第10話 告白してないのに断られるとかいう展開。

「あぁ…結局スマホいじってしまった」


恨めしい…勉強ができなかった過去の俺が…そして夜更かしによる寝不足で今遅刻ギリギリなことも恨めしい。


「遅刻するわよ!」


「お前もだよ!なんで俺が家を出るまで待ってるんだ!」


ギャリギャリ、と音を鳴らして自転車を漕ぐ。

レンはなんでそんな体力があるんだ…こっちはだんだん汗かいてきたぞ。


あぁ、お腹すいたし眠い。

そうやって遅刻ギリギリで登校して、授業を受けて、お昼になる。

平和だ。

俺は健康的な男子高校生の生活を送っている。


「ユタカ(君)!一緒にお弁当食べよ(ませんか)!」


レンとアイカ、もとい、『非日常的存在』が声をかける。

しかもなんかダイレクトにでかい声で聞いてくるし。

周りの視線が異様に刺さってくるような感覚がしてままならない。

目立つのは悪くない気分なのだが、不都合が生じやすい状況なのは間違いない。

それに、アイカやレンにしてやられたままなのは、なんだか俺のプライドが許さない。

子供っぽいのはわかっているが、こちとら男子高校生。

昨日の今日でレンには申し訳ないが、アイカがそばにいるのであれば、俺がわざわざおせっかいや気遣いでそばにいる必要もないだろう。


「今日は部活動で用事あるから、ごめん!」


「あっ待ってくださ…いっちゃった…」


「ユタカって部活入ってたの…?」


残された2人はポツリと呟いた。


「いえ、入っていません。でもそれを知ってるのは、ユタカ君とまともに関わっているような、私のような人間だけです…」


「私のような人間だけ…?」


レンはそう復唱して、眉を顰める。

つまり周りの人間は、ユタカが正当な理由でお誘いを断った、と判断する。


(普通に、先生に呼ばれているとかの理由でよかったのでは…?)


わざわざ相手を欺く必要もない。


「これは明らかに挑発ね…昔から人のことを揶揄うことだけ上手だったし」


「…昔?」


アイカはそう口で反芻し直して、口角を釣り上げる。


「どうやら、ユタカ君がいなくて正解らしいですね?」


「奇遇ね、私もそう思ったわ」


「あの…良ければ一緒にお昼でも…」と近づいた男子は、2人のあまりの気迫で一瞬で逃げ帰る。


「空き教室に行きましょう」


「ええ、ゆっくり『お話し』、しないとね?」


(昔のユタカ君…色々聞きたい)

(今のユタカ…色々聞きたい)


一体何が行われるんだ、と戦慄しているクラスの面々をよそに、2人はそうして教室を後にした。


♦︎


俺は、屋上に逃げ込んだ。

屋上へ続く扉は閉まっているが、その手前のスペースが立ち入り禁止になっているわけじゃない。

ここはいい穴場だろう、と俺は踏んでいる。

ここに用があるやつはない。

2人でなにかを食べたい、1人で食べたいとして、空き教室や部室、外やらなんやら色々な選択がある。

わざわざ屋上を選ぶことは少ない。

そう考えて、俺は階段をヒョイヒョイと登っていく。


「…は?」


ドアが開いている。

先客…?誰かが使って閉め忘れたとか?

てか屋上は危ないから用がない限り行かないように言われてなかったか?


…湧いたのは、興味、好奇心。


俺は気の赴くまま、重厚感のあるドアを挟んだ先にある陽だまりに、片足を突っ込んだ。


澄み切った空がある。

息を吐いた。

タブーを犯した先にあるこの美しい空間に、なんとなく感動したから。

肺から吸った空気が、血液を通して身体中に循環したような気がする。


「あ、君がケンゴ君?」


…どうやら、俺に向けて言っているらしい。

声のした方、つまり左を向けば、そこには女性が立っていて、咄嗟に俺は笑顔を作り、「違います」と、そう口に出そうとした。


「ごめんね、告白の答えなんだけど、私、あなたと付き合えないから」


「…?」


突然として放たれた告白のお断り。

けんごぉ…なんか、ごめんな。

これは面白いものが見れたと、頬をより綻ばせた。

そうして、なんで笑っているんだろうと、彼女に少し引かれている俺であった。

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