『圧倒的にこの子です』

全国的に名の知れた高校陸上部のコーチが、中学三年の有望な選手を三人リストアップした。

スカウト枠は一つ。将来性を見極めるため、地元の占い師に尋ねた。


「三年後、一番速くなっているのは誰ですか?」


占い師は、最も記録の悪い少年を指差した。

「圧倒的にこの子です」


コーチは驚いたが、占い師の予言は一度も外れたことがない。

信じて、スカウトを決めた。


──だが、初夏の練習中。少年は熱中症で倒れた。


夢の中で、彼はただひたすらに走り続けていた。

足音はやけに軽く、視界は低く、地面が近い。そして、異常に速くなった。


「なぜ?こんなに……?」と、ぼんやり考える。

次に目を覚ましたとき、鼻先に土と草の匂いがあった。


そして、占い師の予言は見事に的中する。


三年後。彼は100メートルを7秒で走り、世界最速となった。


──犬として。

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