第5話 愛を壊しに来ました

翌朝、真一は妙な胸騒ぎで目覚めた。


昨夜、最後の住人リリスが越してきた。挨拶代わりのキスの感触が、まだ頬に残っている。


外から楽しげな声が聞こえてきた。窓から覗くと、4人のやべー女たちが集まっていた。


「みんなで朝食会をしましょう♪」


リリスの提案らしい。今日は赤いワンピースドレスを着ていて、胸元の大きく開いたデザインから谷間が情ましいほど見えている。スリットの入ったスカートからは、歩く度に太ももがチラリとのぞく。


「私は遠慮するわ」


セラフィーナが冷たく言った。


「どうして?せっかくのご近所さんなのに」


「あなたからは、不純な気配がする」


「あら、褒め言葉かしら♪」


リリスは妖艶に微笑んだ。


* * *


結局、真一も朝食会に参加することになった。


場所はエリザベートの提案で、共有スペースとして使える中庭。


「改めて自己紹介しましょうか」


エリザベートが仕切り始めた。


「私はエリザベート・フォン・デッドハウス。この物件の管理をしています」


「セラフィーナ・ホワイトブラッド。世界平和のために活動中」


セラフィーナは相変わらず純白のローブだが、朝日の中ではその布地が透けて見え、スレンダーな体のラインがうっすらと浮かぶ。長い銀髪は今日は編み込みにしており、細い首筋が露わになっていた。


「アルケミア・ブラックポーション!不老不死薬の研究してる!」


アルケミアは今日も白衣だが、ボタンを上の方しか留めておらず、お腹がチラリと見える。ミニスカートの下にはピンクのパンツがチラリ。座る度にスカートがずり上がり、慌てて直す仕草が妙に色っぽい。


そして。


「リリス・ハートブレイカー。愛について研究してるの♪」


愛の研究。なんとなく不穏な響きだ。


「真一さんは?」


リリスが真一に視線を向けた。


「佐藤真一です。特に何も...」


「謙遜しないで。不死身なんでしょう?」


どうして知っているのか。


「みんな知ってるわよ」


エリザベートがあっさり言った。


「私が教えたから♪」


「プライバシーとは」


* * *


「ところで、リリスさんの愛の研究って?」


アルケミアが興味深そうに聞いた。


「簡単よ。愛の形を観察して、記録して、そして...」


リリスは意味深に微笑んだ。


「壊すの♪」


「壊す?」


「ええ。本物の愛を見つけるには、偽物を全て壊さないと」


また危険な思想の持ち主だった。


「例えば」


リリスは立ち上がり、真一の隣に座り直した。


「真一さんには恋人はいる?」


「いえ、いません」


「じゃあ、好きな人は?」


「それも特に...」


「つまらない♪」


リリスは真一の腕に自分の腕を絡めた。柔らかい感触と、甘い香り。豊満な胸が真一の腕に当たり、その柔らかさにドキッとしてしまう。髪から漂うシャンプーの香りも官能的で、思わずクラクラしそうになる。


「じゃあ、私が恋人になってあげる」


「は?」


「そして、あなたが私に本気で恋したら...」


耳元で囁く。


「他の女の人に乗り換えるの♪」


* * *


「何それ、ひどくない?」


アルケミアが口を挟んだ。


「ひどい?どうして?」


リリスは不思議そうに首を傾げた。


「それが本物の愛じゃなかったってことでしょう?」


「いや、理屈が」


「私、今まで237組のカップルを破局させたわ」


さらっと恐ろしい実績を口にした。


「でも、まだ本物の愛は見つからない」


「当たり前よ」


セラフィーナが口を開いた。


「愛なんて、所詮は生物の本能。子孫を残すための」


「あら、聖女様は愛を否定するの?」


「否定はしないわ。ただ、過大評価してるだけよ」


二人の間に、火花が散った。


* * *


「真一さんはどう思う?」


急に話を振られた。


「愛って、何だと思う?」


リリスの瞳が、真一を見つめる。その瞳の奥に、何か寂しげなものが見えた気がした。長いまつ毛が影を作り、妙に艶めかしい表情になる。薄く開いた唇からは、甘い息が漏れていた。


「わかりません。でも」


「でも?」


「壊して確かめるものじゃないと思います」


リリスは一瞬、驚いたような顔をした。


そして、くすりと笑った。


「面白い答えね」


「私もそう思う!」


アルケミアが賛同した。


「愛は実験対象じゃない!多分!」


多分かよ。


「でも、血液は実験対象♪」


「それは別の話でしょう」


* * *


朝食会は、予想外に平和に終わった。


しかし、真一は確信していた。


この4人が集まったことで、更なる混沌が始まると。


「ところで」


解散間際、エリザベートが言った。


「来週、この地区で冒険者パーティーの合同訓練があるんです」


「冒険者?」


「ええ。モンスター討伐のプロたち」


なぜかエリザベートは楽しそうだった。


「きっと、いい物件を探してるはず♪」


「まさか、また売りつける気?」


「もちろん♪」


「私は浄化対象が増えるだけね」


セラフィーナは興味なさそうだ。


「実験体候補!」


アルケミアは別の意味で興奮していた。


「ふーん、パーティーかあ」


リリスは意味深に微笑んだ。その笑みで頰に小さなえくぼができ、妙に可愛らしく見える。しかし、その笑みの裏には、何か危険なものが潜んでいるような気がした。


「壊し甲斐がありそう♪」


真一は頭を抱えた。


冒険者パーティーが来たら、間違いなく大惨事になる。


やべー女4人vs冒険者パーティー。


その戦いの予感に、真一は今から胃が痛くなった。


こうして、ダンジョンサイドレジデンスの日常(?)が始まった。


4人のやべー女たちに囲まれた、真一の受難の日々が。


しかし、真一は気づいていなかった。


4人のやべー女たちが、それぞれ違う形で、真一に興味を持ち始めていることに。


エリザベートは「生存率30%の物件で生き残る客」として。

セラフィーナは「浄化する必要のない純粋な魂」として。

アルケミアは「最高の実験体」として。

リリスは「なぜか心が動かない謎の男」として。


真一を中心に、4人の思惑が交錯し始める。


朝食会の後、真一は自分の部屋に戻って一息ついた。窓の外を見ると、エリザベートが不動産のチラシを作っている姿が見える。スーツ姿でもボディラインがわかるほどスタイルが良く、仕事に集中している横顔は意外にも真剣で美しい。


その向こうでは、セラフィーナが浄化の儀式の準備をしている。膝をついて祈る姿は本当に聖女のようだが、地面に描かれた魔法陣が不穏に光っているのが怖い。


アルケミアは実験室で何かを煎じているようだ。時折、カラフルな煙が立ち上り、小さな爆発音が聞こえる。その度に「きゃっ!」という可愛らしい悲鳴が上がるのが、妙に萌える。


リリスは自分の部屋のバルコニーで、ヨガのようなポーズを取っている。体にフィットしたレオタード姿で、その艶めかしい曲線が余すことなく显になっていた。


それは、世界の運命すら変えかねない、壮大な物語の幕開けだった。


【次回予告】

冒険者パーティーがついに到着!

しかし、やべー女たちの前では正義の味方も形無し!?

「えっ、私たちが悪役!?でも別に困らないわ♪」

第6話「やべー女vs冒険者パーティー」へ続く!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る