第15話
あの休日以降、私は毎日訓練場で、魔法の訓練をしていた。
それも、アビスによると、どうやら悪魔族との会談が来週あるらしいのだ。
あくまで会談……戦闘にはならないとは思っているが、話の内容が内容だ。何が起こるか分からない。
相手がどれほどの戦力を持っているかも分からない以上、ただひたすらに鍛錬を積むしかないのだ。
私は今まで、まともに魔力を使ってこなかったから、体内にある魔力は微々たるものだったが、それでも毎日訓練しているうちに、徐々に魔力が増えてきているのを感じた。
今はとにかく、暴発してしまわないよう、放出する魔力の調整、体内魔力量の増加に力を入れている。
コントロールや威力等は、それらが備わってからにしようと思っている。
そして、ついに明日が、悪魔族との会談の日。
今日は、護衛仲間の皆で訓練場に来ている。
アビスとともに向かうのは、私とランスだけだが、その内容が重いだけに、皆も少し殺気立っているのだろう。
普段あまり訓練をしないトクシーでさえ、自ら訓練場にやってきたのだから。
「あぁぁああ! 刻!」
セヴァーは魔族サンドバッグを、悪魔族に設定して訓練をしていた。
両手を鋭い爪を交差させるように振るうと、サンドバッグはサイコロのように細切れになって崩れた。
「はぁあ――悪魔族め! この平和な国で暴れやがって!」
セヴァーは特に悪魔族に対する怒りを見せていた。
「そんなに凶暴だから、今回魔王様に選ばれなかったんだよ?」
「じゃかましいボケ! 分かっとるわ!」
ランスの煽り口調に、セヴァーがキレていた。
「はぁ〜疲れた〜甘いもの食べた〜い」
「そうだね〜」
「あ! イルミナ〜、私たち休憩するから、練習してていいよ〜!」
「うん、ありがとう」
アビスが魔族サンドバッグを壊してしまって、残り3つになってしまったから、全員が同時に練習することは出来ない。
そこで、私たちは交代交代で使うことにしたのだ。
「えっと……どれにしようかな……」
私は水晶を操作して、設定する魔族を選ぶ。
そこで、私の目に『悪魔族』の設定が映った。
悪魔族……攻撃性能には優れるが、耐久力は魔族の中でも高い方ではないか。
動かない魔族サンドバッグならば、私の魔法でも仕留めることが出来るだろうか?
また、悪魔族との会談は明日。
実力を確かめるのにちょうど良いと思った私は、設定を悪魔族にして、サンドバッグから距離をとった。
「ふぅ……」
私は深呼吸をして、体から力を抜く。
「
そう口にすると、私がサンドバッグに向けた5本の指先から、光の弾が現れ、それらが凄まじい速度で突き進み、前方の悪魔族の体に食らいついた。
ただ、5発中、体に命中したのは3発……。
これは訓練をしていくうちに、精度を上げていかなければならない。
だが、やはりアビスの教えのおかげで、あれ以降、魔力が暴発するといったことがなくなった。
悪魔族の体に食らいついた閃光弾は、これだけでは終わらない。
体に食らいついた直後、眩い光を発しながら、体内で爆発した。
辺りには砂埃が舞い上がる。
「あ……やった――」
砂埃が晴れた時、ふと前を見ると、サンドバッグが爆散していた。
つまり、今の一撃で致命傷になるダメージを与えられたということ。
「えっ!? イルミナ凄〜い!」
私は別に、威力を上げる訓練などはしてこなかったのだが、それでも最初と比べて確実に強くなっていることを、ただただ嬉しく思った。
「ふぅ……あ、あれ……」
魔力切れが起こらない程度で、もう一度だけやろうと思って顔を上げたその時、私の視界がグランと揺れた。
「うぅっ……」
私はそのまま平衡感覚が鈍くなり、何もないその場で転んでしまった。
「えっ!? イルミナ!?」
「イルミナ! 大丈夫っ!?」
そんな私の異変にいち早く気づいたトクシーとリシアが、すぐに駆け寄って私を心配してくれた。
「うっ……なんか、頭がクラクラする……」
「ん〜、危なかったね。さっきのをちょっとでも威力上げてたら、イルミナ魔力切れしてたよ」
すると、そこにランスがやってきてそう言った。
そういえば、ここに皆がやってくる前から、私は一人で先に訓練をしていたのだった。
主に剣の練習をしていたのだが、やはり明日のことを考えて、一回だけ魔法を放ったのだ。
皆が来たことで、なぜかその事をすっかり忘れていて、いつもより多く魔法を放ってしまったが故に、こんなことになってしまった。
「イルミナ……大丈夫――?」
「うん……ちょっとだけ休憩……」
「いや、今日はもうやめておいた方が良いね」
日陰で休もうと立ち上がる私に、ランスがそう言った。
「でも……」
「明日のためだって言うなら、今日はもう部屋でゆっくりした方がいいよ」
確かに、このまま無理して、万が一体調を崩してしまったら、アビスに限らず皆に迷惑をかけてしまう。
私はランスの意見に納得した。
「それじゃあ、ごめん皆。私、先に戻るね」
「うん! 気をつけてね!」
「お大事に〜」
心配する皆に見守られながら、私は一人訓練場を後にした。
あれから私は自室に戻ると、どっと体に疲れが押し寄せ、そのままベッドで、気絶するように眠ってしまった。
きっと、もう体が限界を迎えていたのだろう。
ランスの言う通りにして良かったと、心の底からそう思った。
そうして、目を覚ました時には、外はオレンジ色に染まっていた。
「ん〜っ――今何時だ……?」
そうして時計に目を向けると、時刻はちょうど午後5時を回っていた。
「あれ……5時――あっ!!!」
その時、私はあることを思い出した。
そう、今日の午後5時に、執務室に来るようアビスに言われていたのだ。
私は急いでベッドから飛び起きて、部屋を出る。
執務室まではそれほど遠くないが、もう5時を過ぎているから、確実に遅刻だ。
私は廊下を一気に駆け抜け、執務室を目指した。
そうして執務室にやってきた私は、扉をノックして中に入る。
「おぉ、イルミナ。大丈夫だったか?」
「はぁはぁ――ごめんなさい――」
「ん? はっはっは! 気にするな! 体調が悪かったのだろう? 責めるつもりなどないから、安心してくれ」
体調が悪かったとはいえ、元はと言えば私が体調管理を出来ていなかったことによるもの。
私は申し訳なさで胸がいっぱいになった。
すると、アビスが目を鋭く光らせ、執務室には厳かな雰囲気が漂う。
「2人を呼び出したのはもちろん、明日の会談の件だ。明日の午後2時から、悪魔王城内で、幹部のティールという男と会談をする。もちろん私は争う気はないし、何も起きないことを願うが、相手は悪魔族だ。何をしてくるかは分からない。もしかしたら私の命を狙って攻撃を仕掛けてくるかもしれないが、なるべく面倒事は避けたい。だから2人には、もし相手が攻撃を仕掛けてきたとしても、なるべく殺さないようにしてもらいたいのだ」
アビスからの要件はこれだった。
確かに、仮に相手が仕掛けてきたとして、安易に殺してしまっては、国を巻き込んだ大きな戦争に発展する可能性もある。
「承知しました。逃げることを最優先で、ですね」
「分かった」
だが、私は今のアビスの話を聞いて、1つ疑問に思ったことがあった。
「アビス……1つ質問をしても良いか?」
「ん? どうしたイルミナ?」
「今回の内容は、人魔帝国アビスでの悪魔族に対する規制についての話だったと思うのだが、それなら相手国の魔王と会談するべきではないのか?」
「あぁそうか、イルミナは悪魔族の内部事情を知らなかったな。これはすまなかった。実はな……」
そう言って、アビスは悪魔族の内部事情とやらを話し始めた。
どうやらアビスによると、今現在、悪魔族の魔王ディンメルは、老齢であるが故に、もはや魔王として機能していないらしく、悪魔族では、後継者争いをしている最中なのだとか。
その中でも特に力を持つ、ブラッドとサモンという2人が後継者の候補に上がり、現在悪魔族は、ブラッド派とサモン派で割れているのだとか。
内部紛争もそこそこ起こっているらしいが、潰し合えば、どちらかが魔王を受け継いだ後、国力が著しく下がってしまう。
それで、物理的な力ではなく、国への貢献度や話し合い等で決めようとしているらしいのだが、それがかれこれ1年近く続いているのだと。
「そうだったのか――」
「あぁ、それで今回会談するティールという男は、ブラッド派だ。もしかしたら私の命をとることで手柄を上げようとしているかもしれない。もしそうならば、会談中かその後に戦闘になる可能性も高いと言えるだろう。だから2人とも、よく備えておくように……」
「「はい」」
こうして話を終えた私たちは、執務室を後にした。
そのまま私たちは、護衛控え室に向かう。
控え室に向かう途中、ランスが私にとって声をかけてきた。
「イルミナ、体調大丈夫? もう治った?」
「あぁ、かなり寝たからな。もうだいぶ回復した」
「俺がゲートで迎えに行ってあげれば良かったね、ごめんね」
「えっ!? いやいやいや! 全部私の自業自得だから! 謝らないでよ!」
そんな会話をしているうちに、私たちは控え室に着いた。
扉を開けると、中にはトクシーにリシア、セヴァーも、全員揃っていた。
控え室に入ると、皆が私たちの元に駆け寄ってくる。
「イルミナ〜! 良かった〜! 治ったんだね〜!」
「う、うん。心配かけてごめん」
「明日行っちゃうんだよね。気をつけてね」
「そうじゃん! 絶対無事で帰ってきてよぉ!」
「おいゴラァ! ランスてめぇ! どんだけ俺を待たせんだよ! すぐ戻るって言っただろうが!」
「あはは。どうせやってもまた僕が勝つんだから同じでしょ」
「んだと〜!?」
こんな皆との日常がまた送れるよう、明日は何事もないと良いのだが……。
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