第5話 国家公認ヒーロー、始動
冷たい廊下を歩く足音が響く。
翔真は黒瀬に腕を引かれるようにして、病院を出ていた。
外に出ると、そこには見慣れない車両――装甲車のようなものが何台も停まっており、全身黒ずくめの男たちが慌ただしく動いている。
「どこへ連れていく気だよ……!」
声が震える。
黒瀬は一度だけ振り返り、皮肉のない真顔で答えた。
「君の――初仕事だ」
車に押し込まれると、内部はまるで作戦室だった。
複数のモニターに街の様子が映し出され、その一つに巨大な影が蠢いていた。
「……なんだよ、あれ……」
「アンノウン。人類に敵対的な、未知の生命体だ」
黒瀬が小型のケースを開き、銀色に光る腕輪のような装置を取り出す。
「君の体はもうベースが完成している。これを装着すれば、戦闘用スーツが展開される」
「待てよ! 戦うって……俺にそんなこと……!」
「君以外には、無理なんだ」
黒瀬は表情を変えず、淡々と手早く翔真の左腕にその装置を嵌めた。
瞬間、ガチッという音と共に冷たい金属が肌を這い上がり、肩、胸、背中へと一気に拡がる。
「……っぐ、ああああああああッ!!」
全身を締め付けられるような痛み。
視界が真っ白に弾け、思わず声を張り上げる。
数秒後、呼吸が落ち着いた時には、翔真の体は漆黒のスーツに包まれていた。
手足はまるで鋭利な鎧のように変形し、ヘルメット越しにHUD(視覚情報)が展開されている。
「君はもうヒーローだ、榊翔真。行ってこい」
黒瀬が小さく肩を叩く。
「……ふざけんな……俺は……っ」
だが車の扉は開き、強引に外へ押し出された。
気がつくと、自分は街のど真ん中に立っていた。
遠くに見えるのは、ビルより大きな怪物――アンノウン。
口のような裂け目から黒い蒸気を吐き、血のような赤い目をいくつも輝かせている。
(俺が……あれを、倒せっていうのか……?)
スーツのHUDに標的マーカーが映る。
次の瞬間、体が勝手に動いた。
「……やめろ……やめてくれ……っ!」
だが声とは裏腹に、脚は地面を蹴りつけ、ビルの壁を駆け上がる。
視界が一直線に怪物へ向かい――
腕が、高速で振り抜かれた。
ゴシャッ。
手応えがあった。
自分の手は怪物の首を一撃で切断していた。
頭部を失った怪物が地面に崩れ落ちる。
血のような黒い液体が大量に溢れ、街路を濡らした。
その光景を、翔真はスーツ越しに見下ろしていた。
(……俺、今……殺したのか……)
鼓動が早くなる。
口の中が乾き、酸っぱいものが込み上げてくる。
遠くで人々が歓声を上げる声が聞こえた。
「ヒーローだ!」「助かったんだ!」
スマホを掲げ、動画を撮る市民たち。
そのカメラの向こうで、自分はただ立ち尽くす。
(ヒーロー……? 俺が……?)
皮肉にも、その言葉が一番遠く感じられた。
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