第3話 日向明子という女
私、日向明子(旧姓:小野明子)は再婚相手家族が嫌いだった。そもそも、なぜ私が日向家と結婚したかというと、前の夫の残した借金が原因だった。
夫は毎日ギャンブル漬けの生活を送り、まともに生活費を家に入れないのに借金ばかりを作ってくる。娘の遥が生まれてからは更に生活が困窮していった。
私も若かったのだ、顔がいいだけな男を選んでしまった故の結果だと後悔する日々が続いた。
ある日、旦那が消息を絶った。闇金にも手を出していたからそこの元締めに目をつけられていたのだろう。しかし、夫が消えてからも生活が向上することはなかった。あの男、連帯保証人を私で契約していたのだ。死んでからも迷惑をかけてくるなんて許せない、とも思ったが、死んだ人間を一々恨んだところで何も変わらないから夫について考えるのはやめた。
転機が訪れたのはスーパーで働いていた時のこと。私より一回りほど年上そうな男性が声をかけてきた。
「君、この後暇かい?」
明らかに下卑た目で私をみてくる男の誘いなんて断りたかったが、身なりの良さから相当な金持ちなのではと睨み、近づくことにした。
...話を聞き思った、この男はクズだと。要約すると、男は疲れ切った顔で働く私が金に困っている人間だと見抜き、その上好みの顔だったから近づいたのだという。まさかここまで真っ直ぐなクズとは思わなかった。身なりの良さも性格から見るに上に立てる人間ではない。ただ運だけで生きてきたのだろうということがありありと浮かんだ。
「で、どうするんだね?君は金がなく、私は金を持っている。君は娘一人満足に育てきれる環境をもたないが私なら用意できる。もう言わずともわかるだろう?」
いちいち癪に触る言い方をしてくる。が、実際そうだ。この男の言う通り、私にはまだ幼い遥を育て上げられるほどのお金を持っていない。身内は助けてくれず、借金返済に追われる日々。それを抜け出せるなら私は悪魔にだって魂を売る。そう思い、私は首を縦に振った。
愛の無い結婚生活など慣れているとたかを括っていたが、初めから愛情の無い関係というのは思っていた以上にストレスを感じるみたいだ。その上、親も親なら子も子なようで義理の息子、日向雄介は父親に似て一々頭に来るクソガキだった。だが耐えなければいけない、あの男、息子だけは大事にしているようで息子が問題を起こしてもすぐに金でねじ伏せる。私は悟った、機嫌を取らねば次に消されるのは私たちだと。
その日からというもの、私は馬鹿な母親を演じた。自分の子供をちゃんつ付けなんて遥にだってしたことはない。だがそんな姿勢を気に入ったのか、はたまた愛情を抱き始めたと思われたのか男は私たちにも優しく接し始めた。このまま近い距離で甘やかせば遥にもいい思いをしてあげられる。そう思っていたのに...
雄介が中学に上がり出してから素行の悪さに拍車がかかった。何度も警察の世話になり、その度男が金で揉み消す。雄介の態度の悪化は何が原因だったのかよくわからなかったが、ストレスを感じるなら今以上に甘やかそうと思っていった。
中学3年生に進級する頃にはすっかり体格が良くなった雄介は未成年に見えないルックスで外で女性と遊びまわっていた。蛙の子は蛙、あの男と同じように女と遊ぶ雄介の姿を私はより一層嫌いになっていった。だが、雄介の女遊びは遊びの域を越え始めていた。
「親父ぃ、俺こないだ逆ナンされてよ、そのままホテルで抱いてやったんだわ」
「ほう、それはいい。父さんにも教えなさい、金なら言い値を出すぞ」
ニタニタと笑いながら話す二人に、私と遥は内心驚愕を隠せなかった。いくら体格が良くて年齢離れした容姿といえど雄介は中学生だ。こんな歳でそんなこと...と思ったが、私に注意する権限などなくただ黙って食事を済ませるのだった。
...あの時注意していればと思った。雄介が一人の女性を妊娠させてしまったのだ。男は孫ができたなんて能天気に言っていたが、私は我慢できずにこう言ってしまった。
「ゆう...ちゃん!あなた、女性を妊娠させるなんてなにかんがえてるの!?あなたはまだ中学生でしょ?子供は堕してもらうようにママたちが相談するk」
バチンッ!
何が起きたか理解が遅れたが、どうやら私は殴られたみたいだ。
「ババアがでかい顔して文句言ってんじゃねえよ」
そう言って雄介は家を出た。また遊びに行くのだろう。もう私は疲れてしまった
あれからしばらく経ち、ゆうちゃん呼びも慣れてきたいつもの朝、私は雄介を起こそうといつものように呼びかける。
しかし今日はなんだかいつもと様子が違った。いつもならここで「うるせえ」くらいの罵倒が飛んでくるものなのだが今日はやけに静かだ。部屋に向かう、ドアを開けて中に入るともう目が覚めている様子、しかし何か違和感を感じる。
「もうゆうちゃん!朝ごはんできてるんだから、早く降りてらっしゃい。ママもうお仕事だから遥と一緒に食べるのよ。」
「は、はるか?てか、ゆうちゃんゆうちゃんて...」
「もう、寝ぼけてるの?あなたは雄介、遥はゆうちゃんの妹でしょ?」
「は?」
寝ぼけているのかと思ったが違う、本当に混乱しているようで部屋を見渡し、鏡を見たと思うと
「日向雄介じゃねえかぁぁぁ!!!!」
叫び出した雄介に私も驚く。
「え!?ちょ、ゆうちゃん!?」
その後もブツブツと何か言うものだから私は病院へと急いだ。
(雄介に何かあれば、せっかくうまくいっている家族関係が崩れてしまう!)
医者は特に問題ないなんて言っていたがあの様子は明らかにおかしかった。そのことを問い詰めようとした時
「母さん!」
(え?か、母さん?私を面倒くさい女くらいにしか思っていない雄介が母さん?)
驚く私の手を引き、さっさと私を車に乗り込ませる雄介。
(もしかしたら怒ってる?また、殴られる!)
必死に弁明しようとした。が、どうやらそこは気にしていないようで、何か誤魔化すような口ぶりにやはり違和感を感じる。
(やっぱりどこかおかしいんじゃ...、きっと油断した私を殴って反応を見ようと....)
すると雄介は私の頭に手を伸ばしてくる。
(あぁ、やっぱり...)
しかし、思っていたこととは裏腹に雄介は私の頭を撫で始めた。何が起きたのか理解できなかったが、雄介は続けた。
「まぁ、その、なんだ、悪かったよ色々と。俺も多少なりとも殴ってきたことに罪悪感みたいなもんくらい持ってる。これで許せなんて言わないけど、変わりたいって思ってることはわかって欲しいんだ。」
変わりたい、そんな言葉が、まさか雄介の口から聞くことになるとは思わなかった。そしてなにより、雄介の手だ。大きくて硬くて、昔はあんなに小さかった雄介が気付けばこんなに成長していたのかと不覚にも私は母性を感じてしまった。しばらくして離された手を私は名残惜しく見つめ、帰り道はすごく気まずい雰囲気となるのだった。
(な、なによなによ!いきなりあんな事するなんて!母さんなんて私雄介から初めて言われたわよ!愛なんてないはずなのに、な、なんなのよこれ〜///)
運転中、内心バクバクで車を走らせ事故りそうになるのはまた別の話
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あとがき
つ、疲れた...。明子ママのストーリー思いついたから描いてみたら思ったより長くなってしまった。次妹に行くかヒロインに行くか悩みちう。次回もサービスサービス!あ、言い忘れてたけど明子ママ(36)でクソ親父ぃ(50)ね。
今回も駄文スマソ
by犬好
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