第9話 刺激を求めるシスコン。
「ただいま!」
反響した声が耳に届く。
…相変わらず家は静かだ。
俺はレンを雑に家まで送り届け、自分の家へと帰った。
できる限り大きな声で言ったつもりなのだが…まぁ、返事が返ってくることはなかった。
うちの両親は共働きだ。
少しばかり返ってくるのが遅い。
だからまぁそっちは期待してないんだが…
「うちの可愛い妹の声が聞こえないなぁ!」
うちには妹がいる。
中学生だし、部活にも入っていないから俺より帰るのは早いだろう。
「おかえり、お兄ちゃん♡」ぐらい言って欲しいんだが。
「…おかえり」
?!
返事が、来た…?!
これは一大事だ。
いつも学校以外は自室にこもってばっかりのヤツが、偶然か知らんがここにいて、俺に挨拶を返してくれている!
「ヌイぃ〜!お前は可愛いなぁほんとに〜!」
トイレか?風呂か?飲み物でも取りにきたか?いやもしかしたら友達と遊ぶ約束でもしたかも?
いつもの倍の速度で靴を脱ぎ、並べもせずにリビングへと出た。
妹こと、ヌイを見つけると俺は即座に近づく。
「ちょっ…くんな!おに…ぃ…」
「お前まだ俺のことお兄ちゃんって言いたくないのか?愛いヤツめ!」
とはいえ、おにぃって呼び方もあるから、言いかけの状態のこれはそう呼ばれているように感じられる。
いや、そう呼ばれている。
「お兄ちゃん」と言いかけた口をハッと噤んだ姿が可愛らしい。
おぉっと、そういえば、俺の属性過多な、思春期と厨ニ病と病みにひとつ足し忘れていたな。
そう、俺は病んでいる。
そして厨ニ病で、思春期で、最後に…
シスコンである。
いや、聞け。
可愛いものに可愛いと言って何が悪い?
別に我が妹だけじゃなくレンやアイカだって俺は常日頃から可愛いと思っているさ。
だが、節度をわきまえているんだ。
後はなんか口にしたら取り返しがつかないことになりそうっていう恐怖心でやってないだけだが…
とにかく、普通に考えてクラスの女子に可愛いを連呼するやつなんていない。
だが妹には言える。
つまりこれはごく自然、当たり前のことなのである。
「果たして、お前に可愛いと言ってはいけない理由なんて存在するんだろうか」
「いいや、ないね」
自分で即答した。
そして、そう言い切る頃にはヌイは階段を駆け上っており、自室へ消えていた。
制服もズボンにしてるし、髪も短い。
ボーイッシュな子だ。
淡い茶色?というべきか、髪色は可愛い。
むしろ弟みたいに見えるから余計接しやすい。
ライトブルーの瞳だってきゅるきゅるしてるし。
「…ま、結局俺には塩対応なんだが」
まさかお兄ちゃんと言ってくれるとは思わなかった。
部屋にこもってると挨拶なんて返ってこないし、食事の時には両親がいる。
両親がいる時は、妹も、塩対応を変えてくるのだが、俺からすればそれは気に食わないのでノーカンだ。
とはいえ流石の俺も常時ハイテンションじゃないし、会話?してもらえることから珍しいのに、こっちのことを「お兄ちゃん」って呼ぼうとしたなんてなぁ…
俺はレンやアイカのことを忘れ、腕を組んで、その喜びに浸っていた。
「さ、授業の復習しないとなぁ」
帰宅部な上、遊ぶ予定もなくとても時間があるので、俺は課題に手を伸ばした。
そうして、あてもなく時間が過ぎる。
「暇だなぁ…」
日常に刺激を求めるのは人間として当然ではあると思う。
それこそ、今日のレンや以前のアイカによって起こされる状況、いわばシチュエーションは、二次元の世界ではよくあるテンプレート、いや、想像のしやすい、見飽きた展開でしかないが、現実に起こりうれば十分な刺激になりうるだろう。
クラスの美少女に告白されだる絡みをされたり、授業中に入ってきたわる〜いやつに、頂上的な戦闘能力とセンスで打ち勝ったり。
何かしら大きな悩みを持った少女の唯一の精神的支柱になったり。
…もちろん、平凡な日常の素晴らしさを俺は知っている。
安定、安寧、平和。
状況は悪い方向へ向かうこともなければ、好転することもない。
変化、挑戦を恐れ続ける俺には、その素晴らしさが十分にわかる。
でも、それでも刺激を求めるのは、きっと本能かなにかなのだろう。
だが、その頃の俺は知らなかった。
暇だなぁ…と、そう呟く隙すらないほど、刺激に満ちた日常が現れることに。
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