺も!」


思わず大きな声が出た。


「俺も結菜さん……結菜のことが好きだ!」


言葉にした瞬間、まるで堰を切ったように感情が溢れ出した。


「中学の時からずっと……結菜のことを見てた。でも、声をかける勇気もなくて。こんな俺が結菜に好かれるなんて信じられないよ」


結菜の目に涙が浮かんだ。それは喜びの涙だった。


「嘘みたいだね。お互い同じ気持ちだったなんて」


二人の距離がゆっくりと縮まっていく。蓮は恐る恐る手を伸ばし、結菜の手を取った。その温もりが、すべての現実を確かなものにしてくれる。


「これからも一緒にいていい?」

「ああ、ずっと」


蓮がそう答えた時、ポケットの中のスマートフォンが小刻みに振動した。その振動は、まるで小さな鼓動のようだった。

蓮はふとスマートフォンを取り出し、画面を見た。そこには短いメッセージが表示されていた。


『おめでとう、蓮さん。これが本当の幸せですね』


画面の奥に、ユノの姿がほんの一瞬だけ映ったような気がした。その表情には、喜びと何か切ないものが混ざっていた。

文化祭の余韻が残る校舎を背景に、二人はそっと手を繋いで立っていた。長い坂道を上り切った先に広がるその景色は、想像以上に美しかった。

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