第11話

「よし……準備OK」


 私は朝の支度を済ませると、休日用の私服ではなく、戦闘服に着替える。


「はぁ……私、2人の気分悪くさせてないかなぁ……」


 私は一つため息をついて、そう思い悩む。

 そう、あれは昨日の夜、3人でベッドに入った時のこと。




「ねえねえイルミナ!」

「ん?」

「明日リシアと、街に遊びに行くんだけど、良かったらイルミナも来ない?」

「街に遊びに――?」

「そう! 美味しいもの食べたり、お買い物したり!」


 そういうものを遊びに行くというのか……。

 正直、今まで街に仕事以外で出たことがなかったから、私は全然知らなかった。


「どう? イルミナ?」


 リシアからも声がかかる。

 正直、ものすごく行きたかった。

 リシアとトクシーは、同じ仕事仲間だが、この魔王軍に入って、人生で初めて出来た友達だ。

 そんな友達と、街に出かけるなんて、楽しいに決まっている。


 だが、私には他にやりたいこともあった。

 そう、それが、魔法の訓練。

 やはり実際に、魔族と戦ってみて分かった。

 これから先、魔王の護衛として働くなら、魔法が使えないと皆に追いつけないということを。


「……」

「ん? イルミナ? 大丈夫?」

「……あぁ、ごめんね。ちょっと私、明日やりたいことがあって――」

「やりたいこと――?」

「うん――ちょっと訓練を……」

「え〜!」


 そう言うと、トクシーが少しガッカリしたような表情を見せる。

 そして、トクシーが私の肩を掴んでユラユラと押す。


「いいじゃん! イルミナは十分強いんだからさぁ、行こうよ〜!」

「あはは……でも……」

「せっかくの休みなんだからさぁ! 行〜こ〜う〜よ〜!」

「トクシー」


 その時、リシアがトクシーの名を呼んだ。

 リシアの目は、真剣そのものだった。

 きっとリシアは、昨日相談したこともあってか、私のことを理解してくれていたのだろう。


「分かったよぉ……」

「トクシー……」


 そう言って、トクシーは布団にくるまって、反対側を向いて寝てしまった。




 友達関係は大事だが、ここで遊んでしまっては、後々皆に迷惑をかけるかもしれない。

 私はあまり深く考えないようにして、自室を後にした。


 そうして、一昨日もやってきた護衛専用訓練場の扉を開く。

 今日は剣は使わないから、剣を壁に立てかけ、魔族サンドバッグの準備をする。


「よし出来た――」


 サンドバッグの操作や設定は意外と簡単で、初めて操作する私でも理解できた。

 セヴァーは教えてくれていなかったが、どうやらこの魔族サンドバッグ、襲ってくるようにも設定できるらしい。

 より実践向きな訓練が出来るというわけだ。

 まぁ、私はまだ魔力の放出もろくに出来ないから、剣の練習をする時とかにでも使わせてもらおうと思う。


 きっと私の魔力では、上手く放出出来たとしても、ウェアウルフに致命傷を与えるほどの攻撃は出来ない。

 だから、まずは1番下のスライムに設定した。

 小さくて狙いづらくはあるが、ダメージを測るのなら、下から順にやっていくのが良い。

 早速私は、一昨日と同じように、スライムから10メートルほど距離をとって、手を前に出して構えた。


「ふぅ……」


 一昨日は皆に見られて緊張していたが、今回は誰もいない。

 とりあえず落ち着くために、一呼吸おいて、私は手に力を込める。


「グレア――っ!?」


 魔力を放出しようとした直前、私は一昨日と同じように、手の先に熱を感じ取り、即座に手を下ろした。


「はぁ……はぁ……危なかった――」


 最悪は暴発して、手が火傷したとしても、倉庫には回復薬があるから、応急処置は出来るのだが、回復薬だって魔王軍の備品。

 私一人で何個も使うわけにはいかない。

 それに、暴発するということは失敗ということなのだから、それでは訓練にならない。

 なるべく暴発しないような方法を模索しなければ……。


「うぅん……あっ、そういえば――」


 その時、私は少し昔のことを思い出した。


 確か魔法というのは、イメージが大切だと聞いたことがある。

 これは剣にも通ずるものがある。

 一流の剣士が物を斬る時、斬れるというイメージをすることが多い。

 刃先が物体の途中で止まってしまうのならば、斬れるというイメージをすることで、確実に刃が通り抜ける角度を見つけることが出来る。

 さらには筋肉や神経。

 剣は自らの腕と一体化していると考え、剣にも筋肉や神経が通っているとイメージすれば、自ずと最適な力の入れ具合が見つかることがある。


 体を流れる魔力は、血管を流れる血と同じ。

 手先から魔力を放出したいのなら、手先に魔力を集めるイメージをし、やがて解放する……解放……脱力……はっ!


 その時、私が今まで暴発してしまっていた原因が分かったような気がした。

 思い立ったらすぐに行動に移さなくてはと、私は再びスライムに向かって手を構える。


「まずはイメージ……」


 そう、手先に魔力が集まってくるのをイメージする。

 すると、暴発するほどでは無いが、僅かに手先に熱が帯びるのを感じた。


「すぅ〜はぁ〜……ここで脱力……」


 手から力を抜き、ついに私は魔力を全開放する。


閃光波グレアブラスト……」


 あとは脱力しながら魔力を放出するだけ……というその時だった。


「イルミナ! ここにいたのか!」

「なっ!? アビッ!?」


 集中していたはずなのだが、まさか誰か来るとは思わず、反射的にその声に反応してしまった。

 だが、それがいけなかった。

 私の手は、もう魔力を解放しようとする寸前。

 そこで、驚いて手に力が入り、筋肉を硬直させてしまったのだ。

 そして、次の瞬間――。


「きゃっ!?」


 またしてもパンッと弾ける音とともに、手に焼けるような痛みが走った。

 やはり一昨日と同じように、手のひらが真っ赤に爛れている。


「なぁぁぁあああ!! 大丈夫かイルミナァァアア!!!」


 アビスが必死の形相で、私の元に駆け寄ってきた。


「うぅっ――大丈夫……これくらい大したことは――」

「嘘をつくな! すぐに回復薬を持ってくる!」


 私の怪我を見て、アビスが叫ぶと、すぐに倉庫に回復薬を取りに行ってくれた。


「染みるか? 痛くはないか?」

「大丈夫だ……」


 回復薬のおかげで、私の手はまた、傷跡ひとつ残ることなく綺麗に治った。


「……ありがとうアビ……」

「すまないイルミナ!」


 すると、アビスが急に私に向かって、頭を深々と下げて謝罪し始めた。


「てっきり私は、剣の練習をしていると思っていたのだが、まさかイルミナが魔法の訓練をしていたとは知らずに、集中しているところに声をかけてしまった。本当に申し訳ない……」

「だ、大丈夫だ。怪我ももう治っているし、頭を上げてくれ」


 それから私たちは、訓練場のベンチに座って話をすることにした。

 私は気になっていたことを魔王に尋ねる。


「アビス、どうして私がここにいることを知っていたのだ?」

「あぁ、今日は休日だろう? そこで、トクシーとリシアが遊びに出かけると言うものだから、イルミナについて尋ねたら、リシアがおそらくここにいると教えてくれたもので、気になってな……」

「そうか……」


 少しの沈黙が流れた後、アビスが立ち上がる。


「訓練の邪魔をして悪かったな。私はもう城に戻る」


 そう言って、アビスはトボトボと扉の方に歩いていった。

 そんなアビスの背中を見て、私はあることを思い出す。

 そう、それは一昨日の夜リシアの言っていた『もし魔法が使えるようになりたいなら、魔王様に直接頼んでみると良いよ』という言葉だ。

 アビスは魔王。

 平日は常に忙しく、私なんかに魔法を教えられる時間などないだろう。


「アビス!」


 私は、教わるなら今しかないと思って、帰ろうとするアビスを呼び止めた。

 私は急いでアビスの元へ駆け寄る。


「どうした? そんなに急いで」

「はぁはぁ――そ、その……」


 ただ魔法を教えて欲しいと言うだけなのに、なぜ私はこんなにも緊張しているのだ。


「魔法の訓練に……付き合ってくれないか……?」

「うっ!?」


 すると、なぜかアビスは頬を赤く染めて、私から視線を外した。


「ううっ……もちろん! もちろん良いとも!」

「ほっ本当か!」

「あぁ! 付き合ったら、いずれお前と結婚までしてやる!」

「えっ? は、はぁぁぁあああ!? ち、違う! 付き合うってそう意味じゃ――!」

「はっはっは! 分かっている! 魔法を教えて欲しいのだろう? 任せておけ!」

「もう――!」


 いきなり変なことを言い出すからびっくりしたが、私はアビスに魔法を教えてもらうことになった。

 これから私は、魔王アビスの真の力を目の当たりにすることになる。

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