『c08の視線』

凛は大学一年生。春から始めた一人暮らしの部屋に「癒し」を求めて、中古ショップをぶらついていた。期末レポートを終えた夕方、棚の奥で「それ」を見つけた。


「ちいかわのデスクトップライト……かわいい!」

ピンクのシリコン製、うさぎの耳がぴょこんと飛び出たデザイン。スマホのワイヤレス充電機能付きで、値段は破格の980円。埃をかぶっていたけど、傷一つない新品同様の輝き。店員が「入荷したばかりですよ」とニコニコ言うので、凛は即買いした。


部屋に戻り、机に設置すると、スタンドは柔らかいピンクの光を放ち、殺風景な部屋が一気に温かくなった。スマホを置くと充電マークが点灯。癒される気分に浸りながら、凛はレポートの疲れを忘れた。


その時、スマホに通知がポップアップ。

《新しいBluetooth機器 “chiikawa_light_c08” が見つかりました。接続しますか?》


「ん? Bluetooth? 充電に必要なのかな?」

機械音痴の凛は、説明書も見ずに「接続」をタップ。スマホとライトがペアリングされ、画面に「接続完了」と表示された。特に操作できる機能はなさそうだったけど、「まあ、充電できればいいか」と放置した。


数日後、バイト帰りの夜、シャワーを浴びてくつろいでいた凛のスマホに、ショートメールが届いた。差出人は、なぜか自分のメールアドレス。


「凛ちゃん、はじめまして。君の笑顔、めっちゃ好きになりました。今日の白いキャミソール、似合ってるよ。これから毎日メールするね。よろしく!」


「え、なにこれ……?」

イタズラかと思いつつも、白いキャミソールを着ていたため、気持ち悪くてすぐに削除。


だが、翌日の夜、またメールが来た。今度も、自分の生活を見ているような内容。

「今日もシャワー上がりの髪、濡れてるのセクシーだね。後ろでまとめたポニーテール、最高。」


さらに次の日は、LINEでの友達とのやりとりを見ていたかのような内容。

「明日は、まなちゃんとイオンでショッピング?いい友達がいて楽しそうだよね。僕も行きたいな。」


さらには……

「生理とか大変そうだね。おっぱいはいつもより大きいけど、おでこにニキビできちゃってるし、夜中のYouTubeは控えめにしないとね、凛ちゃん。」

そして、自分の部屋の前の写真も添付されていた。


思わずスマホを落としそうになった。シャワー後の濡れた髪、ポニーテール、LINEの「めいちゃん」とのやり取り、生理のタイミング、胸の変化、顔のニキビ、夜中のYouTube――全部、今この瞬間の自分を正確に描写してる。


「誰!? こんなことまで!?」


部屋を見回す。カーテンは閉まってる。カメラなんてない。あるはずがない。


ただ、机の上のちいかわスタンドが、ピンクの光を静かに灯し、うさぎの耳が、風もないのに微かに揺れてる気がした……。


「全て、保存されちゃってるよね……」

つい口に出た凛。


すると、またメールが、


「分かるよその気持ち。こういうのって、気がついた時にはもう遅いんだよね」

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