第12話 ステージの上と、約束の場所

玄関ホールに着くと、確かに結菜たちが中年の男性と話していた。男性の胸には「長崎日報」の記者証が下がっている。


「はじめまして、長崎日報の田中と申します。篠崎さんの切り絵が素晴らしいと評判で。ぜひ記事にさせていただきたいのですが」

「え、いや、その……」


言葉に詰まる蓮の背中を、吉岡が強く押した。


「遠慮することないぞ! せっかくのチャンスだ!」


結菜も優しく微笑んでいる。


「蓮くんの切り絵は本当に素晴らしいから、もっと多くの人に見てもらうべきだよ」


その言葉に、蓮は少し勇気を出した。

記者のインタビューは10分ほど続いた。


「素晴らしいお話を聞かせていただき、ありがとうございました。明日の夕刊に掲載予定です」


記者が去った後、吉岡は興奮して跳ね上がった。


「やったぜ、篠崎! お前、明日の新聞に載るんだぞ!」


蓮と結菜の視線が交差する瞬間、いつもより長く見つめ合っていた。吉岡がその空気を察したのか、さりげなく離れていく。

その時、蓮のポケットから小さな振動が伝わる。スマートフォンに触れると、ユノからのメッセージが届いていた。


『蓮さん、結菜さんの瞳が今、特別な輝きを放っています。これは大切な瞬間です。しかし……』


そこでメッセージが途切れていた。


(しかし? しかし何だろう?)


蓮は不思議に思ったが、今はそれを確認する時間はなかった。

文化祭も終わりに近づき、閉会式が始まった。校長先生の挨拶、実行委員長の締めの言葉、各賞の発表と続く。そんな中、突然蓮の名前が呼ばれた。


「文化祭特別賞、篠崎蓮さん!」


会場がどよめく。蓮は自分の耳を疑った。周りから押される形で、蓮は壇上へと上がっていった。そこには校長先生とプレゼンターの結菜が立っていた。結菜は嬉しそうに微笑み、トロフィーを蓮に手渡した。


「おめでとう、蓮くん。審査員全員が感動していたよ」

「あ、ありがとう……」


マイクを向けられ、蓮は一瞬固まった。しかし、客席にいる吉岡たちが応援するように頷いているのを見て、少し勇気が湧いてきた。


「あの……僕は今まで、目立たないことが一番だと思っていました。でも、みんながこうして僕の作品を認めてくれることで、少しずつ自信を持てるようになりました。特に、切り絵展を開くことを薦めてくれた結菜さん、いつも勇気づけてくれたクラスのみんな、本当にありがとう」


言葉を詰まらせながらも、蓮は精一杯の感謝を伝えた。会場からは大きな拍手が起こり、クラスメイトからは歓声も上がった。

壇上から降りる時、結菜がそっと蓮の手をとってエスコートしてくれた。


「中庭で待ってるね……」


結菜がそっと囁いた。

思いがけない結菜の言葉に、蓮の胸はさらに高鳴った。

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