『⭐︎の独白』
俺は高校2年の「高瀬」。最近、カクヨムで小説を書き始めた。
だけど、誰も読んでくれない。唯一の親友すら。
投稿しても閲覧数は0。もちろん⭐︎もコメントも「いいね」もゼロ。
「誰か読んでくれ…こんなに面白いのに…評価が欲しいんだよ」
そう呟きながら、夜な夜な“笑えるホラー”を投稿していた。
ゾンビがコケたり、幽霊がコント師になったり。自分では面白いと思っていた。
でもある日、妙なことが起きた。
投稿したばかりの短編に、突然⭐︎が3つついていた。
誰かが、ついに評価してくれた?
そう思ったけど、PVは0のまま。
通知から、⭐︎をくれた人の名前をクリックする。
しかし、そのアカウントは存在しなかった。
「ま、バグか。……でも嬉しい」
そう思って、そのまま書き続けた。
ただ、その頃から俺は書けば書く程、色々な記憶が抜け落ちることが増えて行った…。
⸻
⭐︎の勢いだけは、止まらなかった。
1日で100個、1000個……やがて、ほんの数日で10万を超え、20万の⭐︎がついた。
レビューも次々に増えていく。
「感動した…」
「今世紀最大のラブストーリーだ!」
「涙が止まらない。最高の結末!」
「主人公の愛が心を抉る」
「魂が震える神作品」
「愛の犠牲が尊い」
涙が出るほど嬉しかった……。
けど――俺の小説は、そんな作品じゃない。
ただのコメディ風ホラーだ。ラブストーリーなんか一度も書いたことがない。
そして⭐︎20万なのに、PVはずっと“0”。
♡もコメントも0だ。
誰も本文を読んでいないはずなのに、評価とレビューだけが増え続ける。
⭐︎が増えること以外は、何かのバグだと思いたかった。
「……なにこれ?」
怖くなって、ランキングを見た。
俺の作品は、総合1位に躍り出ていた。
⸻
次の日、学校で親友の西山に話した。
「なあ、俺の小説、お前馬鹿にしてたけど、カクヨムで1位になったんだだぜ。良かったら読んでくれよ……」
だが西山は怪訝な顔をして言った。
「高瀬、大丈夫かお前?ずっと学校来てなかったのに病気じゃなかったのか?カクヨムって何の話?」
……おかしい。
家に帰り、パソコンを開いた。
カクヨムのマイページ。
そこにあったはずの“ホラー短編集”は、白紙になっていた。
作品名だけ残り、中身はすべて消えている。
ただひとつ残っていたのは、真っ赤に脈打つように光る⭐︎の数――354,631。
レビュー欄には、奇妙な言葉が並ぶ。
「もっと魂を」
「君の愛は足りない」
「全てをかけろ」
「物語に還れ」
投稿画面に切り替えた瞬間、誰も触っていないのにタイピング音が鳴った。
カーソルが勝手に動き、レビューが1つ、追加された。
「お返しを返さないと、君は消えてしまうよ。35万の⭐︎、35万の魂に」
⸻
恐怖に震えながら、俺は評価をくれたアカウント一覧をクリックした。
全員のプロフィールを開いてみる。
……どれも、真っ白だった。
作品投稿なし。レビューなし。活動履歴なし。
まるで、俺に評価だけを与えるために生まれた存在たち。
⭐︎をお返ししようにも対象がない。
そのとき、新たに⭐︎3つが追加された。
評価者の名前は――
高瀬
⸻
画面に映った自分の名前が、静かに点滅を始めた。
その名前をクリックしたら、ちゃんと俺の作品があった。
⭐︎の数は既に100万、フォロワー数も50万を超えている。
俺は自分の短編集を開いた。そして、1ページ目を読む。
次の瞬間、激しい警告音と共に警告画面が出た。
「あなたは不法行為のため、アカウントを削除されました」
震える手で戻るボタンを押すと、ログイン画面に切り替わっていた。
ユーザー名も、メールアドレスも、パスワードも――すべてが無効になっていた。
ログイン履歴を確認しようとしたが、アカウントの痕跡すら残っていない。
まるで、最初から「高瀬」など存在しなかったように。
呆然と画面を見つめていると、ブラウザのタブが勝手にひとつ開かれた。
そこには、俺の書いた短編集が表示されていた。
だが、著者名の欄には――
高瀬(故)
と、黒い文字で記されていた。
そして、星の数は「0」に戻っていた。
ページの最下部には、誰かが打ち込んだような一文が追加されていた。
「ありがとう。作品読まなくてごめん。
でも君の魂は、とても読みごたえがあったよ。⭐︎より」
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