第2話 許してくれとは言わない
「これと言って以上はなさそうですね。寝起きだったそうですし、夢と現実が曖昧だったのでは...」
俺、井上タクミは事故で意識を失い、大好きだったゲーム「わたあい」の世界にお邪魔モブの日向雄介として転生してしまった。
そして今、俺は病院にいる。朝起きたら日向の体になっていたことに気づき、つい叫んでしまったのが親に心配されて連れてこられてしまった。
「先生!ほんとに、本当に雄介は大丈夫なんですね?間違い無いんですね?もし何かあったら...」
(それにしても心配性だな明子ママ、そういや過保護って設定だっけ)
日向明子、父との再婚で雄介の母となり、以前の旦那との間の子で遥という娘がいる。若い頃に結婚、出産をしており、今でもだいぶ若く見える美人人妻である。そして甘やかし系ママという設定がファンの間で密かに人気になっているキャラで「明子ママ」の愛称で知られている。)
「お母さん、大丈夫ですから。雄介くんも記憶も意識もはっきりしてますから、そんなに心配しなくてもいいんですよ。」
記憶に関しては前世にみた雄介の設定を覚えていたし、朝見た夢のおかげで問題なく受け答えは行えた。これで俺が日向雄介本人では無いことがバレることはないだろう。
「大丈夫なんですね?あなた、間違いなく自信を持って確実だと思えるから言ってるんですね?本当に____」
「ちょ、母さん!もういいから!さっさと帰るぞ」
「あ、ゆうちゃん!」
流石に詰められ続ける医者が気の毒に思えてきたので、明子の手を引き早々に切り上げさせることにした。
(許せ、名も知らぬ医者...)
診察料を払い、さっさと車に乗り込んだ。
「ごめんなさいゆうちゃん、でもねママゆうちゃんのことが心配で...」
「あぁうん、わかったから」
う、うぜえ...。そりゃグレるわ、日向みたいな性格のやつにここまで母親が干渉してきたら反発したくもなるわな。にしても...
(若いなぁ、中学生の娘いるから見た目ほどじゃないにしても。ゲームだと一瞬映るくらいだったし、設定資料集にも容姿に関しては言及がなかったからわかんなかったけど、こう近くで見てみたらめっちゃ美人だな。大学生くらいに見えんこともない)
「ゆ、ゆうちゃん?ほんとに大丈夫?いつもママのことあんまりみてくれないのに。それにさっきママのこと「母さん」って...。」
(あ、やべっ、迂闊すぎたか..俺は今日向雄介、日向雄介〜...)
「べ、別に見てるわけじゃねーし。それにあれだ、母さんってのはほら...、と、とにかくチョーシのってんじゃねーぞマジで」
「そ、そうよね。ごめんなさい、ママまたゆうちゃんに迷惑かけちゃって」
(...危ねぇ、なんとか取り繕えたか。そっか日向親のことそんな好きじゃないからあんま見ることもしないのか、しかも普段は母親のことババア呼びだったとか盲点だったぜ。明子ママこんな若いのに...。てかさっきっからずっと謝ってんな明子ママ、なんかしたっけな?)
「も、もう迷惑かけないから、殴るのはやめて欲しいの。痣が残っちゃうと警察さんに目つけられちゃうから...」
「....。」
(殴ってるってマジか〜。)
日向の素行の悪さも親への態度の悪さもなんとなくだが理解してたつもりだった。だけど、気に食わないからって親に暴力を振るってたとは思わなかった。親だって愛故の行動だってのに...
(俺は日向本人じゃないとバレないようにしたい、そうじゃなきゃどうシナリオに影響が出るかわからんからだ。だけど母親に、自分を大切に思ってくれる人に気に食わなけりゃ手を上げるような人間と思われ続けてほしくもない)
俺はそう思うと自然と明子の頭を撫でていたた。明子は殴られると思っていたのか、頭を撫でる俺を見て何が起きているのか理解できていない様子だった。
「ゆ、ゆうちゃん、これは...?」
「まぁ、その、なんだ、悪かったよ色々と。俺も多少なりとも殴ってきたことに罪悪感みたいなもんくらい持ってる。これで許せなんて言わないけど、変わりたいって思ってることはわかって欲しいんだ。」
俺はそう言い終えると、そっと手を離した。明子は名残惜しそうに俺の手を見つめている。
(くそっ、やっぱかわいいなこの人。母親じゃなかったら襲ってるぞほんと)
そこからはなんだか微妙に気まずい雰囲気が流れ、無言で家路に着くのだった。
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